第18話 藤くんの声
先週、久しぶりにBUMP OF CHICKENのライヴに行った。
彼らの曲を聴くと、学生時代の気分にすぐに戻れる。
『天体観測』を藤原基央が書いていたとき、僕はまだ田舎の高校生だった。
僕と誕生日がひと月しか変わらない彼は、遥か彼方にある星のようだった。
あの頃からもう四半世紀が経ったけれども、彼が歌う『天体観測』はまったく古びず、青くてキラキラしたままで、いつでも僕らをタイムトラベルに連れ出してくれる。
アニメーション作品『血界戦線』『ベイビーアイラブユーだぜ』『GOTCHA!』を始め、BUMPに音楽をお願いした仕事は5本を超えた。
『天体観測』を夢中で聴いていた高校生は映画を作るようになり、”遥か彼方にある星”に曲を書いてもらうことになった。
「お口の恋人」を「ベイビーアイラブユーだぜ」と言い換えたり、「ピカチュウ」を「アカシア」と言い表したり、「きっと九十九は一男と話がしたかったんだと思う」と『億男』のふたりの関係を見事に言い当てられたり。
いつも藤原基央の言葉の魔法に驚かされながら一緒に作品を作っていくうちに「藤くん」なんて呼ぶ間柄にもなった。
もう俺たち45だよ、なんて自虐したりする。
でも、久しぶりにライブで聴く藤くんの声は、さらに大きく深くなっていて、心の奥底がびりびりと震えた。
まだまだ”遥か彼方にある星”だ。
彼の歌声を聴くたびに思う。
ライブ会場の隣の席には、偶然にも佐藤健がいた。
懐かしくなって、『億男』のために藤くんが書いてくれた主題歌『話がしたいよ』を帰り道に聴いた。