川村元気 Genki Kawamura

小説家・フィルムメーカー。小説『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』…

川村元気 Genki Kawamura

小説家・フィルムメーカー。小説『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』『神曲』、対話集『仕事。』『理系。』等を上梓。映画『告白』『悪人』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『怒り』『すずめの戸締まり』『怪物』等を製作。genkikawamura.com

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この小さくプライベートな部屋では、僕が日常生活の中で「気づいたこと」を物語だったりエッセイだったり、そのどちらでもない不思議な読みものだったりにして、お届けしたいと考えています。メンバーとコミュニケーションしながら、自分が作ってきた映画や小説の創作裏話、最近作っている映画や小説のメイキング的な読みもの、衝撃を受けた作品の映画評、クリエイティブQ&Aなどもお届けできたらと。Q&Aは、映画やアニメを作りたい人、小説を書きたい人、音楽やアートや芝居などの表現する仕事をしたい人はもちろん、それらを観たり聴いたりすることが好きな方々とも気さくにやれたらと思っています。人数が少ないうちは、ひとり一問は答えたいなと思っています。時には、読書会やサイン会、試写会を兼ねたトークショー、クリエイターゲストとの対談、のようなイベントで、メンバーとクリエイティブについての答え合わせなんかもやれたらと思います。 ●入場料は月2000円です●エッセイや物語を月2〜3回お届けします●クリエイティブQ&A(人数が少ないうちは、ひとり一問は必ず答えます)●年に2〜3回、川村元気が企画するイベントにご参加いただけます。

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固定された記事

第5話 四月になれば彼と彼女は

「 恋愛小説を書いてみようと思うんです」 『世界から猫が消えたなら』『億男』の二作を書いた後、編集者に相談した。 「あー最近、売れないんですよね、恋愛小説」 意外な…

第18話 藤くんの声

先週、久しぶりにBUMP OF CHICKENのライヴに行った。 彼らの曲を聴くと、学生時代の気分にすぐに戻れる。 『天体観測』を藤原基央が書いていたとき、僕はまだ田舎の高校生…

第17話 長澤まさみと坂本弥生

自分にとって転換点となる作品には、いつも長澤まさみがいた。 『告白』『悪人』の後、自分の映画づくりの方向性をがらっと変えて、音楽を中心に据えた映画『モテキ』に大…

第16話 佐藤健と藤代俊

佐藤健と初めて会ったのは、十年前だ。 映画『バクマン。』の現場で顔を合わせた。 人見知りな様子で、前髪の隙間から黒目をキョロキョロと動かし、観察するようにまわり…

第7回Q&A 『四月になれば彼女は』編

映画が公開され、小説そして映画の感想や、それぞれの違いについての質問などを、たくさんお寄せいただいています。すべて目を通しています。創る力をもらえます。嬉しいで…

第15話 海も、月も、心も、満ちてゆく

映画『四月になれば彼女は』が公開初日を迎えた。 好調なスタートのようで、佐藤健の誕生日とあわせて、スタッフ、キャストと皆でお祝いできたことが、なにより嬉しかった…

映画『四月になれば彼女は』公開記念トークイベント「小説を映画にするということ」のお知らせ(全文無料公開)

3月22日より、映画『四月になれば彼女は』が公開されます。 ついに、あと1週間となりました。 以前、『小説を映画にするということ』というテーマでnoteを書きました。 …

新作小説『私の馬』発表に寄せて(小説冒頭掲載)

国道に、馬がいた。 そんな書き出しから始まる小説を書いた。 二年ぶりの新作となる。 タイトルは『私の馬』。 僕の人生において大きな気づきを得たいくつかの”言葉”…

第14話 写らないものを撮る

まったく上手くならないけれど、フィルムで写真を撮るのが好きだ。 高校生の時にNikonのフィルムカメラを、こつこつと貯めていたお小遣いで買った。それから色々なデジタ…

映画『四月になれば彼女は』公開直前記念号 (全文無料公開)

※「物語の部屋」メンバーシップ特別試写会の募集は定員に達したため締め切らせていただきました。 映画『四月になれば彼女は』の公開まで、あとひと月と少しになりました…

第13話 そこにあったはずなのに、失われてしまったものたち

赤い風船を片手に、小学校の廊下を走っていた。 糸の先についた風船が、揺れながら僕のあとをついてくる。昇降口で靴を履き替え、強風で白い砂が巻き上がるグラウンドに飛…

第12話 山口一郎の蜃気楼

サカナクション山口一郎のLIVE「蜃気楼」に行った。 約2年ぶりのステージだという。 ハラハラしながら独演を見守り、100回縄跳びで腹を抱えて笑い、ラストのMCで涙が…

第6回 Q&A 違和感ボックスが開き、小説が生まれた

本年も、クリエイティブにまつわる質問にお答えしていきたいと思います。 みなさんの質問に応えることは、僕自身の気づきにもなり、とても良い時間です。 川村元気に質問…

新年特別編 『1月1日に生まれて』(全文無料公開)

