GID(性同一性障害)学会への「性同一性障害特例法を守る会」からの要望書

性同一性障害特例法を守る会は、GID(性同一性障害)学会の理事長、会長、副会長宛に要望書を送付しましたことを以下にご報告します。


追記 本日2024年1月19日、下記のとおり追加で送付しました。

1月18日付要望書につき、下記の通り修正いたします。宜しくお願い申し上げます。

  1. 文章の「8」の2行目につき、間違いがありましたので、修正させてください。下記の通りです。
    修正前:「手術を要求しない場合であっても、性ホルモンによる身体の適合さえも、不可逆なものではありません。」
    修正後:「手術を要求しない場合であっても、性ホルモンによる身体の適合さえも、可逆なものではありません。」

  2. 文書の末尾に下記を追加します。
    「この要望書記載の内容につき、1か月以内に、ご回答を頂けるよう求めます。」


1月18日、下記のとおり要望書を送付しました。

2024年(令和6年)1月18日

GID(性同一性障害)学会
理事長 中塚幹也   殿

性同一性障害特例法を守る会
代表 美山 みどり

1.私たちは性同一性障害特例法を守る会と申します。その名の通り、現行の性同一性障害特例法を守るために、当事者が主体となって2023年7月10日発足しました。その趣旨は同封の趣意書や、ホームページ(https://gid-tokurei.jp/)に代表らの紹介と手記などありますので、ご覧ください。また当会も加わっている「女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会」で先行した国々の状況等々を説明した冊子やいくつか声明を出していますので、ご参考までに同封します。

2.2023年6月16日に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」が制定されました。この法律の審議の中で、野党案を推し進めた団体などがその運動の中で、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」の改正、とくに「手術要件の撤廃」を主張し、その根拠として貴学会における声明を上げているという状況を深く憂慮し、危機感を持った当事者によって、当会は発足しました。

3.私たちはその後、最高裁で争われた性別適合手術の手術要件の維持を求めた署名活動を「男性器ある女性」の出現を懸念する女性団体などとともに行いました。貴学会の立場とは正反対の立場を、私たち当事者自身が当事者自身の利害の問題として主張しているのです。
 また女性や子供の安全という見地から手術要件の維持を求める女性団体とも、「手術要件のある特例法」こそが社会への責任を果たす唯一の解決策であると意見が一致し、これを維持する方向で世論に訴えてきました。
 私たちとしては残念なことに、最高裁では第4号の「生殖腺の除去」に関する条件が違憲と判断され、現在第5号のいわゆる「外観要件」が高裁への差戻によって改めて判断を待つ状態にあります。

4.私たちの会には、MtF も FtM 双方の会員、手術済・戸籍変更済の会員がおりますが、私たちはこの「生殖器除去」の違憲判決によって「よりよい状況になった」と喜んだでしょうか?それは違います。
 女性たちは「男性器がある法的女性」の出現に恐怖し警戒し、今まで合法的に手術をして戸籍性別を変更した私たちに対してさえ、強い攻撃がなされるほどに女性たちの態度が変化しています。このため、女性たちの間でも「特例法を完全に廃止し、戸籍の性別変更をまったく認めるべきではない」とする意見さえ、頻繁に聞かれるようになっています。
 最高裁では「それは偏見だから、研修・教育すれば何とかなる」という姿勢ですが、そういう「研修・教育」がLGBT活動家たちによる吊し上げめいた思想強制になるのではと恐れ、女性たちは強い反発をしているのです。これがこの判決がもたらした大きな変化だとすれば、この判決は情勢を大きく見誤ったものではないのでしょうか?

5.2003年の特例法ができたときには、「気の毒な人たちだから、生活の便宜のために戸籍の性別の変更を許してあげよう」と寛容な意見が世論の大半を占めていたのとは、まったく様相が変わったのです。いまや私たち性同一性障害当事者は警戒の目で見られ、「トランスジェンダー」とは性犯罪者の隠れ蓑である、という疑惑さえ投げかけられるような悲惨な状況さえ始まっています。
 さらに広島地裁が外観要件を違憲とする判断をしてしまえばどうなるでしょうか?現行の特例法の第4・5号の要件が違憲となることで、手術なしで、2名の医師の診断のみによって戸籍の性別変更が可能になることになります。
 この時に、医師による診断の社会的な影響が極めて重大なものになります。

