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四大酒米で丹精と風景を瓶に詰めたい

米は日本酒の味わいに大きく影響を与えます。そして、お酒に使われる米はさまざまな種類があります。これらの米は酒造好適米または醸造用玄米と呼ばれ、一般的に酒米として知られています。

酒米は、日本酒を造るために最適化された特性を持つ米のことを指します。これらの米は、独自の特徴や風味を持ち、酒造過程での変化や酵母との相互作用によって、独特の味わいや香りを生み出すことができます。

近年、新しい品種の酒米が次々と誕生しており、その数は100種近くにも及びます。これは、農業の技術や品種改良の進歩によって、さまざまな特性や需要に応えるために開発されているからです。

酒米の品種改良は、米の産地や気候条件に合わせて最適な品質や収量を追求する一環として行われています。これにより、日本酒の酒質の向上や多様化が図られています。

さまざまな酒米の品種が存在することで、酒造りの選択肢も広がります。各品種はそれぞれ異なる特徴や個性を持ち、酒造りのプロセスにおいて独自の役割を果たします。

酒米の多様性は、酒造りの世界において新たな表現や風味の探求を可能にしています。酒蔵の職人たちは、さまざまな酒米を使用することで、より多彩で奥深い日本酒を創り出すために努力しています。

また、酒米の選択は地域性や伝統にも関連しています。各地域で特定の酒米が愛され、その地域の特産品や文化の一部として育まれてきた例も多くあります。

酒米の多様性は、日本酒の魅力の一つであり、酒蔵や消費者にとっても新たな発見と探求の対象となっています。日本酒の世界では、常に新しい酒米の出現や研究が行われており、その進化と多様性が日本酒の未来を豊かにしていくのです。

酒米の特徴は醸造用適性が高いことにありまして、粒が大きく軟らかで、心白(米粒の中心にある白く不透明な部分) が大きくて、タンパク質や脂肪分が少ないことが特徴となっています。

「酒米の王」と呼ばれる山田錦

酒蔵の経営をしていたときは冬場に杜氏と一緒に酒造りをしていた時に聞いたのが、最も有名で「酒米の王」と呼ばれる山田錦のことでした。

山田錦の特徴は味にボリュームがあって、バランスのよい酒になると云われており、全国新酒鑑評会で金賞を獲得する大半の酒がこの山田錦です。東北の米どころの酒蔵でも、上級クラスの大吟醸酒は、山田錦を磨いて造ることが多いのです。

その秘密は、心白の大きさがほどよく、大吟醸のように高精米しても砕けにくいという点で、要約すると「杜氏や蔵人にとって扱いやすいお米だし、イメージしたような味を醸しやすい」とうことらしいのです。

タンパク質、脂質の含有量が少な く、80%という低精米酒に挑戦する蔵もあって現 在、作付No.1の人気米となっており、私の会社でも、こちら山田錦を27ヘクタールほど栽培しておりました。兵庫県が主産地となっており、基本的に他府県で栽培は禁じられているはずですが、形骸化しており、京都や鳥取でも産地があるよと見聞きしてきました。

五百万石の魅力

前回の記事でも取り上げたのが、こちら「五百万石」。米どころ新潟で開発されたロングセラーの酒米で、こちらもがっつり栽培してきました。京都で栽培していたのですが、適地ではなかったのか、高稲になりがちで倒伏の危険性が高かったです。

酒米の栽培を効率的に営農地域を増やしていくために鉄コーティング栽培技術を導入することによって、五百万石米は強く大地に根を張り、その成長を見ることは喜びに満ちていました。特に秋の訪れと共に、五百万石の穂が頭を垂れる姿は、美しい光景として私たちの心に深く刻まれています。

夕日が移る時間帯になると、穂が優雅に揺れながら、その美しい姿を見せてくれます。夕焼けの光に照らされた五百万石の稲穂は、まるで金色の絨毯を広げたかのようであり、その景観はまさに絶景と言えるでしょう。

この美しい風景を見ると、私たちは農業の喜びや豊かさを実感します。五百万石の美しい姿は、私たちが丁寧に育てた証でもあります。栽培の過程での努力や農作業への情熱が、この美しい光景として形になって表れているのです。

