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ビジネス法務・2024年6月号

ビジネス法務・2024年6月号が出たので、特集の紹介をさせていただきます!

【特集】テーマ別最新「ソフトロー」辞典

2024年6月号では、「ソフトロー」辞典として分野別に重要なソフトローがとりあげられており、とても参考になりました。

そもそもソフトローとは?

そもそもソフトローとは何でしょうか?これは、対概念であるハードローと併せると理解がしやすいです。

ハードロー(Hard Law):

  • 定義: 明確な法的拘束力を持つ一般的・抽象的法規範のことです。これらは国や地方自治体の立法機関によって制定され、遵守が義務付けられています。

  • 具体例: 日本国憲法、刑法、民法などがハードローに該当します。例えば、刑法は犯罪とその罰を定めており、これに違反した場合、法的制裁を受けることになります。

ソフトロー(Soft Law):

  • 定義: 法的な拘束力は持たないが、行動の指針として機能する規範やガイドラインをいいます。法律に比べて柔軟性があり、道徳的・社会的な期待や理想を形式化したものです。

  • 具体例: 企業のコンプライアンスガイドライン、経済界の自主規制規範、政府による政策推奨などがソフトローに該当します。たとえば、産業界が環境保護のために設定する自主的な排出削減目標や、労働者の健康を守るためのガイドラインなどがこれにあたります。

ソフトローとハードローの主な違いは、法的拘束力の有無とルールの一般性・抽象性/具体性です。

ハードローは一般的・抽象的な規範として法的義務として明確に定められ、違反すると法的な制裁を受ける可能性があります。

一方で、ソフトローはより柔軟で、より具体的な場面・状況を前提に組織や個人が自発的に遵守することを求めるものです。
ソフトローには直接的な法的制裁は伴いませんが、その不履行は社会的な信用や評判に影響を与え、適用される組織内において不利益な取扱いを受けることがあります。

企業法務におけるソフトローの重要性

私は法律事務所のキャリアを経てから企業内弁護士へ転職しましたが、私自身の経験から言うと、法律事務所での弁護士業務、特に紛争処理においては、主にハードローに基づく仕事が中心となります。
これは、実際に発生した紛争に対して法律に基づいた明確な規定や判例を当てはめて解決するためです。
具体的には、訴訟や調停、裁判所の判断など、法的拘束力のある手段を用いて、民法をはじめとするハードローの適用によって紛争が解決されるのです。

一方で、企業法務、特に革新的なビジネスモデルを展開するIT企業の企業法務では、ソフトローはハードローとともに、ときにはそれ以上に重要な役割を果たすことになります。

IT業界は急速に進化し、新しい技術やビジネスモデルが常に登場していますが、これらは往々にして既存の法的枠組みに完全には収まりきらないことがあるからです。
そのため、業界固有のガイドラインや行動規範、自主規制などのソフトローが、未解決の法的問題に対する一次的なガイダンスや標準として機能するのです。

例えば、データプライバシーやAIの倫理的使用に関するガイドライン(経済産業省:AI事業者ガイドライン(第1.0版)等)は、具体的な法律が整備されるまでの間、企業が適切な行動をとるための基準を提供してくれます。
これにより、企業は法的な不確実性を管理しながら、革新的で持続可能なビジネスを行うことが可能となるのです。

今回の特集とIT企業法務

そのため、企業法務に携わる者にとっては、ビジネス法務・2024年6月号の最新「ソフトロー」辞典は非常に役に立つのではないでしょうか。
なぜなら、ソフトローはハードローと違って大学や資格試験で勉強することが少ないため、体系的に学ぶ機会をなかなか得ることができないからです。

今回の特集では、「コーポレート・ガバナンス」「M&A」「知的財産分野」「独占禁止法」「コンプライアンス・ESG/ESDs」の各分野において、実務上重要となるソフトローが整理されています。

IT企業法務においては、知的財産分野におけるデータの取扱いに関するガイドラインである「営業秘密管理指針」「限定提供データに関する指針」「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」や、独占禁止法における「『業務提携に関する検討会』報告書」「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占取引法上の考え方」などはマストで抑えておくべきです。

2024年6月号・まとめ

今月号のビジネス法務では、取り上げたソフトローの特集以外にも、「債権管理」という企業運営において最も基本的な債権管理・回収業務の特集が組まれていたり、「【特別企画】インハウスにスポットライト JILAアワード受賞者が語る企業法務のベストプラクティス」において実際に活躍している受賞者のインタビューが載っており、企業法務パーソンにとって役に立つ記事で構成されていて大変参考になるものでした。

日々の仕事をこなしながら最新の知識を身に着けるのは大変ですが、ビジネス法務では債権管理からソフトローまで幅広いトピックがカバーされています。

忙しい法務パーソンこそ、毎月のビジネス法務で最新の法律論点をアップデート習慣化することをお勧めします。


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