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第11話 小説を映画にするということ

映画『四月になれば彼女は』の公開まで、あと3ヶ月となった。 先日、仲野太賀、中島歩、河合優実、ともさかりえ、そして竹野内豊という錚々たる俳優たちが新たなキャスト…

第5回 Q&A  花、面白い、珍しい。

A:GK 日本映画がさらに進化するには、より多様で「珍しい」作品がたくさん作られることが必要だと思います。 生物史を見てみると、その第一歩はいつも「突然変異」です…

第5話 四月になれば彼と彼女は

第5話 四月になれば彼と彼女は

「 恋愛小説を書いてみようと思うんです」
『世界から猫が消えたなら』『億男』の二作を書いた後、編集者に相談した。
「あー最近、売れないんですよね、恋愛小説」
意外な答えが返ってきた。

なぜ? 恋愛小説はベストセラーの定番だったはずなのに。
謎を解くべく、周囲に聞いて回った。
「最近どんな恋愛をしていますか?」

「彼氏とか彼女とかいたことないし、いらない」学生たちが平然と言う。
「結婚どころか、

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第18話 藤くんの声

第18話 藤くんの声

先週、久しぶりにBUMP OF CHICKENのライヴに行った。

彼らの曲を聴くと、学生時代の気分にすぐに戻れる。
『天体観測』を藤原基央が書いていたとき、僕はまだ田舎の高校生だった。
僕と誕生日がひと月しか変わらない彼は、遥か彼方にある星のようだった。

あの頃からもう四半世紀が経ったけれども、彼が歌う『天体観測』はまったく古びず、青くてキラキラしたままで、いつでも僕らをタイムトラベルに連れ出

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第17話 長澤まさみと坂本弥生

第17話 長澤まさみと坂本弥生

自分にとって転換点となる作品には、いつも長澤まさみがいた。

『告白』『悪人』の後、自分の映画づくりの方向性をがらっと変えて、音楽を中心に据えた映画『モテキ』に大根仁監督と取り組んだ。
そのとき、長澤まさみに出演を依頼した。

『世界の中心で愛をさけぶ』の清純なイメージからすると、まるで印象の違うチャレンジングな役。周囲に出演を懸念する声も多かった。けれども彼女は思い切ってオファーを受け、振り切っ

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第16話 佐藤健と藤代俊

第16話 佐藤健と藤代俊

佐藤健と初めて会ったのは、十年前だ。
映画『バクマン。』の現場で顔を合わせた。

人見知りな様子で、前髪の隙間から黒目をキョロキョロと動かし、観察するようにまわりを見ていた。
だが僕が話しかけると、忙しなく動いていた黒目がぴたりと止まり、じっと僕のことを見つめた。

まるで猫のような青年だなと、思った。
そのときふと、これからこの俳優と長く一緒にいることになるのではないかと予感した。

予感は現実

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第7回Q&A  『四月になれば彼女は』編

第7回Q&A 『四月になれば彼女は』編

映画が公開され、小説そして映画の感想や、それぞれの違いについての質問などを、たくさんお寄せいただいています。すべて目を通しています。創る力をもらえます。嬉しいです。
『物語の部屋』メンバーシップの方々からの質問のほかに、先日のnoteのイベント『小説を映画にするということ』に向けてお寄せいただいた質問のなかでお答えできなかったもののいくつかにも、今回のクリエイティブQ&Aにてお答えしていければと思

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第15話 海も、月も、心も、満ちてゆく

第15話 海も、月も、心も、満ちてゆく

映画『四月になれば彼女は』が公開初日を迎えた。

好調なスタートのようで、佐藤健の誕生日とあわせて、スタッフ、キャストと皆でお祝いできたことが、なにより嬉しかった。

映画がきっかけで原作小説を読んでくれた方も多く、感想をいただくことも増えた。

小説を書いたきっかけはこちら(第5話 四月になれば彼と彼女は)に綴った。映画を観る前でも観た後でも、読んでもらえたら嬉しい。

そして映画や小説の感想は

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映画『四月になれば彼女は』公開記念トークイベント「小説を映画にするということ」のお知らせ(全文無料公開)

映画『四月になれば彼女は』公開記念トークイベント「小説を映画にするということ」のお知らせ(全文無料公開)

3月22日より、映画『四月になれば彼女は』が公開されます。
ついに、あと1週間となりました。

以前、『小説を映画にするということ』というテーマでnoteを書きました。

小説『四月になれば彼女は』がどうやって脚本、そして映画になっていったのか。山田智和監督と俳優のあいだにどんなやりとりがあったのか、今村圭佑さんはどのように撮影したのか、小林武史さんの音楽や、藤井風さんの主題歌がどのように生まれた

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新作小説『私の馬』発表に寄せて(小説冒頭掲載)

新作小説『私の馬』発表に寄せて(小説冒頭掲載)

