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ねえ、マスカレード… 君の素顔が見たいんだ ⑧ 最終話「ねえ、マスカレード… 君の素顔が見たいんだ!」

 僕が風祭 聖子かざまつり せいこさんに自分で書いた詩をたくしてから、何日がっただろう…? 二週間余りかな?

 僕は相変わらず、当たり前の学生生活を送っていた。

 僕は『マスカレード』に送るために書いた詩を最後にして、それからは全く詩を書いていない。
 彼女に許してもらうまでは、詩を書くのをつと僕はちかったんだ。
 だから僕は、自分にとっての行きつけの場所ともいえるSNSサイト『seclusionセクルージョン』の詩アカものぞいていない…
 覗いてしまうと、せっかく決心したちかいがらぐんじゃないかと思うんだ。なにせ、優柔不断なのは自分でも十分に承知していたから…

 聖子さんとのLINEが開通しているので、彼女に度々たびたび連絡を取っているんだけど、彼女の返事は「忙しい」だの「ごめんね、無理」だの、たまに意味不明な言葉「黒鉄の翼が…」(いったい何の事なんだ?)とか書いたものばっかりで要領を得なかった。

 僕は仕方なく、ただ日々を過ごすだけだった…

「あーあ… 詩が書きたいなあ…」
  今日もかわえのしない一日を終え、一人でコンビニ弁当を食べ風呂ふろにも入り終えて、YouTubeでも見ようとタブレットを操作していた時だった。

 スマホからLINEの着信音が鳴った…

「誰だろう…?」
 スマホの液晶画面を覗き、LINEアプリを急いで立ち上げて見た。
 すると、かかって来た相手は風祭 聖子かざまつり せいこさんだった。僕は急いで文字を読んだ…

 ********

🧙‍♀️(←以下、風祭 聖子)
こんばんは。
元気にしてた?
 この前からLINEもらってたけど、まともに相手出来なくてごめんなさいね😅
とても忙しかったのよ…😫
 それより、邦彦君。あなた最近、全然『seclusionセクルージョン』をのぞいてないでしょう?

👨(←以下、僕)
こんばんは、聖子さん。
 そうですよ、僕のLINEにちゃんと答えてくれてなかったでしょう…
 忙しいんだろうけど…
え?『seclusionセクルージョン』…?
  聖子さんに詩を託した日以来、全然見てませんけど…
seclusionセクルージョン』で何かあったんですか?

🧙‍♀️
とにかく、『seclusionセクルージョン』を覗いてみればわかるわよ。言いたかったのはそれだけ、じゃあね。
後は、あなた自身が頑張りなさい。いいわね
😘」

 そう言うと聖子さんは一方的にLINEを終えてしまった。
 何だよ、一方的であわただしい人だな… 相変わらず。

 とにかく、僕は机にすわってノートパソコンでSNSサイト『seclusionセクルージョン』にアクセスしてみる。
 ただし、僕は例の『マスカレード』の件で炎上してしまってフォロワーがほとんどいなくなった。それに3週間ほど自分から立ち寄ってもいないんだ。そんな状況で聖子さんは僕に何をどうしろって言うんだ…?

 いつもの見慣れた自分のホーム画面が立ち上がる。
 覗けば分かるって聖子さんは言ってたけど、いったい…?

 ありがたい事にと言うべきか、フォロワーが激減してはいてもゼロになった訳では無かったようで。僕の固定モノローグ(Twitterの固定ツイートに相当)に何件かのリ・モノローグがあったようだった。僕は少し感動してしまった…
 何人かは、よく詩のやり取りをした人達からだった。ありがたいなと、僕はしみじみ思った。

 そして、僕はDMにメッセージが届いているむねの表示があるのに気が付いた。
「今のこの僕にDM…? いったい、誰からだろう…? 聖子さんがくれてたのかな?」
 首をかしげた僕は、そうつぶやきながら『メッセージBOX』に届いていたDMを開いて見た…

僕は目を見張った。
 差出人のアカウントは『復活のマスカレード』となっていたのだ。
きっと『マスカレード』からのDMだ…

そこには一篇の詩が書かれていた…

********

あなたの詩は
未熟な表現だけど
私の心に響いたわ…
おかげで私は
詩の素晴らしさを
あらためて思い知ったの

私は詩が好き…
読むのも自分で書くのも

詩は感性を豊かにして
つむいだ言葉に自分の思いをたく
そして読んだ人に
自分の気持ちを手渡せる
受け取った人が
自分と同じように
感動を味わってくれたなら
お互いの心に
素敵な共鳴が生まれるかも…

