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【BAL】再建をシーズンごとに振り返る

※ヘッダー画像はオリオールズ公式youtubeのハイド監督就任会見の動画より切り抜き。
※全ての商用的あるいは著作権侵害の意図を放棄して投稿します。


夫差讎を復せんと志す。朝夕薪の中に臥し、出入するに人をして呼ばしめて曰く、「夫差、而越人の而の父を殺ししを忘れたるか。」と。
(中略)
勾践、国に反り、胆を坐臥に懸け、即ち胆を仰ぎ之を嘗めて曰く、「女、会稽の恥を忘れたるか。」と。
(『十八史略』より引用)

将来の成功、目的を達成するために苦労を耐え忍ぶことが大切である。
今も昔も変わらない事実なのでしょう。

こんにちは、ジャンさんです。
約40試合、割合にして20%強がすでに経過したレギュラーシーズン。このあたりから各チームの着地点が見えてくる頃でしょう。MIA,SD間でルイス•アラエスが関わるトレードが発生し、早くもMIAは売り手ムーブをとりました。

かつてBALも2018年にマニー•マチャドを放出し、そこから大規模な再建に舵を取ったことがあります。
今回は、そんなBALの再建中の主なトレードやトランザクションについて、2018年から地区優勝を果たした2023年シーズンまでをシーズン別に振り返ってみようと思います。
かなり長く文章量も多い記事になってしまいましたが、ご容赦ください。


★再建の軌跡

・トレードについての画像はSpotracより切り抜き。
・入団経緯の記述がない選手はルール4ドラフトにてBAL入団を表す。

◾️2017年以前

★2023年の地区優勝に関わるメンバーの何人かがこの時期に加入しています。
⚪︎2014年
・ジョン•ミーンズ
⚪︎2015年
・セドリック•マリンズ, ライアン•マウントキャッスル
⚪︎2016年
・オースティン•ヘイズ
・アンソニー•サンタンデール(ルール5ドラフト :CLE)
・フェリックス•バティスタ(2015年MIAよりリリース)

オリオールズの年間成績(2011-2016)

2011-2016はシーズンで負け越しがなく、地区優勝や2度のWCなど順当に勝ちを重ねたチームという印象を受けます。マニー•マチャドの活躍に心躍らせたファンも多いでしょう。
また、2015年HRに輝いたクリス•デービスとオフに7年$161Mの契約を結んでいます。(この契約中の後払いが現在まで響いている。なんなら2037年まで響く。)

明るいビッグリーグの状態とは裏腹にプロスペクトの層は薄く、2016年のMLB公式プロスペクトランキングTop100には1人しかいない状態でした(現WSHのH.ハーヴィーのみ)。
傘下組織の層が薄い&長期高額契約の締結、チームに暗雲が立ち込めるには十分すぎる条件が揃っていました。

◾️2017年 (暗雲立ち込め始めた年)

★年間成績
75-87, .463, 地区最下位

主なドラフト入団選手
・DL•ホール(現MIL)

★オフの補強
アレックス・カッブ(4年$57M)
アンドリュー・キャッシュナー(2年$16M)

8月までWC争いをしていましたが、9月に6勝20敗と大きく負け越し。一気に地区最下位に転がり落ちました。
ヘイズサンタンデールがMLBデビューとなるものの、他プロスペクトもまだ素材磨きの段階。ゲームチェンジャーになれるような若手も中々いなかったので、もういくところまで行くしかない段階だったのでしょう。
地区最下位にも関わらずオフにカッブと4年契約を結んだのはもう後がないことの証明のように思えます。

あとこの年はドラフトが結構酷い。ボビー•ミラー(現LAD)に入団拒否されてるし。


◾️2018年 (再建元年)

★年間成績
47-115, .290, 地区最下位(全体最低勝率)

★主な入団選手
☆グレイソン•ロドリゲス

主なトレード(⭐️は現在の40人枠メンバー)

2018年TDLトレード

再建開始とはいえこんな負けることある??
50試合経過段階で16勝34敗、高額契約の選手も残っていてプロスペクトもまだ発展途上。そりゃ再建に舵取るわな。
このタイミングで移行できなければただただ沈んでいくだけと判断したのでしょう。

TDLではザック•ブリットン, ジョナサン•スクープ, ケビン•ゴーズマン, ダレン•オ•デイ、そしてマニー•マチャドを放出。
大解体の幕開けです。当時GMだったダン•デュケット氏、監督だったバック・ショーウォルター氏も忸怩たる思いだったでしょう。