私たちは、この美しい風景と共に五百万石の魅力を伝えることにも力を注いでいきたいと思うようになりました。五百万石の特徴や品質を紹介し、その美しさや風味を多くの人々に伝えることで、五百万石の価値を高め、さらなる魅力を引き出すことを目指しています。

五百万石は心白(しんぱく)が大きい特徴を持っています。心白とは米粒の中心部分であり、この部分が大きいと米の味わいに深みやコクが生まれる傾向があります。

しかし、五百万石は精白率が高くなると割れやすくなるため、50%以上磨くことは難しく、大吟醸にはあまり適していないとされています。そのため、鑑評会などで頻繁に評価されることは少ないかもしれません。

しかし、私たちはこの酒米の特性を理解し、その魅力を最大限に引き出すための醸造技術に取り組んでいます。五百万石で醸した純米酒は、その特有の香りや味わいが感じられ、個性的で愛される一本となることがあります。

実際に、酒造りの技術力は品種によって現れるものです。五百万石は独特の特性を持っているため、その特徴を理解し、最適な醸造プロセスを選択することが重要です。

私たちの蔵では、五百万石を用いた純米酒にこだわり、その個性や風味を最大限に活かすための工夫をしています。酒米の特性に合わせた醸造技術や製法の改善に取り組みながら、五百万石で醸した純米酒の味わいを追求しています。

五百万石で醸した純米酒は、その独特の香りや心白のコクが魅力です。蔵の技術力や熟練した蔵人の手によって、五百万石の持つ個性的な特徴が最大限に引き出された純米酒を提供することができます。

私たちは、このような個性的な酒米を通じて、多様なお酒の魅力を伝え、お客様に喜びと驚きを提供したいと考えています。五百万石で醸した純米酒は、その蔵の技術力やこだわりが反映された一本となり、多くの人々に愛されることを願っています。

技術力だけでなく、さまざまな「和」の要素がおいしいお酒づくりには欠かせません。

お酒の製造において、和が重要な役割を果たすというのは、私たちの酒蔵でも共通の認識です。和とは、酒米を育てる農家との和、酒造りに携わる職人たちとの和、そしてお客様との和を意味します。

まず、酒米を育てる農家との和は、良質なお米を提供していただくために欠かせません。農家の方々とは密なコミュニケーションを図り、お互いの信頼関係を築いています。彼らの情熱と努力に支えられたお米を使うことで、おいしいお酒を生み出すことができます。

また、酒造りに携わる職人たちとの和も重要です。彼らは長年の経験と熟練した技術を持ち合わせており、お酒づくりにおいて欠かせない存在です。職人たちとの綿密な連携と協力を通じて、最高品質のお酒を創り上げることができます。

さらに、お客様との和も大切な要素です。お酒は人とのつながりを深める媒体として、楽しまれることが多いです。お客様の声やフィードバックを大切にし、彼らの期待に応えることを常に意識しています。お客様とのコミュニケーションを通じて、おいしいお酒を提供するための改善点や新たなアイデアを得ることができます。

精米する専門店との「和」も重要な要素です。彼らは酒米を丁寧に精米し、最高の品質を追求する専門家です。彼らの技術と情熱によって、私たちの酒米が一層輝きを放ち、おいしいお酒の原料となるのです。

これらの「和」の要素が結集することで、私たちはおいしいお酒を生み出すことができます。技術力はもちろん重要ですが、和を大切にし、関係者との共同作業を通じてお酒の品質や価値を高めていくことが私たちの醸造の核心です。

和を大切にすることで、私たちはお客様に喜びと感動を提供し、おいしいお酒の魅力を広めていくことができます。和の思想を醸造のすべての工程に込め、おいしいお酒を通じて人々をつなげる喜びを追求し続けます。

五百万石は淡麗な味わいときれいな酒質で定評があります。そのため全国各地で栽培されており、多くの酒蔵で使用されています。また、早生品種で耐冷性もあるため、農家にとっても栽培しやすい品種といえます。

ただし、高稲の場合にはコンバインを使う必要があるため、新たに取り組む際にはハードルが高いかもしれません。しかし、大豆や小麦などをすでに栽培されている農家の方にとっては、取り組みやすい選択肢となるでしょう。その場合、ぜひ五百万石の栽培にも挑戦してみてはいかがでしょうか。

