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ねえ、マスカレード… 君の素顔が見たいんだ ⑦「詩で涙が止まらない…」

何だろう…?
 これはラインの着信音… 誰かしら、こんな時間に…?

 今は夜の10時半で、そろそろ寝ようかなと思っていたところだったんだけど…
 もちろん、私もスマホにLINEアプリを入れている。
 人と付き合う事が苦手な私は友達が大勢いる訳では無かったので、LINE仲間と言えば看護大学の同級生や先輩に先生方が大半で、LINEの内容も学校の連絡程度だった…
 現役の看護師でもない私に夜の10時以降にかかってくる事なんてめったにない。
 同居している母も弟も家にいるから、それも違うだろう…
 だから誰からのLINE…なんて事は、ちょっと私には思い浮かばなかった…

「とりあえず、出なきゃ…」
 そうつぶやきながら、スマホのLINE画面を見る。

「誰だろう、これ…? 『セイコ』って表示されてるけど…
 私の知ってるセイコさんと言えば、SNSサイトの『seclusionセクルージョン』の詩アカで知り合ってDMでもやり取りしていた風祭 聖子かざまつり せいこさんだけだけど…
 彼女とは『seclusionセクルージョン』のDMを通してだけでLINEのやり取りはしていないし、LINEアカウントも教えてなかったはずだ…
 でも、他にセイコさんなんて人に心当たりはないわ…」

とにかく、LINEのメッセージを読んで見る…

🧙‍♀️(←以下、風祭 聖子)
こんばんは、マスカレードちゃん。
風祭 聖子かざまつり せいこです。
 驚かせちゃってたらごめんなさいね。
 あなたが『seclusionセクルージョン』を退会しちゃったから…
 DM以外の違う形で連絡を取るしかなかったもんだから…😅

 私は驚きながらも聖子さんの文面に対して返事を入力した。

👩(←以下、一ノ瀬 笑美いちのせ えみ
こんばんは…
って、聖子さん…
いったいどうして…?
私、聖子さんにLINEアカウントなんて…
教えてなかったでしょ…?💦

すぐに聖子さんからの返答があった。

🧙‍♀️「ええ、そうね。あなたの言う通りよ。
 私は、あなたのLINEアカウントを教えてもらってなかった。
 『じゃあ、なぜ?』って事になるわよね、当然…
 申し訳ないけど手短てみじかに答えるわね。
私には、そういう事が出来るの…
 私は電脳世界のIT(情報技術)に精通した人間なのよ。
 ぞくに言うところのハッカーってやつ…
😅」

「ハッカー…?」
 私は愕然がくぜんとした。聖子さんって秘書の仕事をやってたんじゃ…

👩「ハッカーって…
 聖子さん、秘書をなさってたんじゃ…?

 私が自分の思った疑問をぶつけて見ると、すぐに聖子さんからからメッセージが返って来た

🧙‍♀️「うーん… どっちもホント…かな?🤔
  私のれっきとした職業は、公式には秘書で間違いないわ。
  ハッカーは純然たる趣味で、私の裏の顔…とでも言うのかな…
  本業の仕事で使う事もあるんだけどね…
😅」

👩「よく分かりませんけど… 聖子さんが、
 こうやって私に連絡を取って来たのはどうしてなんですか?

 今度の私の質問への聖子さんの答えが返って来るのに、少し時間がかかった。

🧙‍♀️「マスカレードちゃん… いえ、笑美えみちゃんが急に『seclusionセクルージョン』を退会しちゃったでしょ。
 私ね… どうしても、あなたに話したい事があったの…

 聖子さんは私の本名まで知っている… 私自身が自分の本名を彼女に言った事は、たしか無かったと思う。聖子さんがDMで私に対して、自分の素性は言わなくていいと言ったのだ。
 これが、この人の言うハッカーの技術の一つ…なのかしら。

 私は聖子さんに抱いていた好感や、彼女の持つ大人の女性としての魅力に対してのあこがれが、自分の中で彼女への疑念へと変わっていくような気がした。

👩「それで… 話したい事って…?

