川村元気 Genki Kawamura
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第5話 四月になれば彼と彼女は
「 恋愛小説を書いてみようと思うんです」
『世界から猫が消えたなら』『億男』の二作を書いた後、編集者に相談した。
「あー最近、売れないんですよね、恋愛小説」
意外な答えが返ってきた。
なぜ? 恋愛小説はベストセラーの定番だったはずなのに。
謎を解くべく、周囲に聞いて回った。
「最近どんな恋愛をしていますか?」
「彼氏とか彼女とかいたことないし、いらない」学生たちが平然と言う。
「結婚どころか、
第18話 藤くんの声
先週、久しぶりにBUMP OF CHICKENのライヴに行った。
彼らの曲を聴くと、学生時代の気分にすぐに戻れる。
『天体観測』を藤原基央が書いていたとき、僕はまだ田舎の高校生だった。
僕と誕生日がひと月しか変わらない彼は、遥か彼方にある星のようだった。
あの頃からもう四半世紀が経ったけれども、彼が歌う『天体観測』はまったく古びず、青くてキラキラしたままで、いつでも僕らをタイムトラベルに連れ出
第17話 長澤まさみと坂本弥生
自分にとって転換点となる作品には、いつも長澤まさみがいた。
『告白』『悪人』の後、自分の映画づくりの方向性をがらっと変えて、音楽を中心に据えた映画『モテキ』に大根仁監督と取り組んだ。
そのとき、長澤まさみに出演を依頼した。
『世界の中心で愛をさけぶ』の清純なイメージからすると、まるで印象の違うチャレンジングな役。周囲に出演を懸念する声も多かった。けれども彼女は思い切ってオファーを受け、振り切っ
第16話 佐藤健と藤代俊
佐藤健と初めて会ったのは、十年前だ。
映画『バクマン。』の現場で顔を合わせた。
人見知りな様子で、前髪の隙間から黒目をキョロキョロと動かし、観察するようにまわりを見ていた。
だが僕が話しかけると、忙しなく動いていた黒目がぴたりと止まり、じっと僕のことを見つめた。
まるで猫のような青年だなと、思った。
そのときふと、これからこの俳優と長く一緒にいることになるのではないかと予感した。
予感は現実
第15話 海も、月も、心も、満ちてゆく
映画『四月になれば彼女は』が公開初日を迎えた。
好調なスタートのようで、佐藤健の誕生日とあわせて、スタッフ、キャストと皆でお祝いできたことが、なにより嬉しかった。
映画がきっかけで原作小説を読んでくれた方も多く、感想をいただくことも増えた。
小説を書いたきっかけはこちら(第5話 四月になれば彼と彼女は)に綴った。映画を観る前でも観た後でも、読んでもらえたら嬉しい。
そして映画や小説の感想は
新作小説『私の馬』発表に寄せて(小説冒頭掲載)
国道に、馬がいた。
そんな書き出しから始まる小説を書いた。
二年ぶりの新作となる。
タイトルは『私の馬』。
僕の人生において大きな気づきを得たいくつかの”言葉”がきっかけとなり、この小説を書くに至った。
今日はそのひとつについて書けたらと思う。
「今ってさ、人類史上最も”言葉”を使っている時代らしいよ」
数年前、友人のミュージシャンがそんなことを言っていた。
小説が売れない、と嘆かれてい
第14話 写らないものを撮る
まったく上手くならないけれど、フィルムで写真を撮るのが好きだ。
高校生の時にNikonのフィルムカメラを、こつこつと貯めていたお小遣いで買った。それから色々なデジタルカメラを使ったりもしながらも、結局フィルムに戻ってくる。
このnote『物語の部屋』も自分で撮った写真を載せている。
そのほとんどがフィルムだ。
小説『四月になれば彼女は』はフィルム写真の物語でもある。
藤代とハルは、大学の写真
映画『四月になれば彼女は』公開直前記念号 (全文無料公開)
※「物語の部屋」メンバーシップ特別試写会の募集は定員に達したため締め切らせていただきました。
映画『四月になれば彼女は』の公開まで、あとひと月と少しになりました。
桜の開花を待つような、そわそわした気分で毎日過ごしています。
小説『四月になれば彼女は』は2016年に発表した小説です。
当時、僕のまわりから恋愛をしている人がどんどんいなくなっていくのを目の当たりにして、その謎を解きたくなり、こ
新年特別編 『1月1日に生まれて』(全文無料公開)
父の誕生日は、1月2日だ。
正月気分で過ごしていると、うっかり忘れてしまうことがある。
3日になってから家族みんなで「あれ? そういえばお父さん、きのう誕生日だったね」と言い合ったりした年もあった。父も、もはや祝われないことにすっかり慣れていて、怒りも傷つきもしない。
実は父が生まれたのは、12月28日だったらしい。
彼はそれを三十代になってから知った。
父が青森の実家に帰って、まだ幼かった僕
第5回 Q&A 花、面白い、珍しい。
A:GK
日本映画がさらに進化するには、より多様で「珍しい」作品がたくさん作られることが必要だと思います。
生物史を見てみると、その第一歩はいつも「突然変異」です。
それがゆえに「珍しく」「稀で」「妙なもの」が作られていくことが理想だと思っています。
25歳の時、映画『電車男』を企画しました。
その時の自分は、まさに「珍しい」映画を作ろうと思っていました。
先輩たちが有名監督を起用したり、ベ