幻戯書房編集部

私たちは、「本の力」を信じて、芸術的な本づくりという理念で、出版文化の基本に徹した刊行…

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私たちは、「本の力」を信じて、芸術的な本づくりという理念で、出版文化の基本に徹した刊行を目指します。こちらでは、幻戯書房の書籍に関する情報をお知らせします。試し読みやキャンペーンなど。公式サイトはhttp://www.genki-shobou.co.jp/

最近の記事

ロドルフ・テプフェール『ジュネーヴ短編集』訳者解題(text by 加藤一輝)

古代/学校(クラシック)の言語  『ジュネーヴ短編集』において重要な地位を占めているフランス語でない言語のひとつは、ラテン語です。スイス語なるものが存在しない以上、古典となるとラテン語まで遡らざるをえませんが、テプフェールの場合、ヨーロッパにおける一般的な教養としての古典語というだけでなく、人生にとって重要な科目でもありました。というのも、テプフェールは当初から作家を目指していたわけではないからです。  ロドルフ・テプフェールは1799年にフランス領ジュネーヴで生まれまし

    • アン・クイン『スリー』訳者解題(text by 西野方子)

      アン・クインの生涯と彼女の文学史における位置付け  クインの伝記的な事実については目下調査が行われているところではあるが、現在わかっている情報をまとめると以下のようなものとなる。クインは1936年3月17日に、イングランド南東部に位置するイーストサセックス州の都市ブライトンで、元オペラ歌手のアイルランド人モンタギュー・ニコラス・クイン(Montague Nicholas Quin)と、グラスゴー育ちのスコットランド人アーン・リード(Anne Reid)の間に生まれた。一家は

      • ブラニスラヴ・ヌシッチ『不審人物 故人 自叙伝』訳者解題(text by 奥彩子)

         ブラニスラヴ・ヌシッチの歩みをたどることは19世紀から20世紀前半のバルカン史をたどることと慨嘆したくなるくらい、その人生は波乱に満ちている。選集25巻をもってしても発表された作品をすべて収めることはできず、戦争で失われた原稿、避難中に置き去りにした原稿、書きかけのままとなった原稿も少なくない。ヌシッチにとって執筆のアイディアは尽きることがなかった。それもそのはず、ヌシッチは日常を観察し、言語化することに天性の才があった。燃えさかる情熱と尋常ではない行動力を持ち、生あるかぎ

        • ポール・ヴァレリー『メランジュ 詩と散文』訳者解題(text by 鳥山定嗣)

           本書はPaul Valéry, Mélange de prose et de poësie. Album plus ou moins illustré d’images sur cuivre de l’auteur, Paris, Les Bibliophiles de l’Automobile-Club de France, 1939の全訳である。この初版の2年後、ガリマール社から増補版(Paul Valéry, Mélange, Paris, Gallimard, 19

        ロドルフ・テプフェール『ジュネーヴ短編集』訳者解題(text by 加藤一輝)

          エドワード・ブルワー゠リットン『ポンペイ最後の日』〈上・下〉訳者解説(text by 田中千惠子)

          『ポンペイ最後の日』をめぐって  『ポンペイ最後の日』はイギリス・ヴィクトリア朝の作家・詩人・政治家エドワード・ブルワー゠リットンの歴史小説である。紀元79年のヴェスヴィオ山の噴火によるポンペイの壊滅を背景に、才色兼備のギリシア人美女をめぐる若きギリシア人貴族とエジプト人魔術師の争い、魔術師のたくらみ、魔術、妖術、占星術、残虐な殺人などを描いて、キリスト教と異教の相克、円形闘技場での血みどろの戦い、魔女や媚薬などを駆使しながら、ヴェスヴィオ山の大噴火へといたる波乱万丈の運命

          エドワード・ブルワー゠リットン『ポンペイ最後の日』〈上・下〉訳者解説(text by 田中千惠子)

          ドヴィド・ベルゲルソン/デル・ニステル『二匹のけだもの/なけなしの財産 他五篇』訳者解説(text by 田中壮泰 and 赤尾光春)

