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ショート でも、だって・・・

!??? 味噌汁の香りで目覚める午前4時、イヤイヤ!オカシイ!義母は、足の骨折で、まだ1人では部屋から出られないのだ。早朝の台所へ行くと、何と!義父が料理をしていた。思わず「エッどうしたの?」と、聞くと義父は、チョット気まずそうに「アレが、今すぐ味噌汁が飲みたい! 味噌スープでも良い、具なんか要らないからって、言うからさ」と、味見を頼まれ、まあそれなりに良いと言うと、マグカップ2つを持って、イソイソと去る義父の背中を見送った。

昼に夫から電話があり、医者に会って話を聞いたら、やはり義母は乳癌だった。でも軽度で、ちょっとした手術で大丈夫らしい、

夕方早めに帰宅した夫は、私に頷くと、ビールを数缶テーブルに置き、私は枝豆を準備する。奥の部屋に義父母を誘いに行った。義母がリハビリ疲れで眠ってしまったそうで、父と3人でテーブルを囲んだ。ビールで喉を潤すと、夫が「なあ、父さん頼むよ、何があったか、ちゃんと話してくれよ」少し間を置いてから「アレが、アッイヤ、妻が骨折した夜、付き添いをしていたら、午前3時頃に目が覚めて、足が痛いと泣くんだ。医者を呼んで来ようとすると、嫌だと言うし、困ってギブスを摩っていたんだ。見回りに来た看護師が、起きているのを見て、「具合どうですか」と聞いてくれた、アイツは、「はい、問題ありません」なんて言うんだ。まあ術後だし、色々検査するので、外の自販機に飲み物を買いに出た。戻ると看護師はもういなくて「イチゴミルクが有ったぞ」と手渡すと、ねえアナタ、イチゴミルク好きなのは孫の悦子よ、エッちゃんが残すから飲んでいたのよ、って言うのさ、でも飲めるならとキャップを開け、手渡すと、ゴクゴク飲むから、旨いか?と聞いたら、ウンと頷く、ホレ見ろ! と言ったら、急に真面目な顔をして、骨折したには、理由が有ると言いだした。

先月、町内会の検診で、初期の乳癌が見つかったと言うんだ。俺も初耳で驚いたが、軽度なので入院手術も長くはかからない、短ければ1週間ほどで退院だそうだ。それまでに色々検査などして、日程が決まったら家族に言おうと思ったが、軽度とは言え一応手術は手術なので万が一が無いとは限らない、やりたいことはやっておこう!そう思った時、気が付いたんだってさ、結婚以来、亭主は、やりたいことをさせてくれない、って気が付いちゃった。

俺に手術同意書を見せる前に、やりたい事をしよう、そうだ自転車に乗りたかったんだ、内緒で隣町のスーパーまで行ってこよう、それぐらいしか出来ないけど、と物置から自転車を出して、久々のパンツルックでまたがろうとしたら、足が上がっていなくて道路に転倒、痛くて起き上がれなくて救急車となった。

つまり骨折の原因は、亭主関白な俺だと言うのさ、そんな事は無い!と俺は言ったよ、お前は何を言っても、でも、だってと、素直に聞いたことないじゃ無いか!チョットだけ語気を荒げてしまった、そしたら俺のことキッと睨んで、それよ!アナタは、でも、だって・・の先を聞いたことある? ぶん殴られた気がしたよ、無かったんだよ、いつも「理屈はいいからやっておけ」とか、そんなこと言ってたよ俺は、妻はね「アナタは、きっと私の好みとか趣味とか知らないのよね、知ってると思っているのは、妄想!思い込みの妻よ!」じゃあ、お前はずっと我慢して辛かったって事なのか?と恐る恐る聞いたら、それは無いと言うのさ、「亭主の好きな赤烏帽子って言うじゃない、私の1番の幸福はね、大好きな亭主が幸せでいる事なの、でもね、こうして体も不自由になって来て、でも、だって・・・の先をアナタに聞いて欲しくなったの、例えば(でも自転車に乗りたい、だって遠くに行きたいから、)みたいにね、どうかしら聞いてもらえる?」って言われて、全面的に謝罪して、何でも言う通りにすると約束したんだ。

「そうなんだ、でも安心したよ、父さん、俺たちに手伝える事あったら言ってよ、何でもするよ」「アハハありがとう、とりあえず入院・手術の準備を頼むよ、入院は来週末だ、俺はしばらく妻の世話をするよ、釣り同好会も山岳同好会も止めたんだ。」「お父さん、極端ですわ、一旦休止で良いのでは?」義父はイヤイヤと頭を振って、

でも、これで良いんだよ、だって俺は、あの人を幸せにすると誓って結婚したんだからね」ソロソロ起きる頃だから、これ貰っていくよ! 缶ビール一つと、残りの枝豆を持って、奥へ消えていった。

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