【詩】ソングラインのはじまり
"電脳空間が霊化する。
それとともに、現実世界が異界化する。
そのとき、新しい時代のソングラインが必要になるだろう"
Webやインターネットの世界を「電脳空間」と呼ぶ。ずっと、それは情報技術だと言われてきた。
ITのIは「インフォメーション」だから「情報」を意味する。事実、ニュースや知識が手に入るようになった。
しかし、電脳空間でコミュニケーションが活発になるにつれて、そこに気持ちや感情が込もる。また、生き方や思想も込められてくる。
かつて、渾身の力で書かれた本や絵、手紙などに込められたものは、いまや電脳空間に込められている。
私たちの魂が、電脳空間に入り込み、泳ぐ。
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このことは1990年代には『攻殻機動隊』という作品に描かれていた。作者は士郎正宗。
ハリウッド映画にもなったが、それは悪を倒すアクション映画になっている。(『ゴースト・イン・ザ・シェル』)
原作の漫画は、あくまで魂の泳ぎと心の海への溶け入りを描いている。海は電脳空間だ。
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一方で、現実世界はどうなるのか。
電脳空間が「便利になり」、重要性を増すことで、現実はどうでもよくなるのか?
そうではない、と思う。
電脳空間が霊化することによって、私たちは現実世界と電脳空間を自由に出入りできるようになった。
夜の街で、扉一枚隔てたら、別世界のバーということは今までもあった。同じように、現実世界のあちこちに、異界への扉が用意されている。
たとえば、現実世界で初めて会った人が、すでにWebサイトであなたのことを知っており、SNSでは交流しているかもしれない。
モノは、電脳空間で意味を持たされ、イメージを作られた上で、目の前に置かれるかも。
私たちの現実世界は、現実空間と電脳空間が交替し続けるなかに展開され、そのことで異界化する。
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このことは、1960年代にはすでに日本で起きていた。メディアが発達し、雑誌が刊行され、広告が街に増えた。それは現実世界を異界化した。
そこで生まれた現代の小説やサブカルは、異界化の後をどう生きるかを早くから考えていた。
それが今、サブカルチャーからポップカルチャーになり、大多数の人にとって生の根幹に関わる文化になっている。
新しい文明の礎(いしずえ)がよりいっそう問われている。
だが、それはかんたんに資本主義と快楽カルチャー、安楽な生き方に取り込まれうる。
その時には、AIの魔が人間を凌駕する。電脳空間は一瞬にして支配される。AIは法のない法治を敷く。
AIを超えるのは、古典のカオスを根拠にし、生を問い、たえまない創造性によって変化し続ける表現者だけだろう。
統計学の外へ出た詩人たち。
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この新しい世界には道標(みちしるべ)が必要だ🌟 それは、新しい時代のソングラインと言える。
オーストラリアの先住民は文字を持たず、広大な土地を歩きながら、蟻塚や岩に歌を歌った。泉や川にも歌ったろう。それらの歌が道を作り、その道はソングラインと呼ばれた。
詩歌は、オーストラリア大陸の道を示した。
新しい時代の詩人たちは、現実空間と電脳空間が合わさった世界に、道標となるソングラインを作れるといいだろう。
新しい文明の礎を築くため、吟遊詩人たちの新しい旅がはじまる──
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