しかしながら、この4トレードの対価のうち3人が現在でも40人枠に残っていて戦力になっています。特にマチャドの対価の一人、SPのディーン•クレーマーはローテを張れる存在になりました。(あとLADの守護神となったE.フィリップスね。BALでは花開くことはなかったけど)
加えてドラフトではG-Rodでお馴染みのグレイソン•ロドリゲスを獲得。生え抜きのミーンズに加えて、2018年の段階で将来のSPローテが3人揃いました。

そして、TDL後の8月にマリンズがMLBデビューしました。
前述のヘイズ, サンタンデールと合わせて、のちの地区優勝時のOF三人、通称再建三羽椋鳥擬は実はここで揃っていたんですね。(なおヘイズは怪我と不調で18年は出場なし)

最終的に前身球団を含めて球団史上最低の勝率.290となりました。
しかしながら、始まったばかりの再建にも関わらず、将来を明るくできるようなメンバーはこの時点で何人もデビュー&傘下組織に眠っていました。

また、この年のオフにHOUからマイク•エリアス氏をGM(ヘッダー画像右)に、CHCのベンチコーチだったブランドン•ハイド氏を監督(ヘッダー画像左)に引き抜き迎え入れました。
このとき分析部門のアナリストも増員しています。(22年時点で19人在籍)
あと前GMが連れてきたスカウトがめっちゃクビになってた。

かつてHOUで大規模な再建を経験したエリアス氏と、CHCでWSチャンピオンをコーチとして経験したハイド氏。フロント&現場トップのバトンがこの二人に渡され、再建元年は幕を閉じました。

◾️2019年 (神ドラフトの年)

★年間成績
54-112, .333, 地区最下位(全体29位勝率)

主なドラフト入団選手
☆アドリー•ラッチマン (全体1位指名)
☆ガナー•ヘンダーソン 
(2巡目全体42位指名)
・ジョーイ•オルティズ (現MIL)

主なトレード(⭐️は現在の40人枠メンバー)

2019年オフシーズンのトレード

2019年はミーンズがローテに定着(デビュー自体は2018年)しています。 明るい材料が徐々に出てくるこの感覚に、応援し続けたファンも少しずつ安心していったのではないでしょうか。

そしてこの年はなんと言ってもルール4ドラフトです。
かつてHOUのスカウト部門主任職としてカルロス•コレア(現MIN)を全体一位指名した経験があるエリアス氏の手に、再び全体一位指名権が回ってきました。

指名されたのはアドリー•ラッチマン
ジョー•マウアー(元MIN)以来の捕手として全体一位指名、憧れの選手はバスター•ポージー(元SF)。チームの命運はオレゴン州からやってきた両打の捕手に託されました。(参考:チームを変えた男、Adley Rutschmanとは』 執筆者:もくろーさん)

1巡目指名の選手に大きな期待がかけられ、後にチームの要となる。ここまではよくある話です。
ここから、一新されたフロントの眼力が迸ります。 
2巡目全体42位で指名されたのはガナー•ヘンダーソン。アラバマ州のバスケットボール年間最優秀選手にも輝き、州立オーバーン大学への進学を取り止めてまで入団した高校生SSの活躍は…詳しく言わずともわかるでしょう。

これは余談ですが、24年1月のBaseball Americaの記事で「2019年のドラフトをやり直したら、上位10チームの指名はどうなるか?」というものがありました。記事によると、全体4位指名権を保有していたMIAが指名しただろうとあります。マイアミはアラバマ州から近いしね。
実際の2巡目指名からここまで価値を高めたガナヘン本人とフロントには頭が上がりません。

そして極めつけは、シーズンオフのディラン•バンディ放出トレードにてカイル•ブラディッシュを獲得しました。
以前別記事で触れたので詳しくは述べませんが、将来的にCY賞4位となったローテ上位Pを対価として引っ張ってこれたのはフロントの慧眼と言わざるを得ません。本当にすごいです。

この年は将来のコアとなる野手とローテ上位Pが加わった一年となりました。エリアスGMが指揮を執る新体制初年度として完璧な一年と言えるでしょう。

※余談その2
「めちゃくちゃ負けたけど、ドラフトで阿部慎之助と坂本勇人を両取りして、オフにトレードで内海哲也を放出して代わりに菅野智之になれるような先発Pを獲得したようなものだよ」と例えて巨人ファンの友人に伝えたら、ドン引きされました。

◾️2020年 (新型コロナで大変だった年)

★年間成績
25-35, .417, 地区4位(全体26位勝率)

★主な入団選手
ヘストン•カースタッド(全体2位指名)
☆ジョーダン•ウェストバーグ 
(CBP-A全体30位指名)
・コビー•メイヨ
・ハドソン•ハスキン
・サミュエル・バサロ(InFA)
・タイラー•ウェルズ(Rule-5 Draft :MIN)