また、主旨がずれるかもしれませんが、大麦の栽培を始めることでビール醸造にもチャレンジすることができます。農家の方にとっては、さまざまな作物を栽培し、異なる製品づくりに取り組むことができるのは楽しみの一つでしょう。

農家という職業は、自然と向き合いながら多様な作物を育てることができ、その収穫の喜びや製品づくりの楽しみを味わえる最高の職業の一つです。畑や田んぼでの作業や季節の移り変わりを感じながら、自然との調和を大切にしながら農作業を行うことは、心豊かな時間を提供してくれます。

農家の方々にとって、五百万石の栽培やビール醸造といった新たな取り組みは、多様な楽しみをもたらすことでしょう。農業の可能性を広げながら、さまざまな製品を通じて人々に喜びと楽しみを提供することを目指してください。

美山錦という雄大な自然

美山錦は、長野県で開発された酒米であり、たかね錦に代わる新たな品種として育成されました。その特徴は、大粒でありながら心白の発現率が高いことにあります。心白とは、米粒の中心部分に見られる白い部分で、酒の味や香りに影響を与える重要な要素となります。

美山錦は、長野県の雄大な自然や北アルプス山頂の雪のような美しい風景にちなんで名づけられました。その風景から感じられる清らかなイメージが、美山錦の特徴とも重なっています。

この品種は、酒造適合米として開発されたため、酒造りに適した特性を持っています。大粒であるため、酒造りにおいても取り扱いがしやすく、心白の発現率の高さは、酒の味わいや香りをより豊かにする一因となります。

美山錦は、長野県の酒蔵を中心に使用され、その魅力が多くの酒愛好家に広く知られています。長野県の雄大な自然環境や風土が育んだ美山錦の特徴を活かし、酒造りの技術との融合によって、上品で華やかな味わいの日本酒が生み出されています。

美山錦は、酒米の多様性を示す一例として挙げられます。日本各地で独自の酒米が育成され、その土地の特徴や風土が酒の味わいに反映されることは、日本酒文化の豊かさを象徴しています。

美山錦の存在は、地域や品種による多様な日本酒の魅力を伝える上で重要な要素です。酒蔵や農家、酒愛好家が協力し、美山錦を通じて新たな日本酒の世界を広げていくことは、酒文化の発展に貢献することとなるでしょう。

第3位の生産量を誇る品種として知られており、爽やかでキレのよい軽快な味わいが特徴の酒米なことから富山県や岩手県から東北一帯、関東、北陸地方で広く栽培されています。

これらの風土は寒冷な気候で知られ、この地域の特性を活かして栽培された酒米は、耐冷性に優れた品種として評価されています。寒冷な気候の中で育つことで、米粒の内部に独特の成分が蓄積され、その結果、酒の味わいに深みとキレが生まれるのです。

また、これらの地域は他の地域と比べて日照時間が短く、湿度が高いため、米の成長がゆっくりと進みます。この環境が、酒米に特有の味わいや風味をもたらし、軽快な口当たりと爽やかな香りを引き出す要素となっています。

地理的な条件と風土が醸造に適しているため、酒蔵や醸造家にとって貴重な酒米となっています。この品種を使用した日本酒は、軽やかでスッキリとした味わいが特徴であり、多くの人々に愛されています。

他の地域とは異なる特性を持つ酒米を生み出し、その個性的な味わいが地域の酒造りを支えています。農家や酒蔵が美山錦を通じて新たな日本酒の魅力を発見し、伝統と革新を融合させながら、さらなる進化を遂げることでしょう。

美山錦は、地域の特性や風土が醸造に深く関わっていることを象徴しています。その魅力を引き出すために、酒造りの技術と情熱が注がれることで、さまざまなスタイルの日本酒が生み出されることでしょう。

上品で優雅な味わいが特徴の雄町

「雄町」は、山田錦の祖先と言われる古い品種で、原生種の酒米に近い特徴を持っています。この品種は晩稲種であり、岡山県が主要な生産地とされています。しかし、実は鳥取県の大山山麓で発見されたという興味深いエピソードも存在します。

雄町は、その風味や香りの特徴から、上品で優雅な味わいが特徴とされています。酒蔵では、雄町の特性を生かした繊細で洗練された日本酒を醸造することが多いです。

岡山県を中心に栽培されている理由は、岡山の気候や土壌条件が雄町の栽培に適しているためです。岡山の風土は、雄町が美味しさを引き出すための重要な要素となっています。

また、鳥取県の大山山麓での発見については、雄町が古くからこの地域に栽培されていたことを示しています。この地域特有の風土や気候が、雄町の品質向上に寄与していた可能性もあります。

