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第7回Q&A 『四月になれば彼女は』編

映画が公開され、小説そして映画の感想や、それぞれの違いについての質問などを、たくさんお寄せいただいています。すべて目を通しています。創る力をもらえます。嬉しいです。
『物語の部屋』メンバーシップの方々からの質問のほかに、先日のnoteのイベント『小説を映画にするということ』に向けてお寄せいただいた質問のなかでお答えできなかったもののいくつかにも、今回のクリエイティブQ&Aにてお答えしていければと思います。

Q.  ペンタックスの母
「四月になれば彼女は」の映画の内容の質問をさせて下さい。 原作にはない、ハルと父親の関係性が想定外の展開でとても面白かったのですが、 ハルが「選べなかった…」と言う場面から1人旅に出るまでの間、二人にどのような変化が起きたのかを知りたいです。川村さんならどのように描かれますか? そして竹野内豊さんの演技、ゾワッとしました! もっと登場して欲しかったです。

A. GK
原作小説において藤代とハルを引き裂く登場人物として、写真部の先輩である大島という人物が登場します。僕自身、愛してやまないキャラクターで、小説読者の方々にも人気がありました。
 
しかし脚本に組み込もうとすると難しかった。
あまりにも大島の背負っているドラマが深遠で、彼だけで映画一本作れてしまうほどでした。

結果、藤代と弥生とハルを中心とした物語にするために、映画において大島はいなくなり、代わりにハルの父親・伊予田衛が登場します。衛はかなりインパクトのある人物なのですが、短い時間においてハルと父親の共依存を強烈に表現してくれました。

藤代のことを「選べなかった」とハルに言わせるまでの存在感と説得力が、あの父親には必要でした。それを成立させてくれたのは、竹野内豊さんでした。
 
おっしゃる通り「もっと登場して欲しい」と思わせるほどの、素晴らしい芝居でしたね。
裏話としては、当初あのシーンには音楽がつく予定だったのですが、あまりにも竹野内さんの芝居が素晴らしかったので、雨音だけのシーンとなりました。あの荒々しい雨音が、衛の複雑な心境を表してくれている気がしました。
 
ハルが藤代と別れてから、ひとり旅に出るまでについては、あえて小説でも映画でも描いていません。
 
以前このnote『四月になれば彼と彼女は』にも綴りましたが、この小説を書こうと思ったきっかけが、僕の周りから恋愛をしている人がほとんどいなくなってしまったことでした。ただそういう人たちも、学生時代は熱烈な恋愛をしていたりする。
その感情は、いったいどこに消えてしまったのか、とても不思議でした。
 
誰かのことを熱烈に好きだった過去と、そのような感情を失ってしまった現在。
それらふたつの時代を交互に描くことで、その間に消えてしまったもの、その差分が「愛」をかたどるのではないか。

 そう仮定して、この小説を書き始めました。
ですから、そのあいだの時間については描いていないのです。
そこで失われてしまった感情を、尊いものとして感じてもらえたらと思っています。

Q .KIMIKO
川村元気さんと山田智和監督が今回一緒にお仕事をされる中で、共通の価値観を持っていると感じられた部分があれば教えてください、また別の質問ですが、藤井 風さんの満ちてゆくの歌詞やメロディの中で1番映画の精神を表し秀逸だと思われる部分を教えてください、純粋に好きな部分でも構いません、よろしくお願いします。

A . GK
山田智和監督のミュージックビデオが好きでした。
映像の美しさはもちろんのこと、どこかそのアーティストの人間性が生々しく見えてくる瞬間があって、そこに惹かれます。映画『四月になれば彼女は』は、佐藤健、長澤まさみ、森七菜の人間としての有様が、役を超えて見えてくると面白いのではないかと思っていました。
 
藤井風の『青春病』というMVが特に好きでした。あの作品で彼は「大学生のような役を演じている」と聞きました。でも僕はそこで描かれているのが、どこか藤井風のありえたかもしれない、もうひとつの人生のような気がしてならなかったのです。

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