主なトレード

2020年オフシーズンのサラリーダンプトレード

新型コロナウィルスの世界的パンデミックにより、RSは60試合に短縮。選手たちの出場もままならず、思いもよらないチームが地区最下位になったこともありました。
ドラフト指名も5巡目までと、ありとあらゆる特例が敷かれた一年だったことを今では思い出します。

そんなオリオールズはオフにサラリーダンプトレードを2件実施。まだまだ再建は続きます。

そしてこの年のドラフトですが、またしてもソリッドな面々を引き当てます。すでにレギュラーINFとなったウエストバーグや2023年にPSロスター入りしたカースタッドをはじめとして、再建明け付近のコアになれそうな面々が当時のマイナーに揃い始めました。
強いチーム=優れた育成システムがあるという現代MLBの方程式にチームが近づきはじめたような状態だったのでしょう。

◾️2021年 (どん底に沈んでも光があった年)

年間成績
52-110, .321, 地区最下位(全体最低勝率)

★主な入団選手
☆コルトン•カウザー(全体5位指名)
・コナー•ノービィ
・クリード•ウィリアムズ
・シオネル•ペレス(waiver claimed by CIN)
・ホルヘ•マテオ(waiver claimed by SD)

オフのFA補強
・ジョーダン•ライルズ(FA)

マリンズの30-30達成やマウントキャッスルのチーム新人HR記録更新(33本)、ミーンズのno-hitterなど、若い選手の明るいニュースが飛び出していました。ヘイズやサンタンデールがレギュラー定着し始めたのもこの頃です。

しかしながら5月の14連敗、8月の泥沼の19連敗(上記ポスト)などあり、4年で3度目のRS100敗超えとなりました。同地区の4球団がそろってコンテンダーなのも相まって、とにかく負け続けていました。
気になる勝率と指名順位ですが、当時COLに所属していたエステベス(現LAA)が当時AZのバンメーター(現NYY傘下)にサヨナラHRを打たれたことにより、晴れて(?)全体最低勝率及び全体一位指名権がシーズン最終日にAZ→BALへ流れ込みました。

夏のドラフトではコルトン•カウザーなどを指名。カウザーは現在の外野レギュラーとなっており、他選手もマイナーで一定の成績を上げています。この辺りの目利き、さすがですね。
同じく夏頃にウェーバークレームしたペレスやマテオも、チーム状況に合わせて役割を変えながら貢献できる存在になりました。

勝率にはなかなか結びついていない状況でしたが、勝つための下地はどんどんと出来上がっていたのだなと調べていて感じました。

オフにはライルズを補強。
おそらくラッチマンたちマイナー組の昇格目処がつき、とにかく現有戦力が消耗しないようイニング消化ができるSPが必要だったのではないかと思われます。単年契約を結び、好成績ならTDLで売って良くない成績ならイニング消化させる。よくあるトランザクションですね。

この年のオフに本拠地オリオールパーク at カムデンヤーズのレフトグラウンド拡張工事が行われました。
エリアスGM曰く、いわゆるHitters ParkはHRが出やすいことからFA投手と交渉する際に不利に働くことが多かったとのことです。開場30周年を記念したリノベーションの一環の意味もありました。


あとクリス•デービスがこの年限りで引退しました。

◾️2022年 (チームが大きく生まれ変わった年)

年間成績
83-79, .512, 地区4位

★主なドラフト入団選手
ジャクソン•ホリデイ(全体1位指名)
・ディラン•ビーバーズ
・ジャド•ファビアン
・トレイス•ブライト

★主なトレード(⭐️は現在の40人枠メンバー)

2022年及び23年開幕前トレード

オフのFA補強
カイル•ギブソン(FA)
アダム•フレイジャー(FA)

この年書くこと多いよ!!!

まずシーズン最序盤にタナー•スコットとコール・サルサーをサラリーダンプトレードで放出。3選手とCBP-B指名権を対価として獲得。

4月にブラディッシュがデビュー、クレーマーが本格的にローテに定着し、ローテに厚みを感じさせるにはそれぞれ十分な一年となりました。

5/21にラッチマンがMLB昇格。彼の昇格前後で勝率が.400(16-24)→.549(67-55)と変化しました。間違いなくチームの歴史が動いた瞬間でしょう。
ラッチマンが昇格し、チームも上向き始めました。この年からWCが3枠となり、こうなるとBALにもPS進出チャンスが出てきます。

しかしながら、無理に買い手に周り3枠目を狙うのではなく、あくまで土台を固め続けることに専念し、TDLでは売り手に回りました。
ミーンズが4月早々にTJ手術のため離脱したことも関わっていそうです。