雄町は、山田錦のような知名度はありませんが、その歴史と独特の特性から、日本酒愛好家や酒蔵の間で高く評価されています。岡山や鳥取の地域性を反映した雄町の日本酒は、その風味や個性が魅力となり、多くの人々に喜ばれています。

酒蔵や農家は、雄町を通じて地域の風土や伝統を守りながら、酒造りの技術と情熱を注ぎ込んでいます。これにより、雄町の日本酒は豊かな味わいと深みを持ち、多くの人々に愛される存在となっています。

「雄町」は最初、「二本草」と名付けられた品種として発見されました。しかし、発見者の出身地である鳥取県大山山麓に由来して「雄町」と改名されました。この改名は、雄町の起源と地域への敬意を示すために行われたものです。

その後、雄町は他の酒米との交配により、さまざまな改良品種が生まれました。改良雄町、兵庫雄町、広島雄町、こいおまちなどがその代表的な例です。これらの交配種は、雄町の特性を引き継ぎながら、風味や栽培特性の改良を図ったものです。

改良雄町などの品種は、それぞれの地域で栽培され、その土地の風土や気候によって独自の特徴を持つ日本酒が醸造されています。これらの品種は、雄町の基礎を築きながらも、地域ごとの個性を表現するために重要な役割を果たしています。

「雄町」の名前の由来やその改良品種の存在は、日本酒文化の多様性と進化を象徴しています。酒蔵や農家は、これらの品種を醸造に活かしながら、地域の風土や伝統を受け継ぎ、独自の日本酒を創造しています。

雄町の名前や改良品種の存在は、日本酒愛好家や生産者にとって重要な要素です。これらの品種を通じて、地域の魅力や多様性が表現され、さまざまな日本酒の選択肢が提供されています。

雄町は、その特性からやわらかな軟質米として知られており、醸造過程で米が溶けやすくなる特徴があります。この特性を活かして醸造される日本酒は、フルボディータイプの味わいを持ち、豊かな味幅を表現します。

雄町の酒は、口に含んだ瞬間から米の旨みや甘みが感じられ、滑らかで優雅な舌触りをもたらします。その後も余韻が長く続き、じんわりとした風味が口の中に広がります。これによって、飲み手は酒の奥深さや複雑さを楽しむことができます。

このような特性を持つ雄町は、日本酒の多様性を広げるために重要な存在です。そのフルボディーな味わいと長い余韻は、食事との相性も良く、料理の味を引き立てることができます。また、雄町を使用した日本酒は、熟成によって味わいが深まることもあり、長期保存に適しているとされています。

雄町は岡山や鳥取を中心に栽培され、地域ごとの風土や技術によって個性が生まれます。酒蔵や醸造家は、雄町の特性を最大限に引き出すために研究や努力を重ね、その個性を活かした日本酒の醸造に取り組んでいます。

雄町は古い品種でありながら、その特異な特性から多くの酒好きに愛されています。そのフルボディーで奥深い味わいは、日本酒の魅力をさらに広げ、新たな酒の楽しみ方を提供しています。

水稲農家には「足あとは最高の肥料」という言葉があります。この言葉には、農業の原点的な哲学が込められています。毎日、田んぼに入り込み、細やかな手入れを行うことで、稲がよく育つという意味が込められています。これは、機械化や効率化が進んだ現代の農業においても大切なメッセージです。

しかしながら、農業の現場が完全に機械化されてしまうと、農家と稲の間に一定の距離が生まれてしまうこともあります。大型機械の座席から稲を見る視点は、稲づくりにおいて必要な直感や感覚を薄れさせることがあるかもしれません。また、機械に頼ることで、細やかな手入れや稲との一体感が失われることもあります。

このような状況から、麹菌や酵母菌との距離を置いてしまう可能性もあるかもしれません。麹菌や酵母菌は、お酒の醸造において欠かせない存在であり、彼らとの関わりがお酒の風味や味わいを左右します。稲づくりと同様に、麹菌や酵母菌との触れ合いやコミュニケーションも大切です。