こんな素晴らしい詩の世界
一度味わった感動を
手放せるはずがない…

私はこれからも
詩を書き続ける
紡ぐ言葉に自分の気持ちをつづ
見も知らぬ誰かに
読まれる事を願って…

読まれた私の詩が
その人の心の片隅に
少しでも引っ掛かってくれれば
私の心は幸せを覚える

ああ…
詩って何て素晴らしいんだろう

文字だけで
画像も映像も無くても
読んだ人の心に情景を届けられる
その人の空想力をき立てる

文字の羅列られつに込められた
様々な感情や想いを
読み取ってくれる事を願い
今日も私は言葉を紡ぐ

ああ…
何て素敵な表現手段だろう

詩は私に優しさや勇気…
様々な力を与えてくれる

だから安心して…

私は詩を紡ぎ続ける

この命ある限り…


    復活のマスカレード

********


 僕は『マスカレード』の詩を読み終えて、初めて自分の両目から涙が流れているのに気が付いた。

 これは『マスカレード』が誰の目にも触れるモノローグじゃなく、僕にだけてて書いてくれた詩なんだ…
 このDMには、詩以外に何も記載されていなかった。
 でも… 僕には彼女の本当に言いたい気持ちが、ちゃんと伝わって来たんだ。
 詩にも書かれていた通りに、彼女の心の声が詩に込められていたから…
 この詩自体が、彼女からの僕宛てのメッセージなんだ

 僕はうれしくて、夜だというのに飛びねそうな気分になった。『マスカレード』はまた詩を書く気になってくれたんだ。
 それを僕だけに書いた詩でDMで届けてくれた。
 僕は詩から彼女の気持ちが伝わって来て、ものすごくうれしかった。
 僕の感動の涙は、なかなか止まる事は無かった…

 思えば、彼女と詩のやり取りで喧嘩けんかしてから3週間余り経過していた。
 その間… 僕は彼女と詩の事ばかり考えて、他の事がまともに手に付かない日々だったように思う。

 正直言って、彼女から許された事が一番嬉しいんだけど…
 僕にとって本当に望んでいた事は、まだ終わっちゃいない。

 僕は『マスカレード』に対して謝罪したい事と、彼女が詩を止めないで欲しいって事を望んでいたし、それらはかなったんだけど…
 それよりも、もっと切実に僕が願っている事はコロナ禍が終わった今でも彼女が完全に外せない、顔の半分をおおうマスクを取り去ってあげる事だ。
 そして、彼女の傷付いた心を覆った悲しみのヴェールを取り払ってあげる事なんだ。

 いや、「・・・・してあげる」なんて言い方はおこがましいし、間違ってるな…
 違う… 僕が自分のためにそうしたいんだ。

だって…
 僕はいつしか、った事も無い『マスカレード』の事ばかりを考える様になっていたんだ。
 彼女の書いた詩を読みたいのも本当の事なんだけど、僕は彼女と実際に逢ってみたいと思い始めていた…

 そして、彼女と詩について語らいたい…

 いや、これも違うな… そんなカッコいいものじゃない。
 僕は顔も知らない彼女を、いつしかいとしく思い始めている気がするんだ… 彼女の事を考えると胸が苦しくなる事に、つい最近になって気が付いた。
 これって、初恋の感覚に似ているんじゃないか…?
 僕は数年前に味わった、ほろ苦い感覚を思い出した。それは、僕の片想いで一方通行のままの恋で終わっちゃったけど…
 
 僕は胸の奥がドキドキと高鳴る気持ちのまま、マスカレード宛てにDMで詩を書いて送った。


********

マスカレード…
素敵な詩をありがとう

君に…
僕の正直な気持ちを
聞いて欲しいんだ

僕は、この数週間…
君の事ばかり考えていた

そして、さっき
君からの詩を読んで
僕は自分が許された事を知った
そして、君は詩を止めないと言う
これで僕の望みは叶った
そう思っていたんだ…

でも、それは違ってた…

僕は君の書く詩が好きだ
でも…
今では詩だけじゃなくて
君の事をもっと知りたくなった…
最近、僕は何をしていても
君の事ばかり考えてる

そして…
どうしてなんだろう…?
君を想うと胸が切なくなる
いつの間にか
そんな風になり出したんだ

勘違いしないで欲しい
僕は詩を書くのが好きだ
恋愛についての詩も書く
だけど…
今、僕がつづっている詩は
創作じゃない…
僕の正直な心を
言葉にしてつむぎ出したんだ

僕は君の事を何も知らない…

だから君の事を知りたい
出来る事なら君に逢いたい
そして二人並んでベンチに腰掛け
詩について語り合いたい
君と二人一緒に
人生を楽しみたい

ふふふ… 大げさだね

でも、そんな気持ちに…
僕はなってしまったんだ
ねえ…
教えてくれないかな?
これは詩で良く表現される
恋の始まりなんだろうか…?