          イディッシュ語の成立過程  ローマ帝国時代にパレスチナの地(当時はローマ帝国のユダヤ属州)を追われ、ヨーロッパを中心に世界各地に離散したユダヤ人たちは、行く先々で土地の口語を取り入れていった。そして、それらの言語に、彼らがもともと使っていたヘブライ語やアラム語の要素が混ざり合うことで、ユダヤ・ギリシャ語やユダヤ・フランス語といった様々な混成言語が生まれた。そのほとんどは時が経つにつれて土地の言語に吸収され、消滅することになるが、現在まで生き延びたものもあり、その一つがイディ

          ドヴィド・ベルゲルソン/デル・ニステル『二匹のけだもの/なけなしの財産 他五篇』訳者解説(text by 田中壮泰 and 赤尾光春)

          新井高子『おしらこさま綺聞』刊行に寄せて――「詩集『おしらこさま綺聞』のみちゆき」公開

          新井高子「『おしらこさま綺聞』のみちゆき」  このたび、第四詩集『おしらこさま綺聞』を幻戯書房より上梓しました。   この本は、ちょっとふしぎなことばで綴られています。全篇、東北弁やら北関東弁やらを思わせるような声のかたまりなのです。かねてより、わたしは、いわゆる「日本語」という近代言語の外側にある文体や声に興味をもち、そのリズムや抑揚、制度では捉えられない事象を、土地ことば的なセンスで掘り下げられないかと探ってきました。  いちばん最初に書いた詩は、長篇詩「足だぢ」でした。

          新井高子『おしらこさま綺聞』刊行に寄せて――「詩集『おしらこさま綺聞』のみちゆき」公開

          ラウパッハ、シュピンドラー 他『ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇談集』訳者解題(text by 森口大地)

          2024年1月29日、幻戯書房は海外古典文学の翻訳シリーズ「ルリユール叢書」の第38回配本として、ラウパッハ、シュピンドラー 他『ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇談集』を刊行いたしました。1819年、イギリスの小説家ジョン・ポリドリが短編小説として『ヴァンパイア』を発表。この作品が話題となります。そのブームのさなか、1820~30年代にかけてドイツでもヴァンパイア文学が発表されました。本書は、ラウパッハ『死者を起こすなかれ』、シュピンドラー『ヴァンパイアの花嫁』他五作を集めた、怪

          ラウパッハ、シュピンドラー 他『ドイツ・ヴァンパイア怪縁奇談集』訳者解題(text by 森口大地)

          クロード・シモン『ガリバー』訳者解説(text by 芳川泰久)

          「デペイズマン」あるいは居場所のなさ  本書のタイトルは明らかに、アイルランドの風刺作家ジョナサン・スウィフトの四篇からなる通称『ガリバー旅行記』に由来するが、両者に共有されているのは、わかりやすく言えば、旅である。ただし一方は文字通り移動する旅であり、もう一方は動かない旅であって、それをひとことでくくれば、「デペイズマン」dépaysementということになるだろうか。「デペイズマン」とは、場所や環境の変化、それにともなう居心地の悪さ、違和感、さらには異国へ移すこと、追放

          クロード・シモン『ガリバー』訳者解説(text by 芳川泰久)

          ルイ゠フェルディナン・セリーヌ『戦争』訳者解題(text by 森澤友一朗)

          戦争万歳──セリーヌ概観  なにはさておき、戦争万歳、である。大摑みな類型の分類にかかれば一括りに反戦文学と目されかねぬ、しかも本人も1930年代の来るべき戦争を前にしての焦燥感のなかで筆を握ったこの草稿の末尾に書きつけられる文言がよりにもよって、戦争万歳、である。これは決して呑気なアイロニーの類ではなく、事実、本作以後、彼は爆撃をはじめとした戦争の暴威を前に、逆にそれらと一体化してゆくことで、唯一無二の文体を作り上げてゆくだろう。この反転性、反発していた対象への生成変化を

          ルイ゠フェルディナン・セリーヌ『戦争』訳者解題(text by 森澤友一朗)

          ラーザ・ラザーレヴィチ『ドイツの歌姫 他五篇』訳者解説(text by 栗原成郎)

          2023年10月24日、幻戯書房は海外古典文学の翻訳シリーズ「ルリユール叢書」の第35回配本として、ラーザ・ラザーレヴィチ『ドイツの歌姫 他五篇』を刊行いたします。ラーザ・ラザーレヴィチ(Лаза К. Лазаревић[Laza K. Lazarević] 1851–91)はセルビアの医師、作家です。ベオグラード大学法学部を卒業したラザーレヴィチは、国費留学生としてベルリン大学医学部に留学します。帰国後は医師として働き、新興国家セルビアの医学の発達に多大の貢献をしたのです