そこで、農家や醸造家たちは、効率化や機械化の進展と同時に、「足あとは最高の肥料」の教えを心に刻み、稲づくりや酒造りにおいて手作業や麹菌・酵母菌との接触を大切にしようと努めています。彼らは、大型機械の座席から離れ、田んぼに足を踏み入れ、稲との一体感を取り戻す努力を惜しまず行っています。

農薬や化学肥料に頼らず、自然との共生を重視した農法や醸造方法も広まってきています。これによって、稲との関係性がより深まり、麹菌や酵母菌との相互作用が活性化することで、より豊かな風味や味わいを生み出すことができるのです。

結果として、「足あとは最高の肥料」という教えは、農業や酒造りにおいて、土地や作物、微生物との密な関係性を持つことの重要性を教えてくれるものとなっています。機械化や効率化が進んだ現代でも、その教えを忘れず、大切なつながりを守り続けることが、おいしいお酒づくりや持続可能な農業の基盤を築く一助となるのです。

蔵の大屋根に登れば見える範囲で醸す

あるとき杜氏に「なんで今この作業をするんですか?」と質問すると、「なんとなくだな」というのが返ってきました。

この「なんとなく」という言葉には、直感や経験に基づく感覚的な要素が含まれています。杜氏が「なんとなくだな」と答えた時、私は勘でお酒を造っているのかと思ったものですが、その後、自身が醸造アドバイザーとして蔵で働くようになり、自分自身も同じような思いを抱くようになったことに気づきました。

年齢を重ねると、経験や感性が磨かれ、醸造において「ここでひと手間かけてやるともっと良くなるな」という漠然とした思いが芽生えてくるものです。これは、醸造に関わる人々が培ってきた知識や経験が蓄積され、その中で感じ取ることができるものです。

醸造アドバイザーとしての立場で働くようになってから、蔵の中で作業をしていると、時折、直感や経験に基づいて「ここを変えてみよう」「これを追加してみよう」という思いが湧いてくるのです。それは、醸造のプロセスや材料、微生物との相互作用について深く理解し、感性を磨いた結果なのかもしれません。

この「なんとなく」の感覚は、言葉にはなりにくいものかもしれませんが、それが大切な要素であり、お酒造りにおいても重要な役割を果たすのです。それは、醸造における細やかな気配りや微妙な調整、手間をかけることによって、お酒の品質や味わいを向上させるための鍵となるのです。

杜氏が「なんとなくだな」と答えた時の漠然とした思いは、私にとって共感を呼ぶ感性となりました。それは、経験や感性によって醸されたものであり、お酒造りへの情熱や探究心を表しています。その思いを大切にしながら、醸造アドバイザーとしての役割を果たし、より良いお酒を創り出すための努力を続けていきたいと思います。

結局のところ、本当に旨い酒というのは、蔵から半径5㎞以内の米だけで純米酒を造るのが理想だと思います。そのような米は、地元の気候や土壌と相性が良く、麹菌や酵母菌との相互作用も最適な状態で進むことが期待できます。

麹に寄り添い、もろみと添い寝する気持ちになった時、杜氏の中にある「なんとなく」という感覚が芽生えるのかもしれません。それは、直感や感性が醸造のプロセスに織り込まれ、微妙な調整や手間をかけることによって最高のお酒を創り出すための指針となるのです。

蔵から半径5㎞以内の米を使って純米酒を造ることは、地域の特徴や個性を反映させ、その土地ならではのお酒を生み出すチャンスでもあります。地元の農家や醸造家との協力関係が築かれ、お互いに情報や技術を共有しながら、地域のお酒づくりの魅力を高めていくことも可能です。

「なんとなく」という感覚が出てくる瞬間は、麹やもろみとの一体感を感じるときかもしれません。その瞬間、醸造家は麹菌や酵母菌との関係性を強く意識し、微細な変化や微妙なバランスを追い求めることで、お酒の味わいや品質をより良くすることができます。

「なんとなく」という感覚は言葉にはなりにくいものかもしれませんが、それが醸造家の魂や情熱が宿る場所であり、お酒への深い愛情と探求心が集約される瞬間でもあります。

その感覚を大切にし、麹やもろみとの共鳴を感じながら、地元の米を使った純米酒を造り続けていきたいと思います。それが、本当に旨い酒を生み出す道への一歩となると信じて。

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