いや、ごめん…
僕の一方的な片想いが
始まっただけだね…

でも…
もし許されるなら
本当の君に逢いたいんだ
君にも本当の僕を知って欲しい

ごめんね…
長い詩になってしまった…
でも、僕は今…
嘘偽りの無い本心を語ったんだ
聞かされた君は迷惑かもしれない
でも…
僕の心の言葉で綴った詩を
最後まで読んでくれてありがとう

マスカレード…
君に出会えてよかった
僕は君に引き合わせてくれた
君の詩に感謝してる

本当にありがとう…


   『詩人の真似事師まねごとし』こと、朝倉 邦彦あさくら くにひこ


********


 僕は『マスカレード』へのDMの送信ボタンを押した後しばらくの間、放心状態の様になっていた…
 頭がボーっとして、身体もがらになった様な感じがした。

 僕… 今、『マスカレード』に詩でコクっちゃったのかな…?
 これって… 詩じゃなくて、ただのラブレターじゃないのか…?

 しばらくの間… 僕はコクった後の脱力感の中で自問自答を繰り返し、少し自己嫌悪におちいりかけていた。
その時だった…

 ノートパソコンで開いたままだったSNSサイト『seclusionセクルージョン』に、僕ての着信があった事を知らせる「キンコン!」という音が鳴ったんだ。

「え? ま、まさか…?」

それは、DMの着信だった。
相手は… 『マスカレード』だった…
内容は彼女からの返詩だった。


********

素敵な詩をありがとう
邦彦さん

私…
今、泣きながら
返詩を書いてます
涙が止まらなくて…

あなたの本心だって
ちゃんと分かったわ…
あなたの心の言葉が
私の心に伝わって来た
そしたら
涙が出て来ちゃったの…

どうしてなんだろ?
あなたの詩って
心に響いて来る

私もいつか
あなたに逢って見たい
その時は
マスク無しで
逢いたいな

私達の詩と同じ様に
心の言葉で
話し合えるようになったら

その時は…

私は
マスカレードじゃ無くなる…
そんな気がするの…

でも、私に…
出来るのかしら…?

怖い…


   マスカレードじゃなくなりたい
          一ノ瀬 笑美いちのせ えみ


********


 僕は彼女の、一ノ瀬 笑美いちのせ えみという女性の返詩を読んで、またあふれ出す涙を止める事が出来なかった…

僕は彼女の本名を知った。
そして、彼女の心の叫びを聞いた…

 笑美えみちゃんの本心は、マスカレードをめたがってる。もう仮面舞踏会マスカレードを終わりにしたいんだ。
 きっと、顔からもマスクを外して、もっと大げさなほどに喜怒哀楽を表現したいんだ。
 そして、彼女は心をおおったからも脱ぎ捨てたいんだ。
 
彼女の心は助けを求めてる…

 僕は笑美《えみ》ちゃんの力になりたい…
 心の底から思う… 彼女の手助けをしたいんだ。

 僕は一ノ瀬 笑美いちのせ えみに送る返詩を書くために、ノートパソコンのキーをたたき始めた。


********

笑美えみちゃん…
素敵な名前だね

君が名前通りの
素敵な笑顔を取り戻すのを
僕に…
手伝わせてくれないか…?

君に逢いたいんだ

詩のやり取りじゃなく
DMでもなく
じかに君と話したい

そして…
君の名前通りの
美しい笑顔が見たいんだ

仮面舞踏会マスカレード
もう終わりにしよう

だからお願いだよ
これは僕の心からの叫びだ
君も心で受け取って欲しい

じゃあ、叫ぶよ…

「ねえ、マスカレード…
 君の素顔が見たいんだ!」


   君の詩人になりたい
       朝倉 邦彦あさくら くにひこ


********


数分後… DMが届いた。
書かれていたのは、たった一行の返詩だった…


********



手伝って… お願い

       笑美えみ


********



【 完 】



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