 私がLINEではなくて、聖子さんに対して面と向かってじかにしゃべっているとしたら、きっと言葉は少なくなりとげのある言い方になっていたに違いない…

🧙‍♀️「やっぱり、怒ってるようね… 当然よね。
勝手な事をしてごめんなさい…
 でも、どうしてもあなたに連絡を取りたかったの…
それに…
 そうしたかったのは私だけじゃなくて、もう一人いるのよ。

えっ… もう一人?
 聖子さんだけじゃなく? 誰だろう…?
 私は感じていた聖子さんへの不信感も忘れてしまった。

 そんな人が他にいるって言うの…?
 私にはどう考えても、そんな人物は思い当たらなかった…

👩「それって…誰なんですか?
私の知っている人…?

 聞くのが少し怖かったけど、私はどうしても聞かない訳にはいかない気がした…
 また、聖子さんからの返事に少しがあった。
 面と向かっている訳では無いけど… このは、聖子さんが答えるのをためらっている様な感じに思える。どうして…?
まさか…

🧙‍♀️「ええ… あなたも知っている人…
 あなたが『seclusionセクルージョン』を退会するきっかけを作った人よ。

 そこまで聞いて、私は愕然がくぜんとした…
 なんとなく聖子さんの話の調子で、そんな予感がしない訳でも無かった…

👩「聖子さん…
 それって…本当なんですか? 私をからかってるんじゃ…?

 そうであって欲しいという一縷いちるの希望を持って、私は聖子さんに問いかけた。でも、結果は予想出来た…

🧙‍♀️「私は、あなたをからかおうなんて気は全く無いわ。
 さっき言った通り、もう一人というのは『詩人の真似事師まねごとし』君よ。

ああ… やっぱり…
どうしてなの…?
 私にとって居心地の良かったSNSのseclusionセクルージョンめる事で、もう終わったと思っていたのに…
もう、彼とも関り合う事なんて無いと…

👩「どうしてなんですか… 聖子さん?
 もう終わったって思ってた… 終わらせたと思ってたのに…
 私はあなたがハッカーかどうかなんて知らない!
 そんなの私とは関係無いじゃない!
 そんな違法な手段を使って私の事を調べて…
 あいつまで連れて来て、いったいどうしようって言うの!
 あなた達… 私に何がしたいのよ!
 放って置いて下さい! 私の事は!
もう構わないで!
・・・・・・・
さよなら、聖子さん…

 私は、聖子さんとつながっているLINEを強制的に切ろうとした。
すると…

🧙‍♀️「待って!笑美えみさん…
 お願いだから、もう少しだけ話を聞いてちょうだい。
 あなたの言う通り、私が違法な手段を使ってまで連絡を取った事は許される事じゃないわ。
 でも、こうしないとあなたと話が出来なかったから…
本当にごめんなさい…
 
 私はね、アメリカで心理学の博士号を取得したClinical Psychologistでもあるの…
 ここからは、私が専門的な立場であなたに言わせてもらうわね。
笑美えみさん、逃げちゃ駄目よ。
 勘違いしないでね、『詩人の真似事師まねごとし』君の事を言ってるんじゃないのよ。
 『seclusionセクルージョン』を退会しても、あなたがコロナ禍で受けた心の傷が消える事は無い…
 あなたが、新型コロナウィルスの感染でお父さんを亡くした事を発端ほったんとして、心の底から笑えなくなった事… それに自分の顔をおおうマスクを捨て去る事が出来ない事…
 あなたは自分では意識していないかもしれないけど、あなたはマスクで顔を覆い心に殻を被る事で、他人に自分の素顔と心の中を見られない様に人との繋がりを持ちたくないのよ。
 でも、そんな気持ちのままでお母さんと同じ様な立派な看護師さんになれると思う? 患者さんの心の支えになる事が出来るかしら?

