上津英

物語と音楽とお酢ドリンクがあれば生きていけるタイプの物書きです。

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「滅び行くアルセッタ」1話「予言」創作大賞2024・漫画原作部門

本編  モブAが、坑道を塞ぐ巨大な地竜にバリバリ食われている。  美味しそうにモブAを食べている地竜の前、Aの血で濡れているモブBは壁に追い詰められ震えていた。モブBは必死に掌から火の玉を出し攻撃するが、地竜には効かない。 「陽動は退屈だと思ってたんだが、こうじっくり人間を食べられるのは良いな」  Aを綺麗に平らげた地竜は次に、Bに鋭い視線を向ける。  次は自分が食べられる番だ。「ヒィッ」と尻もちをつき顔面蒼白のBは後退る。ドスン…ドスン…と地竜が歩み寄り、Bの顔一杯に影

    • 「蒸気の中のエルキルス」エピローグ(完)

      エピローグ 『三日前、犯人が自首した事で収束しつつある連続連れ去り事件は』  ノア・クリストフは今、喫茶ポピーの二階の自室で出掛ける準備をしながらラジオを聴いていた。  ヴァージニアはあれから警察に自首をし、今は郊外の丘の上にある監獄に収容されていると言う。今日は日曜なので今からノアは警察官付き添いの元、彼女に面会に行く予定だ。 「おい、準備出来たかー?」  居間から聞こえてきたのはリチェの声だ。今日付き添ってくれる警察官は、リチェとクルトだった。 「もうすぐだっつ

      • 「蒸気の中のエルキルス」6話

        第六章 不便な世界  ノア・クリストフは今、イヴェットと二人で教会の前にいた。  自分の様子を察してかクルトは、「一人で大丈夫」と己を鼓舞しながら教会に向かった。アンリに発信器を返すのと、電話を借りに行っている。 「ノアさん、クルトさんを待てなくて申し訳ないんだけど、あたし先教会に戻ってるね……クルトさんにお礼言っといて貰えるかな? 今日も有り難う御座いました、って」 「ん、分かった。僕の方こそ今日は有り難う。……嫌なもん見せちまったな、悪い」  ううん、とイヴェットは

        • 「蒸気の中のエルキルス」5話

          第五章 工業区  どんなハプニングがあった翌日にも朝は来るものだ。  自室の窓からカーテンの隙間を縫って差し込んで来る光を顔に受け、ノア・クリストフは眉間に皺を寄せた。  今日は学校に行くと言ったし、バイトにも出ると言った。最後の足掻きとばかりに数回寝返りを打った後ベッドから足を下ろした。足裏が床に着けば不思議な事に朝の準備を始めてしまう。  クルトから借りたシャツは、ヴァージニアがいつの間にか洗ってアイロンまで掛けてくれたようだった。それをスクールバッグの上に置き直し、

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        「滅び行くアルセッタ」1話「予言」創作大賞2024・漫画原作部門

          「蒸気の中のエルキルス」4話

           第四章 廃工場のお姫様 「すみません……私は直接事件を見ていない物で、あまりお力になれず。ノア君、どうしてか工業区が怪しいって行っちゃいまして。……危ない目に遇ってないと良いんですが」  店の外まで警察官の見送りに出たヴァージニア・エバンスは、刑事課の人だというその小太りな人に向かって言う。昨日の事を知っている人なので、ノアが再び事件を目撃したことに、「運が良いのか悪いのか」とぼやいていた。 「これから私たちも工業区に向かいますので、もしご子息を見掛けたら帰るように言

          「蒸気の中のエルキルス」4話

          「蒸気の中のエルキルス」3話

          第三章 新たなる被害者  連れ去り事件の目撃者として警察で話をしてから、一晩が経った。  今日は学校を休んでもいいとヴァージニアが言ってくれたので、ノア・クリストフは喜んでその提案を受け、バイトに明け暮れようと決めた。きちっとアイロンのかけられたギャルソンエプロンを着て、喫茶店のゴミを指定の場所に置きに行っていた。  昨日は夜の暗さをどうしても意識してしまっただけに、今みたいに天気のいい街並みは気分がいい。晴れた日のエルキルスと霧の出たエルキルスは、スプーンの裏と表に映した

          「蒸気の中のエルキルス」3話

          「蒸気の中のエルキルス」2話

          第二章 回り出す歯車 「っざけんなよ!」  夜も更けた路地で、ノア・クリストフは声を上げた。  動きたい、そう思っても馬車が消えているのでどうする事も出来ない。せめて警察に通報する前に馬蹄の跡を辿って、どこに行ったか大まかな方向を特定するしかない。連れ去られた女性には申し訳ないが、すぐすぐ通報したとしても事件に進展があるとは思えなかった。  ノアは女性が連れ去られた場所まで行き、腰を曲げて地面に顔を近づけた。月灯りを頼りに、真新しい馬蹄の跡を探し追っていく。「ヘンゼルとグ

          「蒸気の中のエルキルス」2話

          「蒸気の中のエルキルス」1話

          プロローグ  檻の中で犯人が綴った自供文より。 『私が彼女らを殺したのは、欲しい物があったからです。だから殺しました。  ラジオではエルキルスの女性が無差別に連れ去られていると言っていましたが、そんな事はありません。ちゃんと狙っていました。警察がそれに気が付いたのが遅かったのははたして幸運だったのでしょうか。  最初の女性を殺した時、私は欲望に負けて悪魔に身を売りました。  この世界が私を悪魔にしたのだと。この世界が悪い、とあの時は本当に思っていました。  皆さん歴史の

          「蒸気の中のエルキルス」1話

          「滅び行くアルセッタ」3話「一人目」創作大賞2024・漫画原作部門

           思ってもいなかった告白にシキは「は?」と目を見開く。 「ごめんなさい女王偶に怖いから言えなかった! 能力使ってるところも見られました!」 「待て待て待て!? お前な──」 「本当にごめんなさいっ!!」  怒鳴りかけるもただただ謝ってくるニバルに一方的に怒れず、頬をひくつかせながら何とか落ち着いて返す。 「…………つまり、女の方が愛人か?」 「すみれちゃんはそういうのじゃない!! 手も出してねぇ! 蓮君も居たし!! そもそも半年前に一回しか会ってないし!!」 「回数の問

          「滅び行くアルセッタ」3話「一人目」創作大賞2024・漫画原作部門

          「滅び行くアルセッタ」2話「地上」創作大賞2024・漫画原作部門

          「……」  シキは殺風景な目の前に呆然、驚きすぎて動けなかった。 「シキッ!!」  ニバルの叫び声に正気に戻ったシキはハッとなりその場から跳躍。自分が居た場所に光の矢が突き刺さり、宝石を入れた荷物が裂け地面に宝石が散乱する。 「な……っ!?」  周囲に山中の景色が戻って来た。  あれは幻覚を見せられていたらしい。何故ニバルは平気だったのかと疑問に思う。 「どうやらオレ達、地上に居るのにアルセッタ人から熱烈な歓迎を受けてるようだぜ。王子様ってどこ行っても出待ちされん

          「滅び行くアルセッタ」2話「地上」創作大賞2024・漫画原作部門