国道に、馬がいた。

そんな書き出しから始まる小説を書いた。
二年ぶりの新作となる。

タイトルは『私の馬』。

僕の人生において大きな気づきを得たいくつかの”言葉”がきっかけとなり、この小説を書くに至った。

今日はそのひとつについて書けたらと思う。

「今ってさ、人類史上最も”言葉”を使っている時代らしいよ」
数年前、友人のミュージシャンがそんなことを言っていた。
小説が売れない、と嘆かれてい

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第14話 写らないものを撮る

第14話 写らないものを撮る

まったく上手くならないけれど、フィルムで写真を撮るのが好きだ。

高校生の時にNikonのフィルムカメラを、こつこつと貯めていたお小遣いで買った。それから色々なデジタルカメラを使ったりもしながらも、結局フィルムに戻ってくる。

このnote『物語の部屋』も自分で撮った写真を載せている。
そのほとんどがフィルムだ。

小説『四月になれば彼女は』はフィルム写真の物語でもある。
藤代とハルは、大学の写真

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映画『四月になれば彼女は』公開直前記念号  (全文無料公開)

映画『四月になれば彼女は』公開直前記念号 (全文無料公開)

※「物語の部屋」メンバーシップ特別試写会の募集は定員に達したため締め切らせていただきました。

映画『四月になれば彼女は』の公開まで、あとひと月と少しになりました。
桜の開花を待つような、そわそわした気分で毎日過ごしています。

小説『四月になれば彼女は』は2016年に発表した小説です。

当時、僕のまわりから恋愛をしている人がどんどんいなくなっていくのを目の当たりにして、その謎を解きたくなり、こ

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第13話 そこにあったはずなのに、失われてしまったものたち

第13話 そこにあったはずなのに、失われてしまったものたち

赤い風船を片手に、小学校の廊下を走っていた。

糸の先についた風船が、揺れながら僕のあとをついてくる。昇降口で靴を履き替え、強風で白い砂が巻き上がるグラウンドに飛び出した。
二階の教室の窓から、同級生たちが僕に声をかける。

「風船、もう貰えるの!?」
 みなが騒ぎ出す。どうして持ってるの? わたしも欲しい! ずるいぞ!
「ピロティで先生が配ってるよ!」
風船を揺らしながら、誇らしげに伝えた。

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第12話 山口一郎の蜃気楼

第12話 山口一郎の蜃気楼

サカナクション山口一郎のLIVE「蜃気楼」に行った。
約2年ぶりのステージだという。

ハラハラしながら独演を見守り、100回縄跳びで腹を抱えて笑い、ラストのMCで涙が溢れた。

感情が慌ただしく動いたけれど、最後は清々しい気持ちになった。
「蜃気楼」
それはまさに、山口一郎が過ごしてきたこの数年間そのものなのだと気づく。

ライブ後、楽屋に寄った。
山口一郎、そしてサカナクションのメンバーたちと

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第6回 Q&A 違和感ボックスが開き、小説が生まれた

第6回 Q&A 違和感ボックスが開き、小説が生まれた

本年も、クリエイティブにまつわる質問にお答えしていきたいと思います。
みなさんの質問に応えることは、僕自身の気づきにもなり、とても良い時間です。

川村元気に質問してみたいという方は、『物語の部屋』メンバーシップに参加してみてください。メンバーの方からの質問には、(今のところ)必ずお答えするようにしています。本年もみなさまからの質問、お待ちしています。

A:GK

東宝でサラリーマンとして映

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新年特別編 『1月1日に生まれて』(全文無料公開)

新年特別編 『1月1日に生まれて』(全文無料公開)

父の誕生日は、1月2日だ。
正月気分で過ごしていると、うっかり忘れてしまうことがある。
3日になってから家族みんなで「あれ? そういえばお父さん、きのう誕生日だったね」と言い合ったりした年もあった。父も、もはや祝われないことにすっかり慣れていて、怒りも傷つきもしない。

実は父が生まれたのは、12月28日だったらしい。
彼はそれを三十代になってから知った。

父が青森の実家に帰って、まだ幼かった僕

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第11話 小説を映画にするということ

第11話 小説を映画にするということ

映画『四月になれば彼女は』の公開まで、あと3ヶ月となった。

先日、仲野太賀、中島歩、河合優実、ともさかりえ、そして竹野内豊という錚々たる俳優たちが新たなキャストとして発表された。

原作小説通りのキャラクター、原作とは大きな変更があったキャラクター、そして原作には登場しないキャラクターなどがいて、いろいろと質問を受けることも多い。

今回は、映画『四月になれば彼女は』において、原作小説がどのよう

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第5回  Q&A  花、面白い、珍しい。

第5回 Q&A  花、面白い、珍しい。

A:GK

日本映画がさらに進化するには、より多様で「珍しい」作品がたくさん作られることが必要だと思います。

生物史を見てみると、その第一歩はいつも「突然変異」です。
それがゆえに「珍しく」「稀で」「妙なもの」が作られていくことが理想だと思っています。

25歳の時、映画『電車男』を企画しました。
その時の自分は、まさに「珍しい」映画を作ろうと思っていました。
先輩たちが有名監督を起用したり、ベ

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