 あなたは最近、SNSという電脳空間の中に自己表現の場所を持ち、詩という表現方法で自分から外部へ向けて発信する事で前向きになって生きていこうとしていた。
 SNSを通して社会と積極的に関わっていこうとしていたわよね…
それは、とてもいい事だわ。
 そして、あなたが書く詩のファンやフォロワーが増えていった。詩アカで私と知り合ったのも、その内の一つと言えるわね。
 これらは、誰から与えられた物でもないわ。あなた自身が自分の力で手に入れた物なのよ。
 『seclusionセクルージョン』という場所は、あなたにとって自己表現をするために必要だし、そこに投稿するあなたの詩は自己表現するための手段というだけじゃなくて… 心の奥から湧き上がって来る、あなたの心の叫びなんじゃ無いのかな?
 あなたの仮面でおおわれた心が、仮面の隙間すきまを通して叫びを上げているのよ…
詩という表現手段を使ってね。
 私にはそうとしか思えないんだけど、違うかしら…?


👩「・・・・・・

聖子さんの文章はとても長かった…
長すぎるからだろうか…?
途中から読みにくくなった…
いや、そうじゃない…
 私は涙で目がかすんで、スマホの文章がぼやけて読みにくくなっていたのだ…
 でも、目がかすみはしても涙は流れ落ちて来なかった…


🧙‍♀️「笑美えみさん、ここまでは私が言いたかった事…
 他人が何を言ったって、最終的にはあなた自身が決めなきゃならない事よね。
 でね… ここに、私が預かった一篇の詩があるの。
 そう、あなたを傷付けた『詩人の真似事師まねごとし』君の書いた詩…
 あなたに読んで欲しいんだって、彼が書いて私に託したの。
 信じる信じないはあなたの勝手だけど、私は内容を読んでいないわ…
 彼から送られて来た詩を、このLINEに添付てんぷしてあなたに届けるだけ。
 添付して送るから、気が向いたら読んであげて。
せっかく彼が書いたようだから…
 詩のヘタクソな私よりは、少しは読めるんじゃないの?
 ふふふ…
 私は、さながら郵便配達のお姉さんって所かしら…

それじゃあ…
 私としては言いたい事を言ったし、頼まれてた詩も届けたから…これで失礼するわね。
 私があなたについて知り得た情報は全て処分するわ。約束する。

 あなたには言ってなかったけど、私は探偵事務所の所員なの。まあ、仕事は秘書なんだけどね…
 探偵業務において職業上知り得た情報に関しては、守秘義務があるから絶対に依頼人以外の外部には絶対に漏らさない。
 でも、今回は依頼人があなたの個人情報を受け取るのを拒否したから、彼もあなたの個人情報に関しては知ってはいないのよ。
 私に関しては、あなたとの個人的な友情からも絶対に守るから安心してね。

 あなたは、これからも自分の夢に向かって頑張ってね。
 それじゃあ、元気でね。


ここまでで聖子さんのLINEが切れた…
 彼女は私の事を本気で心配して考えてくれていたんだ。
 そう思うと、さよならの挨拶あいさつも出来なかった自分が情けなく思えて来た。

「あ、これ… 聖子さんの言ってた添付ファイル…?」
 彼女が言ってた詩が添付てんぷされて来た…

 正直言って、私は添付されていると言う『詩人の真似事師まねごとし』の書いた詩を読むのなんて気が進まなかった…

でも…
 聖子さんが違法な手段を使ってまで、私に届けようとした詩…
読まないと彼女に失礼に当たるか…

私は添付ファイルを開いた。
そこには次の一篇いっぺんの詩があった…

********

 ごめんよ…

 僕は何も知らなくて
 君の心を傷付けた
 いや…
 すでに負っていた
 君の心の傷を
 広げてしまったのか…
 とにかく
 本当にごめんなさい…
 謝って許される事じゃない
 それは分かってる
 僕は嫌われても仕方が無い

