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思い出したくないけど、思い出してしまう忘れ物の思い出 その2

今回は「思い出したくないけど、思い出してしまう忘れ物の思い出」の第2弾である。新幹線に大切な試作品を置き忘れ、散々反省したはずの私だったが、まだまだ反省が足りなかったという話だ。

すでに投稿している、私が派遣社員だった頃の話である。

派遣先で急遽現地の応援要請があり、対応はしたものの途中で十二指腸潰瘍になり、一時帰宅した後に現地入りしたものの、実は関係者に予想外の迷惑をかけていたという話の中でのもう一つのエピソードである。

朝のトイレで下血を確認した私は、現場で関係者に十二指腸潰瘍が再発した可能性がある旨を伝えて、車で現場を出た。

とにかく病院に行かないといけない。しかし、病院といってもどこに行っていいのか、さっぱりわからない。

また病院での医療費に加えて、恐らくは現場を離れて帰宅しないといけないことを予想し、途中の銀行ATMで10万円の現金をおろした。

その後、病院を探すために電話ボックスに入った。

当時はもちろんスマートフォンなどないし、携帯電話も持っていなかった。電話ボックスは貴重な連絡手段だったのである。

電話帳で消化器系の病院を探して電話をした。

症状を伝えるとすぐに来てくださいとのことだった。下血しているということは大量の出血が消化器内で発生しているということであり、最悪の場合は貧血のために動けなくなる可能性もあるとの配慮があったのだろう。

電話ボックスを出て、車に乗せている地図を頼りに目的の病院を確認した。当時はカーナビゲーションなどのない時代である。頼れるのは地図しかない。

場所を確認した後に、車を発進させた。しばらく車を運転して信号で停まった際に、ふと手提げバッグのことが気にあって、置いていると思っていた助手席を見てみると、そこにあるはずの手提げバッグがない。

一瞬状況がわからなかった後に、さっきの電話ボックスにバッグを置き忘れたのだということがわかった。中には先ほどおろした10万円が入っている。そしてそれ以外にもキャッシュカードをはじめとする、多くの貴重品が入っている。

信号が青になると同時に左折して迂回路を通り、来た道を引き返した。全く覚えていないが、前に車がいない場所では制限速度は大幅に超えていただろう。ハンドルを持つ手が汗ばんで震えていた。

交差点の手前で信号が赤になった際には、あまりの焦りのせいで何度も信号を無視しようと考えた。

しかしその度に、自分に「今ここで信号無視で事故でも起こしたら、大変だ。事故にならなくても警察に止められたら元も子もない。」と頭の中にある冷静なもう一人の自分がなんとか自重してくれた。

誘惑と葛藤の末に電話ボックスに到着した。慌てて扉を開けるとそこには私の手提げカバンが私が電話ボックスを離れた時と同じ状態でポツンと置かれていた。

全身から力が抜けて、その場に座り込みそうだった。電話機にすがるようにして手提げバッグを手にすると、疲れ果てた気持ちでもう一度車に戻って、一呼吸した後にゆっくりと病院に向けて車を発進させた。

病院での検査結果、胃の中は血まみれだった。明らかな十二指腸潰瘍の再発が確認されたのだが、その出血の原因は単なる再発だけではなかったのだろうと、私は思っている。

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