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経営に活かしたい先人の知恵…その25

◆感情をコントロールする術◆

 孔子の編とされる『礼記』に、「感情の赴くまま、直ちに行動に移すのは野蛮民族のすることで、修養のある人の成すべきことではない」とある。

 また『孫子』は、「一国の君主たる者、一軍の将たる者は、怒りによって兵を起こしてはならぬ。戦いの結果が利益をもたらすかどうかという客観的判断に立って行動すべきである。怒りは、時が経てば喜びにも変わるだろう。だが、国(会社)は亡んでしまえばそれでお終いであり、人は死ねば生き返らない。この故に、名君名将は慎重の上にも慎重を期すのだ」と言っている。

 人間、喜怒哀楽があればこそだが、感情がもたらす弊害は大きい。では、感情とどう向き合えばいいのか?

 「EQ」の著者ダニエル・ゴールドマンは、EQ(心の知能指数)の高い人の共通項のひとつに「自己統制」をあげ、次のように書いている。

 「感情が我々を突き動かすのは生物学的衝動である。この衝動を消し去ることはできないが、コントロールすることは可能である。自分の心と対話できる人は、もちろん他の人と同じように不機嫌になったり、感情的な衝動に駆られたりするが、それをコントロールする術を心得ている」。

 感情のなかで、最も問題が多いのが「怒り」であることを、孫子も指摘しているが、どうすればコントロールできるのだろうか。

 ダニエル・ゴールドマン氏は、「①怒りの発端となった理由をもう一度問い直してみることだ。なぜなら、怒りは最初に衝突があり、それに対する評価から発生し、さらに評価検討が繰り返されて増大していくからだ。②腹が立った時は、可能な限り散歩すればいい。怒りを鎮めるにはこれが一番いい方法だ」、と説いている。

 参考までに、スリランカ仏教の長老スマナサーラ師の教えも紹介しておく。「①怒りを感じた時には、怒りをぶつけるのではなくて、自分の心を見つめるのです。『私は、なぜいま怒っているのか』と、2,3回心の中でいうだけでも、さっと怒りは消えてしまいます。②ただただ呼吸に意識を向けるのです。『吸う、身体が膨らむ、吐く、縮む』と呼吸しながら、言葉で確認してください。これだけでもとてもリラックスすることができます。③散歩をおすすめします。歩くことに意識を集中することでリラックスできます」。

 スマナサーラ氏には、宗教家らしく呼吸法が入っているだけで、他は同じだ。私自身の経験からいって、上記の3つの方法は、試してみる価値はあると思っている。

 怒りをコントロールすると言うが、抑えるのではなく、それをエネルギーに転嫁して成功した企業家もいる。低価格を武器に航空業界に参入し、先発企業の抵抗にあいながらも、今ではアメリカ有数の航空会社になったサウスウエスト航空の創業者のひとり、ハーブ・ケレハー氏がその人だ。

 同社が、航空業界に参入を表明した時、大手の航空会社が差止めの裁判を起こした。最終的には、参入が認められたが、ケレハー氏は、この時の大手航空会社の理不尽な介入に怒りを覚えたことが、成功の原動力になったと言い、「怒りは動機に繋がる。私の場合、それは大義となった」と続けている。

「怒り」がエネルギーになるようにまで、コントロールできれば最高だろう。

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