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山高/海深(やまたか/うみふか)第三章

キングギドラのいる洞窟

エミコの父親は、若い頃、特撮スタッフをしていた。そこで出会ったのが、エミコの母親だ。結婚後、エミコが生まれ、農家の跡取りとして働く現在でも、物置部屋は趣味となった思い出の品で溢れていた。村の子供達は、その部屋に興味津々、飾られたゴム製の着ぐるみが見える窓に、度々張り付いていた。

ある日、テレビで、キングギドラの映画が放映された。翌日、学校は1限目から大騒ぎだった。だって、あの怪獣はエミちゃん家に居るんだもの、授業が終わると、大急ぎで教室を飛び出した。大勢の子供達が農道を、一目散に走っていく、エミちゃんのご両親が農作業をしている広大なハウスに着くと、「お願い!ギドラに合わせて!お願い、お願い」と口々に騒ぎ立てるのだ。まぁ、1人娘のエミコに、「パパ、ママ、お願い!大好き!」と言われては仕方がない、

夫妻は、大笑いして、「やっぱり、今日来ると思っていたよ」と言い、じゃあ本日は農作業は早上がりしよう! と、子供達に背中を押される様にして、ニコニコと家路を急いだ。

縁側に勢揃いしたゴム製の着ぐるみ達!ガメラ、ペギラ、ギャオス、そして、キングギドラだ。濡れ縁に勢揃いしたチビ達は大騒ぎ、エミコの母親がニコニコしながら、口の前に人差し指を立て、シーと言うと、静かになるチビ達、そして何やらスイッチオン すると、

グオーンゴー ギャース ガオーグー キュルルキュルル、怪獣の声が響いたのだ。子供達の興奮は、高まるばかりだ。「おじさん、触ってもいい?」リュウイチが歩み出ると「いいよ、勿論だ。ゴムが劣化してベタベタするが、触ってごらん」ワラワラと近付いて、そっと触ってみる。皆んな小声になって、ヒソヒソと、わー凄いねぇ、爪の所もゴムなんだぁ、ギドラの頭に細い糸が付いているぞ! そんな子供達に、エミコの両親は特撮の方法や凄さを楽しそうに教えていった。夕方になってしまい、また明日と子供達は帰って行った。

その週末の夜、1人娘のエミコがどうも挙動不審だ。と、思っていたら、リュウイチが自転車でやってきた。「こんばんは、あの怪獣、もう使ってないって言ってたから、僕らに売って欲しいのです。足りない分は、後で働いて必ず払いますから」と言って、前カゴから風呂敷を取り出した。居間に落ち着いて広げると、中から12個の貯金箱が出て来た。何と愛娘のピンクの豚貯金箱も出て来て、母親が吹いてしまった。父親も大笑いしながら言った「勿論、君たちに全部あげるよ、お金はいらない! だから貯金箱は、みんなに返してくれ」よっぽど嬉しかったらしく、リュウイチは泣いてしまい、おじさんに頭をヨシヨシされて帰って行った。愛娘のエミコは、豚の貯金箱を掲げて、「やったー!これで、ギドラランドを造るよー!」と、風呂場でも騒いでいて、9時頃になって、やっと寝てくれた。

母親が、居間で寝酒の準備をしていると、「よく寝ているよ、」と言って、父親がソファーに座った。彼はニヤニヤが止まらない「ギドラランドとはねぇ、さすが、俺たちの娘だよね」「フフッ、そうね、ギドラランド、私達も参加しない?」「それは俺も考えていたよ、あのオモチャは、遊び方があるからね」少し考え込んだ2人は、同時に声を上げた。「米永(よねなが)さんに相談しよう!」米永さんは、特撮の制作チーフだった人だ。引退した後も仕事が好きで度々現場に来て指導してくれた人だ。お元気であればきっと来てくれる。

翌々日の夜中近く、米永さんはすっ飛んで来た。「嬉しいねえ! 何何?ギドラ動かすって?」80近い年齢とも思えない元気だ。

翌日から米永さんは、精力的に動き回り、幼稚園の園長に掛け合って、彼が住職を兼任している寺裏山にある洞窟を借りてしまった。そこがギドラ達のお家になった。子供達は大喜びである。学校終わりには、飛んで来てお手伝いをしたり、遊んだり、エミコはペギラと仲良しらしい、米永さんは、プロダクションの許可も取り、市役所の許可まで取り、嬉々として動いた。

6月のある日、農協と役所の偉い人が米永さんを訪ねて来た。緊張するエミコの両親に対し、米永さんは至って普通で、やっと来たか、と言う感じなのだ。 曰く、村起こしの一貫として申請が通ったので、補助金を出す事が決まった。是非ギドラランドを、夏祭り迄に完成させていただきたい。付いては市としても、同時期に海側にて花火大会を開催するので、その企画にもご参加いただきたい、上手くいったら毎年恒例としましょう!と、こんな話であった。以来。公民館には大人達が集まっている。彼等は皆んな、怪獣とウルトラマンに、思い入れのある世代だ。

緑も深くなったある週末。山の洞窟にキングギドラが入洞した。

小・中学生、高校生まで手伝った。定位置に固定され、黄金色に輝くキングギドラは、やっぱり大きかった。西日が奥まで差し込み、スイッチオンで生命が宿った様に、3つの頭をグッと持ち上げ、グアーキュルルギーンと雄叫びを上げた。

つづく

次回は 山高/海深(やまたか/うみふか)第四章
ガメラはやっぱり海でしょう です。


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