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居眠り猫と主治医 ⒚ 猫、海へ行く 連載恋愛小説

腰ほっそ、と里佳子が目をく。
足のつかない海でなど泳ぐ気はさらさらなかったが、水がかかってもいい格好をとお達しがあったので、水着にした。
羽織っていたシャツワンピのボタンを、文乃はすばやく閉める。

「そんなこと、言われたことないですけど」
「いやいや、華奢で色白って眼福すぎ。あ、ごめん。私、アイドルオタクもやってて」
ちいさくてかわいいもの好きが高じて、とある女性グループのファンになったそうだ。大人の階段をのぼっている頃合いが、とくに推しだという。

「あー、成長してませんから…」
胸もとを見下ろす文乃の自虐に、里佳子は猛然と反論する。
「デカけりゃいいってもんじゃないの。大事なのは、かたちとさわりごこち。やわらかさを想起させる肌ツヤ」
変なモードに入ってしまった里佳子は、なぜか男子目線でとうとうと語る。

「小ぶりなくらいが、倒錯感あっていいんだって」
「小ぶり…」
スマホを構えようとするので、さすがに勘弁してもらう。
「ええー。ものうげな水着少女撮りたかったのに…」
あたりを見渡せば、誰も彼も解放感あふれる南国ビーチスタイル。
まぶしい日差しに誘われ、一様に楽しげだ。

***

お盆休みを利用しての交流会最大の目玉イベント、ドルフィンウォッチングin小笠原諸島(5泊6日)
ひとを楽しませるのが趣味だと豪語する院長は企画だけして、貧乏くじを引いたスタッフ1名とともにお留守番。

船酔いしそうだから気乗りせず、文乃はパスする気満々だった。
ところが、かの人がめちゃくちゃ楽しみにしていて、問答無用で連れてこられたのである。
十中八九、彼はこれを目当てに湯浅アニマルクリニックに就職したのではなかろうか。

(つづく)

#連載小説 #恋愛小説が好き #私の作品紹介 #賑やかし帯

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