          ラーザ・ラザーレヴィチ『ドイツの歌姫 他五篇』訳者解説(text by 栗原成郎)

          ガブリエル・マルセル『稜線の路』訳者解説(text by 古川正樹)

          マルセルの悲劇的作品は人間の現実を証言している  この戯曲を訳し読み、私は、証するとは、いわゆる恩寵の証のみを意味するのではではない、と思うようになった。人間の現実を証言することも既に、可能的恩寵の証の前提としての、ひとつの証なのである。この現実の証言がなければ、恩寵の証そのものが真実性を欠くものとなるだろうからである。  とくにこの作品、『稜線の路』は、いまの世に相応しい戯曲だと私は思うようになった。この戯曲は、いまの世のなかそのものだ。吐き気のするような秩序転倒の、い

          ガブリエル・マルセル『稜線の路』訳者解説(text by 古川正樹)

          フリードリヒ・シラー『シラー戯曲傑作選 ドン・カルロス スペインの王子』訳者解題(text by 青木敦子)

          戯曲『ドン・カルロス』  シラーの戯曲『ドン・カルロス』は、ヴェルディのオペラ《ドン・カルロ》によって比較的知られた作品である。ランケの伝記『ドン・カルロス』でその名をご存じの読者もいるだろう。  時代はスペイン黄金期の十六世紀。舞台は、ネーデルランドでの独立運動が盛んになるなかのフェリペ二世の宮廷。主人公カルロスの父フェリペ二世は、その父である神聖ローマ帝国皇帝カール五世から「日の沈まぬ帝国」を受け継ぎ、カトリックによる強大なスペイン黄金期を築いたハプスブルク家の王で、日

          フリードリヒ・シラー『シラー戯曲傑作選 ドン・カルロス スペインの王子』訳者解題(text by 青木敦子)

          フリードリヒ・シラー『シラー戯曲傑作選 メアリー・ステュアート』訳者解題(text by 津﨑正行)

          『メアリー・ステュアート』の成立と初演  シラーはかねてより、十六世紀に実在したスコットランド女王メアリーをめぐる歴史に興味を示していたが、それに取材した作品との取り組みを開始したのは、『ヴァレンシュタイン』三部作が完成し、その初演が行なわれる前後の時期、1799年4月ごろのことである。前作の場合と同様に、作品の執筆は、最初から順調に進んだわけではない。「『メアリー・ステュアート』につきましては、おいでいただくころには、まだひとつの幕しか完成していないでしょう。この幕を書く

          フリードリヒ・シラー『シラー戯曲傑作選 メアリー・ステュアート』訳者解題(text by 津﨑正行)

          ギ・ド・モーパッサン『モン゠オリオル』訳者解題

           2023年7月24日、幻戯書房は海外古典文学の翻訳シリーズ「ルリユール叢書」の第32回配本として、ギ・ド・モーパッサン『モン゠オリオル』を刊行いたしました。ギ・ド・モーパッサン(Guy de Maupassant 1850–93)は ノルマンディー生まれのフランスの小説家。『オルラ』『手』『首かざり』などの数多くの短編や時評(クロニック)、『女の一生』『ベラミ』などのシニカルな作風の小説を執筆するなど、短編小説の名手として知られています。1880年、ゾラたちと発表した『メダ

          ギ・ド・モーパッサン『モン゠オリオル』訳者解題

          エレナ・ポニアトウスカ『乾杯、神さま』訳者解題

           2023年7月24日、幻戯書房は海外古典文学の翻訳シリーズ「ルリユール叢書」の第32回配本として、エレナ・ポニアトウスカ『乾杯、神さま』を刊行いたしました。エレナ・ポニアトウスカ(Elena Poniatowska 1932–)は ジャーナリスト、小説家。パリに生まれ、1942年にメキシコへ移住。1978年、女性で初めて全国ジャーナリズム賞を受賞。本書『乾杯、神さま』とあわせて、『トラテロルコの夜』『ティニシマ』『レオノーラ』など、数々の作品が文学賞に輝きました。文学創作

          エレナ・ポニアトウスカ『乾杯、神さま』訳者解題