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ディズニーの歌に、思わず泣きそうになった理由

この歌、柔術のことを言ってるね

娘が、不意にわたしを振り返って言った。アレクサからは、ディズニー・ヒット曲のプレイリストがかかっていた。娘は、アレクサの画面に映る歌詞を目で追いながら、その曲を熱心に聴いていた。

ディズニーの曲が柔術のことを歌ってる??

わたしの耳にも馴染みのある曲だけど、そんな歌詞だったけと思いながら、食事の片付けをする手を止めて、娘と一緒にスクリーンに目を凝らした。

I won't give up, no, I won't give in
'Til I reach the end, and then I'll start again
No, I won't leave, I wanna try everything
I wanna try even though I could fail

『Try Everything』

ディズニー映画『ズートピア』の主題歌である『Try Everything』。日本語版も出ている。

わたしは、次々と現れる歌詞を、柔術で遭遇する場面や感情にことごとく置き換えながら聞いていった。すると、歌詞の一字一句が、少しの違和感もなく、むしろはまりすぎるほどぴったりはまっていた。

これ、本当に柔術のための歌だね!

娘の感動を追い越して、わたしの方がはしゃいでしまっているのが、自分でもわかった。わたしも柔術を習っていて、柔術への本気度をいうなら、娘より私の方が10倍は大きい自信があるんだけど、でも、わたしが興奮したのはそのせいではないんだ。

娘の成長が、確かに感じられたからなんです。

この曲を聞いて柔術を連想したということは、つまり娘は、柔術の練習をするときに、この歌詞が言うような精神をもって臨んでいるということだ。

最後まであきらめない
行けるところまで行ったら、またやり直す
うまくいかないかもしれないけれど、わたしはやってみたい

そんな風に思えるようになったんだね。なんだか胸が熱くなって、ちょっと涙が滲んでしまった。

我が家の子どもたちは、昨年の秋から、ブラジリアン柔術を習っている。始めてから、かれこれ半年になる。

当初は、喜んで通っていた娘だが、数か月するとジムに通うのを嫌がるようになった。どうして嫌なのかと尋ねると、決まって、

戦うのは嫌い。柔術は好きじゃない

と答えた。

でも、娘を一番近くで見ているわたしには、本当の理由がわかっていた。娘は、戦うのが嫌なのではなくて、負けるのが嫌だったのだ。

5歳から9歳までの子どもが対象のクラスで、一番年下で一番体の小さい娘は、その頃、誰と組んでも負かされてしまうのが常だった。ほかのスポーツでも同じだろうけれど、柔術でも、体の大きさと力の強さは武器なのだ。小柄で力もあまり強い方ではない娘にとって、柔術は難しいスポーツに感じたに違いない。負けることが嫌いな娘は、勝てない勝負に挑みたくなかったのだと思う。

勝つことがすべてではない。他者との勝負は、ただの腕試しに過ぎない。大事なのは、自分自身の成長に目を向けること―。

そうはいっても。ハイそうですかと簡単に理解できることではない。

どうしたものか。続けさせるべきか、違う習い事に切り替えるべきか。

しばらく迷っている間に、変化が生じた。

ほぼ同年齢の女の子が数人新しくジムに入会してきたのだ。その中には、娘の仲良しのクラスメイトもいた。お友達と一緒にクラスを受けられることで、気持ちが上向いたのもあったと思う。

さらに、体の大きさが娘と同じくらいの女の子が増えたことで、娘にとっては戦いやすくなった。習った技を使える場面が増え、力だけではない、本来の柔術を体で知ったのである。そして、いままでの練習で身につけてきた技が通用するという経験が、娘に自信を与えた

娘の変化は、わたしの目には明らかに見て取れた。

それまでは、なんとか口実を見つけて練習を抜けたいという意図が垣間見えた。クラスの途中にトイレに行きたいと決まって言い出したり、ちょっとでもひっかき傷ができれば、痛くて続けられないなどと泣き言を言った。

でも、最近は、そんな企みは一切なくなり、一回ごとの組み合いに集中して、習った技を実践しようとしている。なにより、全力でやっているのがわかる。「自分にもできる」という自信を持つことは、こんなにも物事への姿勢を変えるのだと、見ていて驚くほどだった。

そしていま娘は、最後まで諦めない、そして最後までいったらまた最初から始める、という言葉を聞いて、柔術を連想するまでに至ったのだ。柔術をやめたいと言っていた頃からは、180度の変化である。

わたしは、ちょっと感動すらしていた。娘は、立ちはだかる山を自分の力で越えた。越える方法を知ったのである。

歌詞を映した画面にじいっと見入っている娘の後ろ姿を見つめながら、あっぱれやな、と独りごちた。


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