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便利屋修行1年生 ⒌ 旅館での告白 連載恋愛小説

高級旅館で食べ慣れたコンビニのサンドイッチというのも、なんだかオツなものだ。綾にとってはじめてのことばかりで、なにをしても楽しい。

「わー殺人事件とか起こりそうな旅館ですねえ」
縁側からは、ひろびろとした日本庭園と渓谷を流れる川が見える。
せせらぎを楽しめる露店風呂が名物らしい。
「老舗って言いたいの?」
「あ…それです」

今回の任務は完了したも同然だが、調査は彼らが宿を出て帰路につくまで続く。泊まりだと怪しまれるので、こんなところまで来ておいて日帰りなんだそうだ。

***

「さっきの理由、聞いてもいいですか」
「母親が後妻ってだけ」
プライベートなことを明かしてくれるとは思わず、まじまじと見つめてしまった。
「難しいですよね、家族って。いちばん」
実感がありすぎて、体の底からため息がもれた。
「人間ってむずかしい…」

サバを読んでいるのかと、からかわれる。
「失礼な。ピッチピチですよ」
「昭和くさ」
意地になって、ほっぺたをっさわらせ弾力を確かめさせる。
「ん!」
「あー、幼稚園児?」

オバサンの次は、子ども扱いときた。
「浴衣姿にムラッとしても、知りませんよー」
「着れば?」
「仕事中です」
いいようにおちょくられている。

***

「浴衣着て、花火大会行きたいなあ」
なぜ冬には花火のイベントがないのだろう。
海外では、季節なんか関係なく花火が見れると聞いたことがある。
「ニッチだし、人気出ると思う。ブランケットにくるまってとか楽しそうじゃないですか?花火師さんも仕事が増えて、助かるかもだし」

発想が自由だと、沢口に言われる。どうせガキくさいと言いたいのだろう。
「そういえば、君は自由すぎるって言われたことが…」
「だれに?」
「彼氏…ぽい人?」
いちど寝てすぐフラれたから、彼氏ではないと思う。
聞いておいて、ノーコメントな沢口。ここにもマイペース人間がいた。

(つづく)


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