 でも…
 詩はやめないで欲しい
 君はとても素敵な詩をつむ
 僕はそこに心かれたんだ

 悲しみを知る君は
 僕には表現出来ない詩を
 つむいでる

 悲しみを知る君だからこそ
 悲哀だけじゃなく
 真実の愛と優しさが
 君の詩に宿やどってる

 詩に込められた君の
 心の奥底からの叫びが
 読む者の心に聞こえてくるんだ

 それって…
 僕なんかに真似出来ない
 書ける訳が無い
 僕には
 魂の叫びなんて無いから…

 だから…

 僕は一人のファンとして
 君に詩を書き続けて欲しい

 自分の夢に向かって
 まい進しながらも
 人の心をさぶって
 感動を与える美しい詩を
 つむぎ続けて欲しいんだ

 だから
 マスカレード…

 お願いだから
 詩をやめないで…

 僕は君の詩が読みたいんだ

********


「何なの、これは…?」

 私は理解出来ない感情に包まれた…
涙が止まらない…
後から後から涙があふれ出てくる…
どうして…?

 彼が詩の中で言った、私の詩が人の心を揺さぶるという表現…
今…
 彼の紡いだ言葉が、私の心を揺さぶってる…
これが彼の言う詩の力…

そんなに素晴らしい詩じゃない。
詩というよりも手紙か作文みたい…
でも、私も詩を書くからよく分かる…
 この詩には、人を無理矢理感動させようとしていないし、気取った小難こむずかしい表現も無い。ちっともオシャレな詩なんかじゃなくて、始まりの部分なんて私へのただの謝罪文なだけ…
でも、どうしてなんだろう…
この止まらない涙は…?

・・・・・・・・

私には分かった…
彼は嘘を書いてないんだ。
 私に伝えたい自分の気持ちを、正直に詩に込めて書いてるから…
 自分が怒らせた私にびへつらう訳じゃなく、自分の素直な気持ちで言葉を紡いでいるから…
 彼が心から私へ謝りたい気持ちと、私にまた詩を書いてもらいたいと言う彼自身の願いがストレートに表現されてるのよ。
 これは私だけに向けた彼の心からの声…
 だから、私の心に突き刺さって来るんだわ。

 聖子さんや彼が言う私の心の叫びは、彼にだって表現出来るのよ。
 この詩は彼が頭で考えたのじゃなく心で紡いだ言葉だからこそ、じかに私の心に響いて涙をあふれさせるのよ…
 これが詩の力… これが心の叫び…
 誰でも書こうと思って書ける訳じゃない…
 自分の心の叫び、相手への想い…そういった思いの全てを、読んだ人の心にぶつけられるかどうか…
 それが人の心に感動を与えられる詩か、そうじゃないかを分けるんだと思う。

 難しい言葉や、無理に感動を与えようとする言葉を書きつらねるだけじゃなく、不器用で単純な言葉だけでつづった詩でも読む者に感動を与える事は出来るんだわ…
 彼の書いたこの詩がまさしくそうなのね…

 そう考えながらも、私の両目からあふれ出る涙は止まらなかった。
 そして、彼の詩が表示されたままのスマホを両手で握りしめながら、私はこう思った…

天国のお父さん…
 私の書く詩を読みたいって言ってくれる人がいるの。私の書いた詩に心をかれたんだって…
 私は詩を書く事で、他の人とつながりを持っていけるのかな…?
そうすれば…
 もうマスクをかけ続けなくても、人の目を真っ直ぐに見る事が出来るかな…?
 お母さんみたいに、患者さんや他のスタッフにしたわれる立派な看護師になれるかな…?
 私… 努力してみるよ、お父さん。だから、天国から私の事を見守って応援してね。お願いね。

お父さん…
 私、詩に出会えてよかった。心からそう思うの。

大好きなお父さん…
 人の心を動かせる詩って、やっぱり素晴らしいわ…
 そんな人の心を揺さぶる詩を私は書き続けたい…



【次回に続く…】

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