6.しかし、現状で戸籍変更のための性同一性障害の診断書は、実務上医師でさえあれば書くことができてしまいます。貴学会による認定医は法令上の資格でさえもありませんが、審判に必要な診断書はその認定医のものであることを求められてもいないのです。また、戸籍変更の実務では、特例法の要件を満たす限り、特に裁判官の裁量によって変更を認めないという事例を耳にすることもありません。ならば、手術をしなくても、また、専門医でも何でもない街の医師による診断書による「戸籍の変更の申立て」がなされた場合でさえも、裁判官は戸籍の変更を認めざるを得なくなることでしょう。その場合に、いったい誰が戸籍変更に責任を持つのでしょうか?

7.現状では性犯罪歴や暴力犯罪歴がある場合でさえ、戸籍性別の変更に対する欠格条件ではありません。女性に対する性犯罪歴のある男性が、医師を欺瞞して性同一性障害の診断書を得、それに基づいて戸籍性別を女性にしたらどうなるでしょうか?そして女性専用スペースで女性に対する性暴力をふるった場合には、いったい誰が責任を取るのでしょうか。
裁判官でしょうか?欺かれた医師でしょうか?
 また現状では「戸籍性別の変更の取消」の手続きさえ存在していません。当然そのような悪意あるケースにおいては、戸籍性別の変更の取り消しと、そのような診断を行った医師の資格の取消が要求されるべきであり、またそのような審判を行った裁判官の責任が追及されるべきではありませんか。
 さらには性暴力の被害者からの、診断を行った医師に対する民事訴訟の可能性も否定できないでしょう。

8.また、性別移行のハードルが下がることによって、安易に性別移行を「試して」しまうケースも十分に考慮すべきです。手術を要求しない場合であっても、性ホルモンによる身体の適合さえも、不可逆なものではありません。まして中途半端な状態で戸籍の性別を変えてしまい、それでも移行先の性別に馴染めないケースも多発するでしょう。その場合に、法的にも元に戻せず、また身体的にも元に戻せないという最悪の事態に陥ることになります。これを「自己責任」として切り捨てていいのでしょうか?
 安易な移行をして後悔する人々は、水面下では現状でもかなり数多いものと思われます。単に性ホルモンによるものであっても、その身体変化は不可逆で甚大なものですから、悲惨な目にあうことも多いのです。FtM では低くなって男声になって戻せない、乳腺除去をしたために、妊娠出産ができたとしても授乳ができない、MtF では女性ホルモンによる睾丸の萎縮と受精能力の不可逆な喪失。またホルモン療法の身体的副作用による内臓へのダメージや、心理的な不安定化により自殺を試みるなど、性別移行医療はけして安易に「試してみる」では済まない深刻なリスクのある「医療」なのです。

9.専門医でありながら「脱医療化」を目指している、というような言動が見られる医師も、貴学会には見受けられます。その影響からか、貴学会のホームページによれば、貴学会は、その名称を医学的な定義に基づいた概念であった「性同一性障害」を扱う団体から、「トランスジェンダーの健康学会」などとその団体としてのアイデンティティを変更しようとお考えのようです。
 しかし、それは医療に真剣に向き合あってその責任を負うことから逃げようとしているのでは?と、当事者の目からは私たちを切り捨てる動きとして懸念材料でしかありません。
 私たちは「性同一性障害」という医学的概念が医学界では「古くなった」と言われてさえも、その概念が自分たちに一番ぴったり合った概念だと感じています。なぜなら、私たちが求めるものは、人権である以上に、安全で医学的エビデンスに基づいた医療なのですから。人権を重視して安全でもなくエビデンスもない医療が横行するのならば、私たちは絶望するしかないのです。
 貴学会が名称変更しようとすることによって、私たち当事者は「見捨てられた」としか感じません。私たちは「脱医療化」を求めるのではなく、「よりよい医療」を求めるのです。私たちが求めるのは性別移行医療の「美容手術化」ではなく、専門医が医学的エビデンスに責任を持った真剣な医療なのです。これを「自己責任」として当事者に責任を押し付けるのならば、私たちは確実に不幸になるだけなのです。

