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桂望実【エッセイ】新刊『息をつめて』に寄せて

11月24日、桂望実さんの新刊『息をつめて』が発売されました。刊行に合わせて寄稿いただいた著者エッセイを紹介します。


泣かせまくりの『息をつめて』

桂望実

 ネタバレさせずに小説を語るのは難しい。特にネタと構成が絡み合っている場合は、言えないことが多過ぎて、難度が高くなる。

 以前上梓した小説『諦めない女』の時もそうだった。その難しさから書評家泣かせと言われた。同じ理由で、帯の文句や小説の宣伝文を、考えなくてはいけない編集者も泣かせた。

 新刊『息をつめて』は『諦めない女』と同等、いや、それ以上に書けることが少ない。間違いなく編集者は大泣きしたはず。

 そして今、新刊にまつわるエッセイを書くことになった私も、泣きそうになっている。因果応報だ。

 涙を堪えながら書けるところだけを拾って、どんな小説かをお知らせすると―主人公は五十一歳の麻里。麻里は訳ありといった風情の女。この麻里の物語。

 あっ、終わっちゃった。

 ネタバレしないようにすると、こんな薄い情報しか出せなくて申し訳ない。

 情報は薄いが、小説自体はかなり濃く、ビターな味わいになっている。主人公の心の変化を丁寧に描いたつもりだが、果たして読者はなにを感じるだろうか。

 主人公が最後に下す決断には、賛否両論が出るであろうことは覚悟している。最後に主人公を嫌いになってしまう人もいるだろう。仕方がない。だが彼女の決断を理解し、また声援を送る人もいると信じている。

 今年は作家デビューして二十年目だった。その節目の年に、この主人公と出会えたことは、運命だったような気がしている。

 詳細は語れないが運命の作品なので、読んで欲しいという私は、なんて自分勝手なのだろうと思うが、それでもやはりお願いしたい。『息をつめて』をぜひ。

《小説宝石 2022年12月号掲載》


▽『息をつめて』あらすじ

都会の片隅でひっそりと暮らすひとりの女。何かから逃れるように、孤独な日々を送る。実は彼女にも、かつて幸せな暮らしがあった。充実した日々は、ある違和感から少しずつ壊れていく。そして、ついにある事件を発端に、彼女の人生は破滅する―。衝撃の問題作!

▽プロフィール

桂 望実 かつら・のぞみ
1965年、東京都生まれ。2003年『死日記』でエクスナレッジ「作家への道!」優秀賞を受賞しデビュー。『県庁の星』『嫌な女』『恋愛検定』は映像化もされ話題に。


▽『小説宝石』新刊エッセイとは


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