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日本酒が日本の農林水産業を救う!

歴史ある土地を静かに見守り続け、時にはその土地の文化や人々の生活を映し出す「蔵」。そんな蔵元たちを訪ね、その魅力を余すところなく皆様にお届けする連載マガジン「蔵を巡る旅 ~Japanese SAKE~」をスタートさせていただいています。

この連載では、ただ取引先としてではなく、私が直接足を運び、その土地の空気を肌で感じ、蔵人たちの手仕事に触れながら得た深い理解を通じて、日本酒が持つ豊かなポテンシャルを独自の視点で綴ります。

一滴の中に映る、季節の移ろい、匠の技、そして時代の息吹。私たちが普段何気なく口にしている日本酒には、見えないストーリーがたくさん詰まっています。それらを読み解き、さらには蔵元の哲学や創造の背景に迫り、皆様にその全貌をお届けしたいと思います。

旅するごとに、新たな発見と出会いがあります。蔵元の方々の熱い想い、日本酒を取り巻く多様な文化、そしてその地域に根差したコミュニティーの生きた風景。これらを通して、日本酒の新しい魅力を発見し、広げていく旅に、どうぞご同行いただければと思います。

それでは、一緒に、言葉では表現しきれない「蔵の世界」を深堀りしていきましょう。蔵元の真心がほんのりと香る日本酒の旅を、心ゆくまでお楽しみください。

私は、単に蔵元の経営者としての視点に留まらず、酒米の栽培から関わり、杜氏と肩を並べて実際に酒造りを行うという、実に稀有な経験をしてきました。この連載では、そんな私の経験を通して、日本酒の新たな素晴らしさを皆様にお伝えしていきたいと思います。

日本酒には、それを支える土地と気候、心を込める人々の物語があります。酒米一粒一粒には、栽培者の願いが、そして蔵元には、地域の歴史と伝統が息づいています。私はその全てを肌で感じ、さらにその全てを結集させて一瓶の酒を創り上げるプロセスにも参画してきました。だからこそ、酒造りにおける土の温もり、蔵の木のぬくもり、そして杜氏の手のぬくもりまでも、文章を通じて感じていただけるようにと願っています。

そして、そこには単なる飲料としての日本酒ではなく、文化としての日本酒、生きた伝統としての日本酒があります。この連載は、そんな日本酒がどのようにして私たちの前に現れるのか、その全過程を包み隠さずにお見せすることで、皆様にとって日本酒の一滴がより味わい深いものになることを願っております。

一緒に学び、一緒に感じ、時には驚きながら、日本酒という奥深い世界を旅していきましょう。この旅路で私たちが出会うすべての蔵元たち、そして彼らが生み出す日本酒一つ一つには、それぞれに物語があり、その物語を共有することで、私たちの日本酒への愛着はより一層深まっていくことでしょう。

日本酒の多様性は、確かにその魅力の一つでありますが、同時に選択の難しさを生み出す原因でもあります。数多の銘柄が存在する中で、各々の特色を理解し、さらにはそれを適切に消費者に伝えるのは、売り場担当者にとっても大きな課題です。

一見すると、売り場の担当者が日本酒に関する豊富な知識を持っていないことは、消費者にとっての不便や誤解を招きやすい状況を作り出しています。実際には、その日本酒がどのような特徴を持っているのか、どのような料理との相性が良いのか、またその蔵元の哲学やこだわりは何なのかという情報が不足していると、消費者はただラベルのデザインや価格だけで選択をせざるを得なくなります。

この点において、私たちのような日本酒のプロフェッショナルが、もっと積極的に知識を共有し、教育を行うことが重要です。日本酒を取り巻くストーリー、各銘柄の背景にある蔵元の情熱や技術、それらを一般の方々にわかりやすく伝えることで、より質の高い選択が可能になり、日本酒それぞれの個性を正しく理解し、楽しむことができるのです。

