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ジャービル(スナネズミ)のてんかん



てんかんは一般的な症状

てんかん症状は研究用またはペットとして飼育されているジャービルの20~40%に発現するといわれています。遺伝することがわかっており、研究施設では発生率ほぼ100%の系統と発作耐性のある系統の作出に成功しています。

実験動物として家畜化され普及したジャービルは、ヒトのてんかんの臨床研究のために利用され医学界に大きく貢献してきました。ジャービルのてんかん発作は脳の酵素であるグルタミンシンテターゼの欠乏によるもので、「自発性てんかん様発作」として分類されます。

過去の書籍等にはこのてんかんの理由を非常に臆病な動物のため、と記載していたものもあるようですが、ジャービルは他の動物種と比較して特別神経質でも臆病でもなく、この定義は現代では否定されています。
一説では野生下で捕食者を混乱させるための、種としての生存メカニズムではないかとの仮説があります。

発作を引き起こす要因

発作は突然の外部刺激により引き起こされます。
息を吹きかける、頸部をつまみ上げる、身体を掴む、尾を掴んで持ち上げる、ケージ内に手や物を入れるなど、恐怖を感じさせることや驚かせることがきっかけになります。
新しい飼い主、家、ケージなど環境の変化が刺激になることもあります。
最も活動的になる夜間に起こりやすく、稀に自然発生することも確認されています。

また、疼痛、におい、音、光による感覚刺激のみでは発作を引き起こさないことが研究によりわかっています。

症状

国内では過去の某漫画の影響からジャービルは気絶する生き物だとイメージされている方も一定数いるかと思いますが、一瞬でころりと意識を失うようなケースはまずありません。

発作は軽度~重度の激しいものまで様々で、通常は活動の停止および顔面と耳の細かい痙攣から始まります。それから身体の前部が収縮し身をかがめ、四肢が横方向に広がったり尾が体の上に曲がったりするなどの異常な姿勢になります。
激しい筋肉の収縮を伴う強直性痙攣が起こると、横向きや仰向けにひっくり返り四肢をばたつかせる、全身をビクビクと大きく震わせるなどの症状がみられます。逆に全身がふにゃふにゃと弛緩し歩けなくなり、視線が定まらず催眠状態のようになるケースもあります。
歯ぎしり、飛び跳ねる、突然走り出す、回転する、突発的なグルーミング、周囲の物に噛みつく、ゆっくりと頭や四肢を回転させるなど異常な行動もみられます。

軽度なものだと一見刺激に驚いてうずくまっているだけのように見えることもあり、飼い主が単に臆病な個体だと勘違いしている場合もあるようです。
通常これらの発作が続く時間は短く、数秒~1、2分以内に自然に治まります。
激しい発作が起こった後はさらに1~3分、最大10分程度放心状態のようになることもありますが、それも治まった後は何事もなかったかのように行動を再開します。

発作を起こした後の数日間は再度の発作は起こさず、普段よりも活動的になるとの研究結果があります。

治療

このてんかん発作自体が健康に害を及ぼすことはなく、他の動物の病的なてんかん発作と異なり治療は必要ありません。
発作が直接の死因となるケースは通常無いとされ、発作を起こす個体の寿命も、起こさない個体の寿命と変わりはありません。

ただし、通常よりも激しい発作を繰り返す場合や、長時間発作が治まらない場合は脳が損傷を受ける可能性があるため、抗てんかん薬を処方される場合があります。
また、一日のうちに何度も繰り返す場合(群発)や回復しない場合は、上記のてんかん発作ではなく脳疾患などの可能性があるため、獣医師の診断を受けるようにしてください。

発作中の対応、注意点

発作を起こしているジャービルに対して、飼い主が出来るのは安全を確保し様子を見てあげることだけです。目の前でジャービルが発作を起こした場合は以下の点に注意してください。

・身体を触らない
余計な刺激を与えてしまうことになりますので、落ち着かせようと撫でたり、抱き上げることは厳禁です。また、発作時口元にある物に非常に強く噛み付いたまま放さなくなることがあり、万が一指などを嚙まれた場合大ケガを負う可能性があり大変危険です。
テーブルの上など落下の恐れのある場所で発作を起こした場合は安全なケージへ戻さなくてはなりませんが、この場合は尾の付け根をしっかりと掴み早急に移動させます。

・ケージ、水槽の入り口やふたを閉める
発作時は通常時には考えられないほどの勢いで走り出したり、壁面を駆け上がって飛び出す恐れがあります。ケガを防ぐために、まずはケージ内の安全を確保してください。

その他、可能であれば部屋を薄暗く静かな状態にし、通常の状態に完全に回復するまで様子を観察してください。
発作が数分以内に収まり、その後の行動に異常がなければ問題ありません。

てんかんを持っている個体への接し方

発作は通常5~6週齢に始まり、生後6ヶ月を過ぎると加齢とともに頻度と重症度は減少していくと言われています。
てんかんの要因を持って生まれた個体でも、生まれてから3週齢までの間に頻繁に人間が接触することで、その後の発作の頻度と重症度を大幅に減らすことができるとの研究データがあります。

また、マグネシウムの不足がてんかん発作に影響があり、十分な量を摂取させたジャービルでは発作の発生率を減らせることが分かっています。 ジャービルに必要なマグネシウム摂取量はハムスターなど他のげっ歯類よりも高い数値であるため、市販のげっ歯類用の飼料をジャービルに与えている場合は注意が必要です。ジャービル専用のフードが入手できない場合は、副食としてマグネシウムを多く含む食べ物を与えるなどの対策を考える必要があります。

繁殖時の注意点

ジャービルのてんかんは子孫へ受け継がれ、特に母親から受け継ぐ傾向にあると考えられています。
これが遺伝子的に受け継がれているのか、それとも親個体の子育て中の行動の結果であるのかは十分に確立されていませんが、おそらく両方が影響しているようです。
てんかん発作はジャービルという種の特性のひとつと言えますが、ペットとして飼育される場合は好ましい特性ではありません。
繁殖者は症状が発現する個体は繁殖ラインに組み込まないことが推奨されます。両親となる個体に加え、両親の家系に今までてんかんの症状がみられる個体はいなかったか血統を十分に確認する必要があります。


EPILEPSY AND BEHAVIOUR OF THE MONGOLIAN GERBIL: AN ETHOLOGICAL STUDY: Cutler, M.G., Mackintosh, J.H., 1989, Physiology & Behavior, 46(4), 561-6
EFFECTS OF FOSTERING ON SEIZURE ACTIVITY IN THE MONGOLIAN GERBIL: Kaplan, H, 1981, Developmental Psychobiology, 14(6), 565-70


 

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