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山高/海深(やまたか/うみふか)第四章

ガメラはやっぱり海でしょう

深緑色の山は、ムッとする草息れに燃える様な強い日差し、そんな季節になり、リュウイチ・サトシ・エミコの3人は、連日ギドラを観に行き、暗くなってから帰る。直近では夜8時に帰宅し、家族に叱られると、「だって暗くなるとね、洞窟と同じぐらいの胴回りのギドラの親がね、ゆっくり出て来て、また明日ねーって、山を登って行くんだ。だから僕等もそれに挨拶してから帰るのさ」と言う、困った親は、山の所有者の和尚に、子供たちが、こんなことを言うのさ、と相談した。すると和尚は、不思議な山の話をした。

寺にある古い書付に龍神の話がある。私なりに色々と調べたところ、あの洞窟の深端部に、湖を発見したのです。地熱が付近にあると思われ、水温は40℃ぐらいありました。洞窟は入り口から10メートル辺りから下に伸びている構造なので、暖かい湯気が溜まっていると思われます。一方山は日が落ちると急速に冷えて来るので、温度の差が生まれ、暖気は冷気にいっきに吸い寄せられどんどん上昇するので、それが龍に見えると仮説を立ててみました。どうです。一緒に見てみませんか?と言うのです。

週末の午後6時に寺の裏には、ちょっとした集団が出来た。役場の広報まで来ているのだ。全員で、ライトアップされたギドラが覗く、裏山の洞窟を見守った。日はすっかり落ちて、急速に涼しくなってくる。冷気が山の上から落ちてくると、それが始まった。

ギドラの黄金の三つの頭を包み込むように、洞窟いっぱいに青い塊がスーッと伸びて、山に沿って登り始めた。下の方はライトアップされたギドラの鱗模様がマッピングされ、リアルに龍の肌合いを出現させています。呆然と見ていた役場の職員が、「凄いなあ、ほら上の部分、山道を走る車のライトが二つ!まるで竜の目のよう見えてるぞ!」一同。ワーッ本当だ!と声を上げる中、サトシは「違うよ!裏山には車なんか入れないじゃないか!あれは目だよ!龍の目」大人達が一斉に和尚を見つめる中、和尚は言った「その通りだ。龍神は居たんだ。ありがたい、ありがたい」と合掌をして、経を唱え出した。大人も子供も自然と合掌する中、ウネウネと山を登る龍は頭を振る。でも龍眼はあるべき所にあり続け、紛れもなく目だ。気付けば全身に、薄い青い光を纏っていた。

学校が休みに入る前、米永さんはアトリエに改造した古民家で、ガメラの制作に打ち込んでいた。助手は役場の広報から来ている2人の若者だ。夏祭りに間に合わせようと連日頑張っている。ガメラの設置場所は、ここから20分ほど車で下った海岸である。海岸には波に抉られて出来た、アーチ型の短いトンネルが幾つもあり、その一つに海に向かって建てることになっていた。冷たい麦茶を運んできた若者が「先生、村おこしポスター、評判良かったですよ、でも何で、AIイラスト使わないんですか? パソコン得意なのに」と聞く、米永は、「先生!は止めてくれよ、AIイラストもやってみたけどさ」エエッ!見せてくださいよ、と言われてその画面を出して、ヒョイと出力紙も指差す。2人共「ワァーかっこ良いなあ」米長は「そうなんだよ!でもね、村長も助役も俺もこっちにしたんだよ」と今配布中のポスターを指差した。どう?リンゴ飴もイカ焼きも有りそうでしょ?でもね、AIにそれを入れたら具体的に図柄としてハッキリ出て来ちゃうのさ、君を使ったとするよ、すると肖像権に触れない君が入ってくる。勿論私の勉強不足が大きいが、凄く良く出来たニセモノ

俺にはそう見えちゃうのさ、2人がウーンと考え込んでいる。

「おじさーん、歯、塗れたよー」と子供達が駆け込んできた。どれどれと作業場へ向かった米永さんが、ワハハハハと、大笑いした。後から来た助っ人の2人も、可愛いー、ホワイトニングガメラだーと、大笑いだ。子供達も「ホントだ〜、朝晩歯磨きするガメラみたいだー」と大笑いだ。その時、夕焼け小焼けのチャイムが鳴って、さあ君たちは帰りなさい、汚れた手袋とマスクはバケツに入れてね、と言われて、ハーイ!バイバイとガメラを振り返りながら帰っていった。

役場の2人も、明日はガメラの移動ですね夕方4時には大型トラックが来ますからね、やっぱり、ガメラは海でなきゃネ、へへへ、では明日も朝8時には来させていただきます。と言って帰った。

1人になると、まだまだ明るい窓に、日が長くなったなあと思い、ホワイトニングガメラに、ニッと笑いかけて、奥からビールとアタリメ、灰皿を持って来て「ガメちゃん、ちょっくら休憩させてね、今夜は徹夜ですよ」と言って、ビールを一口、薄い煙を吐きながら、今だよ!今が一番幸せだ。と思うのだ

つづく


次回は 山高/海深(やまたか/うみふか)第五章

りんご飴と日本の妖怪


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