月イチの死闘 809字 シロクマ文芸部
閏年の今年を、のがす手はない。
むしろ、このチャンスを活かさねば我に勝算はない。
我が家で毎月繰り広げられる、壮絶なバトル。
たったひとつの栄光を賭け、命がけで挑む。
わたしは敵に作戦を気取られぬよう、つとめて平静を装う。
「いちごモンブランどら焼きあるよ?」
「おー。なんか具がはみ出てて豪華だな」
「うん。まるごといちご、甘くておいしかったよ~」
ふふふ、とわたしは余裕でコーヒーをすする。
***
彼は勘が鋭い。
「…こよみは食べないの?」
「お昼のデザートに食べたから、だいじょーぶー」
「コーヒーだけって、ヘンだろ」
「そんな、食い意地はってるみたいに言わないでくれる?」
納得していないようで、キッチンを見渡す彼。
なにかもっとおいしいブツを隠し持っているのでは…と疑われているようだ。
「もー。サザエさんじゃないんだからさあ」
やけに機嫌がよすぎる…と、その顔色に真剣味が増す。
と、椅子が倒れんばかりの勢いで彼は立ち上がった。
***
「やったな」
「へへー。今月はわたしの勝ちー」
わたしはリビングのカレンダーに駆け寄り、記念撮影をする。
桜並木の写真が、誇らしげに壁を彩る。
「つか、早すぎるだろ。まだ25日なんだけど」
今年はうるう年だから、ヤツは油断するにちがいない。
わたしの読みは的中した。
29日の夜にめくろうと、のんびり構えている彼の裏をかいてやった。
「ハイ、ここ見てください。早見くん?うすーく、25って書いてありますね?3月のカレンダーでも、十分、役割を果たしてますよね?」
***
「だれがカレンダーをめくるか?」バトル。
最終日の真夜中にめくるというルールでは、そもそも不公平すぎた。
すぐ眠くなるわたしと、夜型の彼。
連戦連敗を喫していたのが、リベンジを果たせたわけである。
ビリビリと破る快感。ひさびさの勝利の美酒に、わたしは酔う。
しかし、この作戦はいちどしか使えない。
来月の策は練りに練らねばと、わたしは早くも闘志を燃やしている。
(おわり)
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