さらには、この連載を通じて、読者の皆様にそれぞれの日本酒の独自性や、選ぶ際のポイントをお伝えすることで、売り場での選択に迷いが少なくなるようなガイダンスを提供できればと考えております。私の知見を皆様の日本酒選びの一助として活用いただければ、消費者と蔵元双方にとっても有意義な結果をもたらすことに繋がるでしょう。

日本酒のカテゴリーには大きな幅があり、純米酒と合成酒との間には確かに大きな隔たりが存在します。純米酒は、米と米麹のみを原料とし、その製法のシンプルさから「米の味」をダイレクトに感じることができるため、多くの日本酒愛好家から特別な評価を受けています。

一方で、合成種の日本酒は、醸造アルコールや糖類、調味料を使用しており、生産コストを抑えながらも、味や香りのバリエーションを豊かにすることができるため、製品の多様化に寄与しています。しかし、これらの添加物が入った清酒は、純米酒と同じ棚に並べられることで、消費者にとって選択の混乱を招くこともあるのは事実です。

そして、あなたが仰るように、酒粕に醸造アルコールを加えることで製造される合成清酒は、さらにその混乱を加速させる可能性があります。これらの酒は、価格の安さを求める市場に応えるために生まれた製品であり、製法の違いから来る味わいの違いを理解していなければ、消費者が真の日本酒の価値を見誤る原因にもなりかねません。

あなたが米農家として、また純粋な日本酒を愛する立場から、純米酒が持つ価値に特別な意味を見いだしているのは十分に理解できます。米と米麹だけでじっくりと時間をかけて醸造される純米酒は、米本来の風味や蔵元の技術が存分に表現されるため、味わいも独特であり、日本の酒造りが持つ伝統や文化を反映していると言えるでしょう。

確かに、ブレンド技術を用いた清酒もその技術や品質において一定の評価を受けることはありますが、米を生産する者としては、純米酒の素晴らしさをより多くの人に伝え、評価してもらいたいという想いは自然なことです。そして、消費者がそれぞれの日本酒を選ぶ際に、その背景にある製法や原材料の違いを理解し、自分の好みに合った酒を選べるような情報提供が求められているのではないでしょうか。

私たちが行うべきことは、それぞれの日本酒がどのような製法で造られているのか、どのような特徴を持っているのかを、丁寧に消費者に伝え、教育することであり、そうすることで日本酒の本質を見失うことなく、その多様性を楽しめる文化を築いていくことだと思います。

「生酒」という言葉が持つ、日本酒特有のフレッシュな響きは、多くの愛好家を魅了します。かつては、蔵の氷点下に近い温度でしかその品質を保てず、蔵元での蔵開きの際に限定的に楽しむことができる贅沢品でした。このため、生酒は特別な時、特別な場所でのみ味わえる、季節感溢れる一杯というイメージが強かったのです。

しかし、冷蔵技術の進歩とコールドチェーンの流通網の整備によって、この繊細でフレッシュな生酒を年間通して安定して提供できるようになりました。これにより、「その場所だけ」「その時期だけ」という限定性は薄れたものの、より広範囲に日本酒の魅力を伝え、新たな愛好家を獲得する道が開かれました。

特に、発泡性の日本酒は、瓶内二次発酵により炭酸ガスを含んだ華やかで洗練された味わいが特徴です。シャンパンのようなこのスタイルの日本酒は、特に女性を中心に新たな顧客層を惹きつけると同時に、日本酒が持つ可能性の幅を広げています。純米大吟醸のような上質な酒をベースにした発泡性の日本酒は、その繊細で複雑な香りと独特の清涼感で、より多くの人々に日本酒の新しい楽しみ方を提案しています。

このような進化は、伝統を重んじる日本酒業界にとっても革新的な動きであり、新たな市場の創出と文化の発展に寄与していると言えるでしょう。日本酒の伝統的なイメージに、モダンなテイストを加えることで、世代を超え、国境も越える普遍的な魅力を放つ飲料へと変貌を遂げているのです。

