Re:便利屋花業 ⒎スターゲイザー 恋愛小説
今年の天体観測DAYは、とにかく凍えた。
臨時の設営スタッフとして屋外で作業するもんだから、手袋をしていても指がかじかむ。
もはや耐寒レースだ。
時間になり、参加者がうっとりと星空にひたっているなか、まどかはものすごい空腹に襲われる。
「くっつきすぎですが」
「この際、目をつぶれ」
「どの際なんすか」
「どっから飛んでくるか、わかんないじゃん」
初参加の綾の付き添いをとはりきって来たはものの、よく考えたらキャンプ場なんて山奥。
つまり、ヤツらがうじゃうじゃいる根城である。
***
冬場の昆虫の出現はかぎられている、と共感ゼロの秋葉を引きずって、やっとこさコンビニにたどり着いた。
花より団子、星より煮卵、とばかりにホカホカおでんに舌鼓を打つ。
「日本茶とチョコって、意外に合うよね」
食後のおやつまで、まどかはきっちりたいらげた。
「耳赤いな」
手のひらで覆われると、じんわりあったかい。
「ちょっと」
「なんですか」
このあいだから、少しでも近づくと条件反射のように唇を奪われる。
けろりとしている相手に、拒むほどでもないのかと思わされる。
が、ここはコンビニ前のベンチ。れっきとした公共の場だ。
「はい。おしまい」
護衛のお礼ということで、くどくど言うのはやめにする。
包装紙を破って、キャラメルを秋葉の口に放り込んだ。
それがねっとりとした大人のキスの呼び水になるなど、誰が予想できる
だろうか。
「甘いな、まどかさん」
二重の意味に頭に血がのぼり、ヤツの腹に肘打ちして逃走した。
息を切らしたまどかを、綾が不思議そうに出迎える。
「どうしたんですか」
「やっぱ出た」
「虫?」
「野獣」
(つづく)
▷次回、第8話「深夜の呼び出し」の巻。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。 サポートしていただけたら、インプットのための書籍購入費にあてます。 また来ていただけるよう、更新がんばります。