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「生成AIの法律問題」特集に注目! / ビジネス法務・最新号(2023年11月)

ビジネス法務・最新刊(2023年11月号)が発刊されました。

2023年11月号では、「生成AIの法的ポイントと内部規約を検討する」(特集1)という、IT企業法務では避けて通ることのできない重要な論点が取り上げられています。
そこで、今回の特集を題材に、生成AIの法律問題、法務パーソンとして生成AIへどのように対応すべきか、について簡単に記事にまとめました。

ポイント1 生成AIに関わる3つの法的論点

この特集では7つの記事で構成されていますが、通してわかることは大きく①著作権法②個人情報保護法③秘密情報の保護(不正競争防止法における「営業秘密」やNDA)の3つが生成AIに関する法律(論点)として関わってくる、ということです。

ということは、今後、新たに生成AIにまつわる相談を法務パーソンとして検討するときも、この3つの論点を検討することを念頭においておけば大きく外すことはありません(もちろん個別の業法やほかの知的財産法の検討が発生する場合もありますが、あくまで原則として、という話)。

この特集における「内部規約作成のためのチェックリスト」(古川直裕・著)の記事は、この3つの法的論点において検討すべき論点がチェックリスト形式でまとめられており、大変参考になります。

また、生成AIの利用においては、大まかに〈プロンプトへの情報入力⇒生成AIによる情報処理⇒アウトプット〉、というデータの流れが生じます。

例えば、「プロンプトに個人情報の一部を入力する場合に個人情報の『提供(委託)』に該当するのか?」、「たまたま第三者の著作物に似ているアウトプットが出た場合に著作権侵害となるか?」、「秘密情報をプロンプトに入力した場合は不競法における『営業秘密』『限定提供データ』の要件を失わせるか」、といった論点が生じることになります。

このような、生成AIの法的論点に関する基礎知識を身に着けることで、生成AI以外の場面におけるデータの取扱いに関する論点を検討する場合にも応用できることになります。

ポイント2 生成AIツール利用の社内ポリシーに法務スタンスが顕れる

今回の特集のうち「コンテンツケースにみるAIコンテンツ生成に対する内部規約の要点」(福岡真之介・著)において、以下の通り述べられています。

会社の基本的方針として、コンテンツ生成AIを利用することについて積極的なのか、あるいは抑制的なのかを明らかにすることが望ましいと考えられる。会社がどのような立場をとっているかは従業員の生成AIの利用に大きな影響を与えるからである。どちらの立場をとるのかは、会社の業種、取り扱うコンテンツの種類、顧客層などの状況による。たとえば、メーカー、金融機関、広告会社、メディア会社、ゲーム会社ではそれぞれコンテンツに対するかかわり方が異なる。

ビジネス法務(2023年11月号・16頁)

つまり、いまのところ、生成AIの利用方針をどのように定めるか、という点に「正解」はないのです。

ポイント1で述べた通り、生成AIの利用は法律問題が深く関わることから、社内ポリシーの構築にはその会社の法務部のスタンスが大きく寄与することになります。

正解がないからこそ、リスクアセスメントを適切に行って安全に自社の利益を守りつつ、生成AIというビジネスを推進するツールをいかに使いこなすか、という法務のセンスの見せ所となります。

この観点から、今回の特集「生成AIの法的ポイントと内部規約を検討する」は生成AIの利用を法的に検討するにあたって基本的な知見を提供してくれており、非常に有用です。

ポイント3 生成AIの利用は実務上リスクが高いのか?

  • 従業員の生成AIサービス利用のすべてを監視することはできないため、個人データの不適切な提供や秘密情報を入力するリスクを防止できない。

  • 会議の議事録に関する要約をさせようとすると、どうしても個人情報や秘密情報のプロンプトへの入力が必要となってしまう。

  • 生成AIを通じて得たアウトプットのについて他者の著作権や商標権、意匠権侵害をすべてチェックすることはおよそ不可能である。

生成AIに関する法律問題を検討すると、上記のようなリスクが容易に想定されます。

しかし、生成AIの利用においては、個人情報保護法や他者の知的財産権の侵害リスク、営業秘密性の喪失リスクを言っていけばキリがありません。

この特集では、生成AI利用のリスクに関して以下の通り述べられています。

内部規約を設ける場合には、その影響により従業員が過度に委縮して生成AIの利用を差し控えることにならないように配慮する必要がある。(16頁)

社内資料に記載されている個人情報の内容・性質や出力結果の用途に応じ、実質的なリスクが低いと判断できる局面では柔軟な運用を認めるアプローチをとることが現実的といえよう。(26頁)

ビジネス法務(2023年11月号)

個人的な見解ですが、上記で挙げたようなリスクが実務上顕在化する可能性は、一般的にかなり低いケースが多いのではないか、と感じます。例えば、生成AIの利用において自社の企業内情報を入力したとして、それが個人情報保護法違反の誹りを受けたり、営業秘密の漏えいだとして他社とのトラブルで問題になるおそれは実務感覚からみて少ないな、と感じます。

過度に法的リスクをセンシティブにとらえることなく、生成AIの有用性が認められる場面においては、リスクの顕在化可能性を現実的にとらえて柔軟に対応していくのが、ビジネスの成長に寄与するのではないでしょうか。

そのためには、法的論点を正確に分析・検討すること、そして、個々の状況および事業部門の取り扱うデータの性質に鑑み、わかりやすく具体的なポリシーを定めることが重要となります(もちろん事業内容や企業ごとの情報セキュリティポリシーによってとるべきスタンス・ポリシーは異なるのが前提です)。

まとめ

2023年11月号は、今回取り上げた特集1「生成AIの法的ポイントと内部規約を検討する」だけでなく、昨年改正のあった消費者契約法に関して特集2「消費者契約法改正後の実務点検」という、IT企業法務にとって大変参考となる特集が組まれています。

それ以外にも、「2023年6月総会レビュー ―総会資料電子提供制度の初年度を迎えて」(実務解説)や「その広告大丈夫? 法務部が知っておくべき景表法の最新論点(第1回 No.1表示)」という新連載が始まっており、非常に有益でした。

以下に記事としていますが、法務パーソンの知識のアップデートに「ビジネス法務」、おすすめです。


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