日本酒の世界は、常に進化と発見の連続です。熟成した日本酒、いわゆる「熟成古酒」への関心の高まりは、日本酒の新たな魅力を引き出しています。これまで新鮮なうちに飲まれることが多かった日本酒ですが、熟成によって深みが増し、複雑な風味を帯びた古酒は、ワインのような楽しみ方を可能にしています。

特に、令和2年4月の酒税法の改正によって、日本酒の分類や表示が変わり、消費者がより詳細な情報を基に選択できるようになりました。この法改正は、日本酒の多様性を広く知ってもらうとともに、それぞれの酒の特徴を明確にすることで、愛好家だけでなく新しいファンを引き寄せる一助となっています。

熟成古酒に注目が集まる中、蔵元や販売者はさまざまな年代の酒をストックし、それぞれの酒の持つポテンシャルを最大限に引き出そうと努力しています。熟成により、旨みや甘みが増したり、新たな香りが開花するなど、熟成による変化を楽しむ文化は、他の国々の熟成酒文化と交流しながら、日本酒独自の風土を築いていくことでしょう。

これからも日本酒の楽しみ方は多様化し、季節や場所、そして時間と共に変わるその姿を追い続けることで、私たちは日本酒が持つ豊かな表情を味わうことができるのです。酒税法の改正がもたらす新たな風と共に、日本酒の未来はますます明るいものになりそうです。


日本酒のテロワールを表現したい

ところで皆さんは、1升瓶の純米酒にどれだけのお米が使われていて、そのお米を栽培するためにどれだけの面積が必要で、栽培するための水や時間の量ってなかなか見えてこないと思います。

しかし、これがワインなら他国の村名や歴史、土壌(テロワール)から木まで語る人がいて、テイスティング後の感想も表現にあふれた言葉も楽しんだりするのですが、日本酒にはテロワールを語ることはないし、歴史は語ると黒歴史(アル添など)です。

この違いを分析してみると、米だよってのは皆さん知っていると思うのですが、その米を毎日食べていても実際のところは、あまり知らないのではないでしょうか。

酒蔵を巡って杜氏と話し、圃場で農家たちと話をするたびに、米の酒が持つポテンシャルをとてつもなく感じるのです。

そして、その米の価値を最大化するのは純米酒で間違いないところです。

減反政策は廃止されましたが、実は酒米は常に不足してきました。

私の経営していた農業生産法人では伝統野菜を栽培してきましたが、出資を受けたときに方向転換して鉄コーティング技術による酒米の栽培を本格化させました。

水田は連作障害がない唯一の圃場ですし、永続性のある生産システムこそが田んぼの米作りです。

特に異常気象が多くなってきた近年では水田のもつダム機能も決して無視できないですし、水田から川へ流れ出る水がやがて海へ出て生物圏を豊かにするのです。

水田の周りもカエルやドジョウが生息するようになり、今度は捕食者である鳥がやってきます。

こうして環境は全てつながっていて、米の酒を育てる意義はとても大きいのです。

この米の栽培についても、窒素分が多いと日本酒は旨くなりませんし、窒素を抑える栽培方法だと化成肥料の使用もなく、農薬も使わず栽培も難しくはないので、タニシやコウノトリが帰ってきた地域もあります。

こうして環境を保全する役割も果たすことで、原料から造り手の情熱を分かちあえる「美味しいを超える酒」が生まれるのだと思います。

こうして酒造りとは、自然環境と伝統産業が密接に影響することを忘れないでいただけましたら幸甚に存じます。

そして、日本酒の8割は水でできています。


酒蔵が汲み上げる水質が発酵に大きな影響を与えるので、酒蔵は常に水源の維持に気を遣っており、最高品質を目指す酒蔵では「杉」にこだわります。

最先端の素材が使われる時代ではありますが、今でも酒造りには「杉」が欠かせないのです。

麹室の壁も、麹を育てる麹蓋も杉ですし、蔵元の玄関口には杉玉、製材加工場で、麹蓋には天然杉の柾目で、機械製材ではなく手斧で切らないと成り立たない職人同士のみが知る世界です。

これってすごく面白いと思いませんか?

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