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居眠り猫と主治医 ⒊河川敷フリマ 連載恋愛小説

河川敷でのフリマイベントにて団体出店が決まり、文乃はためこんでいた小鳥雑貨を放出することにした。
収納場所に困っていたので、渡りに船だった。

バラエティー豊かな商品の中で異彩を放っていたのは、小静こしずか美佐の手づくりアクセサリーと夏目祐の調理グッズ。
どちらも玄人ウケしそうな匂いを漂わせている。

***

「どれも大ぶりなのに、センスある」
小鳥会のドン・水野里佳子にほめられ、美佐はちょっと意外そうに眉を上げた。犬会と小鳥会は折り合いがよくないのだ。
「水野さんも気に入ったのあったら、言ってくださいね」
美佐は美しく口角を上げ、無難にふるまう。

材料もやけに高価そうだし、これ見よがしだよねー、と小声で文乃に本音をもらす里佳子。
やはり彼女にあまり良い印象を持っていないらしい。
とくにクセのある人物には…と文乃はピンときていなかったが、小静美佐の声色が突然ガラリと変化した。
「一緒に店番お願いできますー?」

テントにポスターを貼っていた祐の腕をとり、まばゆいばかりの笑顔を振りまいている。
ちやほやされて生きてきた人間は、自分の魅力を信じて疑わない。
苦手なタイプだとわかったので、文乃は人知れず退散することにした。

***

「おはよう、ごんぎつね」
どのお店からのぞこうかとキョロキョロしていると、リラックスモードの祐が現れ、文乃は二度見する。
散歩していてふらりと顔を出した風情だ。
先日見せたバックヤードでのひりつき感が消え去っている。

店については、なぜか里佳子が代わってくれたという。
「あのふたり、ソリが合わないんじゃ…」
1時間くらい放置してもかまわないだろう、とあっさりした反応。
「小静さん、先生にロックオンしてたような…」
「あの人既婚者」
目をパチパチさせている文乃を横目で見たあと、彼は薄く笑う。

流れで一緒にお店を巡ることになり、ごんぎつね発言の真意をたずねた。
「クリニックの冷蔵庫にぶどう入ってた」
罪滅ぼしの置き土産に気づいてもらえたらしい。
いったん帰りかけて思い直し、コンビニに寄ったかいがあるというものだ。

(つづく)

*23年7月に公開していた作品です
加筆・修正し、分割して再掲します

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