便利屋修行1年生 ⒈致命的な欠陥 目次 リンク有 連載恋愛小説 全24話予定
新しい職場は、一風変わっている。
綾が所長室に足を踏み入れると、先客がひとりいた。
ウチの主力には決定的な欠陥がある、との事前情報が頭をよぎる。
この人のことだと、ひとめでわかった。
「ほかにいないんすか。秋葉とか」
面倒そうに目を細め、彼はスマホを操作中。
「ちょうど出払ってんのよー。頼むわ」
こちらに目もくれず、綾の頭上あたりで会話が展開される。
試しに自己紹介をはさんでみたが、おもしろいくらい完全にスルーされた。
所長がほらね、とばかりに苦笑する。
優秀な人ほど気難しいこともあるし、気にしないでおこう。
***
「データは慶に送ったから、直接聞いてなー」と所長。
もしかして、今の、依頼書を確認してたってこと?
仕事早すぎないか、沢口慶。とっくに姿が見えないし。
全速力で追いかけ、バンを確認してから綾は助手席に滑り込んだ。
「あのー、沢口さん。ご迷惑おかけしないよう努めますので、よ…」
「言われたことだけやればいいから」
決意表明をぶったぎる沢口。
ここまで歓迎されないのも、逆にすがすがしいな。
会話を成立させる意思がなさそうなので、目的地までの車内では好きなだけ観察させてもらうことに。
***
見れば見るほど確信する。所長の言う欠陥とは、彼の外見のことだろう。
印象に残るとまずい職種のはずなのに、沢口慶の風貌は、なんというか群を抜いていた。
沈黙に耐えられないという感覚には、不思議とならなかった。
「本上綾です。特技は玉ねぎのスライスです」
信号待ちで再トライしてみた。
無表情で一瞥した沢口が、心底イヤそうにため息をつく。
「この仕事で披露する機会なさそうですし、正直なんで採用されたのかギモンなんですけど」
メンタル…とボソッと聞こえた。
反応にはちがいないので、ちょっとうれしくなる。
「あ、空気読めない自信もありますよ」
車が動きだし、会話(?)はそこで終了した。
(つづく)
*23年8月に公開していた作品です
加筆・修正し、分割して再掲します
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