トレイ•マンシーニホルヘ•ロペスを放出し、当時から足りなかった投手プロスペクトを確保しています。この2つのトレードで、現在のBAL投手プロスペクトTop3となるセス•ジョンソン, チェイス•マクダーモット, ケイド•ポヴィッチを、そして現在のブルペンの柱となるイニェル•カノを獲得しています。

9月のcall upではガナー•ヘンダーソンがMLBデビュー。
最終的に2016年以来6年ぶりにシーズン勝ち越しを決めました。

ドラフトではジャクソン•ホリデイ、ディラン•ビーバーズなどを指名。いずれもチームの格になれる存在です。

オフシーズンはギブソン,フレイジャー, ジェームズ•マッキャンのようなチームを支えられるベテランをFAやトレードで獲得。そして23年対右の要となったライアン•オハーンとOAKのワークホース,コール•アービンをトレードで獲得しています。

6年ぶりのシーズン勝ち越しと2019年ドラフトコンビの昇格によりBALへ追い風が吹きはじめました。

◾️2023年 (地区優勝した年)

★年間成績
101-61, .623, 地区優勝(AL最高勝率, 全体2位勝率)

★主な入団選手
・アーロン•ヒックス(NYYよりリリース)
・ジェイコブ•ウェブ(waiver claimed by LAA)

★主なトレード(⭐️は現在の40人枠メンバー)

2023年主要なトレード

 祝・地区優勝!
ラッチマンは2年目も優秀な成績を収め、ガナヘンはROYを獲得。G-Rodやウエストバーグやカースタッドもデビューし、サンタンデールもキャリアハイのOPS.797を達成。
ヒックスやウェブのようなDFA組が思いもよらぬ活躍をしたり、バティスタとカノの岩山コンビが爆誕したとおもったら片方はTJ手術で離脱したり、買い手となったTDLで日本人投手がチームに来たり、ブラディッシュがCY賞4位になるレベルの投手になったりとまあ色々ありましたね。

前年地区覇者のNYYに主力の怪我人が続出したのもあり、最終的にTBの一騎打ちを制して7年ぶりのPS進出、9年ぶりの地区優勝となりました。
歓喜のシャンパンファイトの中で、エリアスGMが前GMのデュケット氏について感謝の言葉を述べていたのが印象的でした。

しかしながらPSではその年WS覇者となったTEXになすすべなくスイープされ敗退。若くて経験の少ない部分が仇となりました。

★これからのオリオールズ

以前別の記事でも書きましたが、今年2024年は野手陣に対してメスが入れられる一年になると思います。

中堅/ベテラン勢/控え要員が戦力として不足な成績ならば、そこに容赦無く大鉈を振るわれることが必要不可欠だと、筆者は考えています。
情に流されることなく、より必要な戦力をチームに残すことができたのならば、他4球団の動向を見る限り今後数年間BALはAL東地区、なんならALそのものを牛耳ることができると思っています。
そこで初めて再建が完全に完了したといえるのではないかとも思っています。

開幕前に筆頭オーナーがアンジェロス一家からカーライルグループ創始者のルーベンスタイン氏(下記ポスト)に変わりました。今後チーム方針がどのように変わるのか、楽しみにしています。


★〆

とある球団のファンの方たちが再建について語っているところを見たとき、このnote記事を書こうと決めました。

チームの再建というと、
①主力を売ってプロスペクトを受け取る。
②バウンスバックに期待してベテランと安価な単年契約を結ぶ。好成績なら売り、不調ならば若手の身体を守るように穴埋めとして起用する。
③大きく負け越してドラフトの順位を上げる。(タンキング:意図的にはやっちゃダメらしい)
という、選手の部分に焦点が当たりがちになります。(実際この3つは大事)

しかしながら、チーム再建において最も大事なことは『長期的なビジョンを持つ』ことではないでしょうか?
このビジョンを土台にして上の①~③を遂行しなければ、ただただトランザクションが多少流動的になるだけのシーズンを繰り返すことになります。

再建というのは『長期的な投資』そのもののように思えます。場当たり的な売り買いでは大きな利益を得ることは難しく、再現性に乏しい成功しか得られません。
血反吐を吐き泥水を啜ってでも、将来の成功のためにビジョンを持ってミッションを遂行する。必要ならば球場や施設、スタッフのような選手以外の部分にも投資を行う。そのような一貫性と覚悟を持った行動をおこさなければ、球団再建をなし得ることは難しいでしょう。

2023年からルール4ドラフトではロッタリーシステムが導入されました。今後再建に舵を取る球団は、これまでとは異なるやり方の再建を行わなければなりません。
今後新たに再建に入る球団がどのような軌跡をたどるのか、一人のMLBファンとしてしっかりと見届けようと思います。

それではまた。


参考文献