10.「脱医療化」は、私たちが切実に求める「性ホルモン医療の健康保険適用」を妨害する可能性を否定できません。「病気や障害でないのなら、なぜ健康保険が適用できるのか?」という主張は説得力があります。もちろん「障害だ」と言うことが差別的なものであるはずもありません。
 ならば、やっと得られた性別適合手術の健保適用さえも、混合診療の拒絶から満足な健保適用ケースも少ない状況下で、さらには「病気でも障害でもない」とするのなら「美容手術と変わらない」として、健保適用を否定される結果を生まないとは保障できるのでしょうか?
 専門医が自分の首を絞めるようなことを、なぜ求めるのでしょうか。私たち当事者の利害と、専門医の利害が対立する状況を生み出すような「脱医療化」の主張は、当事者としては迷惑極まりないものです。

11.このような不幸な事態を回避するには、ぜひとも医学的エビデンスの立場を堅持して、「診断の厳格化」がなされなければなりません。またその厳格な診断に対して、専門医が責任をしっかりと持つ体制を、貴学会は率先して作りあげる義務があります。私たちは、当事者として、それを果たして頂きたいと要求します。それなくして、裁判官も診断書を信用して安心して性別変更の審判を行うことはできないでしょう。
 私たち当事者も「性別移行に成功しそうにないのなら、移行を止めてほしい」というのが本音です。けして当事者の表面的な訴えに専門医が唯々諾々と従うことが、当事者にとっても利益ではないのです。
 現状でも性ホルモン剤が並行輸入や処方の横流しによって、安易に入手でき「自己責任」で使えてしまう状況にありますが、それは医師の管理下で検査とともに慎重に使うべきリスクある「医療」である、という医学的事実を変えることはできません。「脱医療化」ならば、このような性ホルモン剤をどのように使うのも個人の自由なのだから、医師が介入すべき問題ではない、ということにもなるでしょう。
 これは私たちにとって大変危険なことです。当事者が安易に性ホルモン療法に手を出す前に、それを止める有効な手段を講じるのが医師の責任ではないのでしょうか。ホルモン剤のしっかりした管理と医学的管理下での節度ある使用、そして副作用の害悪についての啓蒙周知など、「脱医療化」する場合でも、医師の社会的責任は決して免れ得ないのです。
 そのためには当事者の思いを真剣に受け止めて、医学的見地にとどまらず、大きく社会的見地、そしてかけがえのない個人の人生の問題として、しっかりしたカウンセリングを必須とすべきです。性別移行のリスクと現実性に当事者を真剣に向き合わせることによって、合理的な判断を当事者が下せるように導くことが、医師に求められることではないのでしょうか。
 私たちの要求は、性別移行医療の美容医療化・カジュアル化ではなく、安全かつ安心に性別移行できる「確立された医療」なのです。現在の日本の性別医療移行の現実を見る場合でさえ、「一日診断」の横行などに見られるように、この最低の要求さえまともに満たされていない、と当事者は不満を持っているのです。日本の性別移行医療が当事者に信用されていないからこそ、多くの当事者はタイでの手術を求めている現状を、貴学会ではどう反省するのでしょうか?

12.またこのような問題はさらに未成年者に関しても深刻なものになるでしょう。未成年者はとくに自分の身体的な変化に戸惑い、「性」を厭わしく面倒なものと捉えてそれから解放されたいと感じ、また自分に割り当てられた社会的ジェンダーに不満を抱くことというのは、よくあることです。簡単な暗示や誘導によって、自身を「トランスジェンダー」と誤解することも実に容易なことなのです。
 そのような未成年者に性別移行医療を勧めることが、本当に正しいことなのでしょうか?ごくわずかの性別移行に満足する人のために、移行して後悔する人を数多く生み出すことが、社会的に見て正しい医療なのでしょうか?未成年者に「自己責任」を要求することはできません。誤った誘導がなされた場合には、それに関わったカウンセラーや医師の法的責任が追及されるべきですし、未成年者の性別移行医療の提供については、十分な社会的な監視が要求されるべきです。
 性別移行に成功した当事者という立場であっても、性別移行は大人になってからでも遅くはない、と未成年の「トランスジェンダー」に対して、私たちは経験者として忠告したいくらいなのです。
 また未成年者の性別移行に関しては、いわゆる「思春期ブロッカー」は決して性的成熟を副作用なしに遅らせる魔法の薬ではない、というエビデンスが海外では蓄積されてきました。深刻な骨粗しょう症を引き起こすという副作用があるのはもはや明白な事実です。「副作用なく決断を遅らせることができる」とハードルを下げる誤った誘導によって安易に思春期ブロッカーを使い、後悔する例が海外の「先進国」では社会問題とさえなっています。
 明白に「不要な医療」を提供し、その後遺症に苦しむのが、「自己責任」でしょうか?安易な医療を未成年者に薦めた医師の責任は今後世界的に追及されることになるでしょう。もはやアメリカの多くの州では「反LGBT法」と呼ばれる法が制定され、未成年者への性別移行医療が禁止されることも起きています。

