【詩】ポラリス
11月も半ば、年の瀬を意識する。
とにかく年越しそばを買った。
蕎麦はふだんからよく茹でる。
なんならそばつゆも自作する。
編集業がうまく行き、年を越せるめどが立った。ほっとする。
僕は20代の頃から、北へ、北へ──という思いがやまず、旅に駆り立てられた。なぜ北への旅だったのか。たぶん、自分を突き詰めたかったのだろう。この世界の果てを見たかったのかもしれない。
長い間、彷徨った。どこにも、たどり着くことがないように思われた。
片時の安らぎもなく冬の星
凍てつく空にまたたきおりぬ
とでもいうように…
ひたすら、ポラリスを指して歩いた。
精神の北極星、北の空に輝く不動の一点を。
もともと星にたどり着くはずはない。
地上を旅しているのだから。
人はまばらになり、やがて誰もいなくなったかに思われた。
ベーリング海を越えて、アラスカに行くような心地がした。
たゆまずに歩み続け、オーロラを見る。
極光、ノーザンライツ。光の帯。
──いよいよ北極圏に差しかかった、と思う頃から、不思議と仲間の存在を感じるようになった。私は、ある時思い立って、自分の道をここまで来たが、同じようにして長い旅路を北の果てまで歩もうとする人たちの存在を、身近に感じることが増えた。
みんな、ポラリスを目指す旅人なのかもしれない。
オーロラの歌がきこえる。光の歌。それは何人、何十人もの詩人たちのうた。あるいは、詩心を持つ人たちのうた。
ノーザンライツのシンフォニー(交響曲)。音も無く、極北の夜にひびきわたる。やがて夜が明けるだろう。
火を熾し、お湯をわかし、朝日を浴びて、コーヒーを淹れる。温かく苦い珈琲をのむ。私は満たされていた。渇き、飢えた心はもうない。
もと来た道を引き返す。私はポラリスにたどり着いたのだと思った。さあ、帰ろう。故郷へ、日本へ。南へと歩を進める。北への旅は終わった。
みんなのところで、ひとのわをつくろう。
* 人生の半分を費やした「北への旅」の境涯を綴りました。
続編はこちらです。
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