13.このような状況を鑑み、私たち「性同一性障害特例法を守る会」に集まった性同一性障害当事者は、貴学会に対して、具体的な要望として、次のことをご検討願いたいと考えています。

(1)  手術要件の撤廃は本当に当事者の利益なのでしょうか?
 不安に感じる当事者、それに女性たちがいることを考慮ください。少なくともその得失について開かれた論議と社会の納得なしに、手術要件を撤廃するのには反対します。

(2)  脱医療化が進むべき道なのでしょうか?
 「脱医療化」が医師の責任を免罪する方向に動くのなら、社会はまったくジェンダークリニックの診断を信用しなくなることでしょう。
 また、現状でも性ホルモン療法への健康保険の適用が認められず、保険適用が認められた性別適合手術と不可分であるにもかかわらず、混合診療になってしまうために健保適用が難しい現状があります。医師の側から「脱医療化」を主張することが、健保適用のさまたげにならないと保証ができるのでしょうか。あるいは健康保険に相当する別な施策について何か提言することあるのでしょうか?
 簡単に「脱医療化」を主張することに、危惧を感じます。「脱医療化」の前に、ホルモン医療への医師の責任ある関与とともに、ホルモン治療への健保適用を実現して頂きたい。

(3)  診断の標準化と、信頼性の確保に向けて、具体的な施策を求めます。
 現在「一日診断」と呼ばれるモラルを欠いた医師による診断書が横行しています。このような診断の簡易化は決して許さないで下さい。
 逆に「診断の厳格化」が当事者にとっての利益だと考えます。専門医ならば、一方的に患者の言うことだけを受容するだけではなくて、真に患者の立場に立って解決方法を探り、その専門医としての診断に責任を持っていただきたい。
 もし、当事者が誤診を主張して脱トランスする、あるいは診断を悪用した性犯罪を起こしたなどの事件があれば、相応の責任を診断した医師に求めるでもしないと、診断自体が社会に信用されなくなります。

(4)  MtF、FtM のいずれについても、未成年者の性別移行はもちろん、医学的介入の開始年齢の引き下げについては、「人権モデル」ではなくて「医学的エビデンス」に基づいて議論がなされることを求めます。

(5) 「性自認」というような曖昧で主観的なアイデンティティではなくて、客観的な根拠による診断を求めます。もちろん理論的な研究などまだまだこの問題には光の当たっていない領域が数多く残っています。
 単に「社会的なニーズがあるから」ではなく、科学として真実の究明に取り組んでください。

 以上の通り、貴学会におかれて、いわゆる「手術要件の撤廃」を今後要求されることなく、そして上記の具体的な要望を改めて正面から検討されるよう、強く要望します。
 私たち当事者を、専門医が見捨てるのならば、それは医学の頽廃でしかないと、私たちは強く憂慮するものです。

以 上


尚、同封した冊子や声明は、以下のとおりです。当会も加わっている「女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会」で出したものとなります。

・小冊子「トランス女性は「女性」ってほんと? ―女性スぺースを守る法律を!― 」
 https://gid-tokurei.jp/pdf/booklet.pdf

・最高裁判決についての女性スペースを守る連絡会の声明
 https://gid-tokurei.jp/assert/assert-2023-10-id01/

・経産省トイレ裁判の最高裁判決&特例法の手術要件についての声明
 https://gid-tokurei.jp/assert/assert-2023-07-id02/



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