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試し読み『ぼくの村は壁で囲まれた』|はじめに


「知る」「伝える」「行動する」ために

 2017年に刊行された高橋真樹さん著『ぼくの村は壁で囲まれた:パレスチナに生きる子どもたち』がこのたび3刷となりました。本書はパレスチナに生きる子どもたちの日常を通して、パレスチナで起こっていること、その原因や歴史的背景を伝えています。入門書としておすすめできる一冊です。

 2023年10月現在、パレスチナに生きる人々はかつてないほどの状況に置かれています。パレスチナの人口の半数は16歳以下の子どもです。10月27日からはガザ地区のすべての通信手段が絶たれ、イスラエル軍の攻撃はさらに激しさを増しています。
 この状況を作り出したのは、国際社会の無関心、私たちの見て見ぬふりです。国際社会の一員である私たちには、イスラエル軍によるパレスチナ人の虐殺を、土地の封鎖と占領を、一刻も早くやめさせる責任があります。

 この記事では、『ぼくの村は壁で囲まれた:パレスチナに生きる子どもたち』「はじめに」の全文を掲載します(なお、文中の太字強調は現代書館によるものです)。今回の重版にあたって加筆していただいた部分もあります。ぜひ最後までお読みください。
 ひとりでも多くの方に本書が届き、「知る」「伝える」「行動する」きっかけになることを願っています。

「やればできる」という安易な希望を語るのではなく、「どうせ解決しないよ」と冷ややかに批評するのでもなく、ひとつひとつできることを積み重ねていくことこそが、未来を切り開いていくはずです。この本を読んでくれたあなたが、たとえ小さくても具体的な一歩を踏み出してくれたら、嬉しく思います。

『ぼくの村は壁で囲まれた:パレスチナに生きる子どもたち』194ページ
「あとがき――それでもパレスチナが遠いあなたへ」より

はじめに――パレスチナ問題から世界が見える


 「宗教や民族が関わる紛争だから、日本人には理解できない」。日本でパレスチナとイスラエルについての話は、よくこんなイメージでとらえられています。でも実際に起きていることは、そうしたイメージとは違っています。
 急病にかかって救急車で運ばれたのに、武装した人に道をふさがれて治療を受けられない。家で家族とくつろいでいるときに、突然ブルドーザーが突っ込んで家を壊される。理由も分からず逮捕されて何日も勾留されているのに、家族には何が起きているかはいっさい知らされない……。
 もしも日本でそんなことが起きたら大事件です。ところがパレスチナでは、このようなことが毎日のように起きています。むしろ、そういったことを経験していないパレスチナ人はほとんどいません。何より大事なのは、そのようなことが起きている原因には、「宗教や民族」は関係ないということです。
 日本でパレスチナ問題は、「聖地をめぐる宗教戦争」や「憎悪の連鎖が問題」と説明されることがありますが、多くの場合それは誤解に基づいています。また一般的に日本のメディアでは、「パレスチナとイスラエルの紛争」として、パレスチナ側とイスラエル側の主張を半分ずつ紹介するのが「中立」な報道だとする考えがあります。でも、現実に起きていることを踏まえると、そのような伝え方が「公正」と言えるのか疑問です。この紛争は、「パレスチナ対イスラエル」という単純な構図で語れる問題ではないからです。
 ぼくは、長年パレスチナ問題に関わってきた人間の一人として、その誤解を解きたいと考えてきました。それがこの本を書いた理由のひとつです。
 日々のニュースを見ているだけでは、何が原因でこのようなことが起きているかを理解するのは困難です。なぜなら、皆さんがテレビなどでパレスチナのニュースを目にするのは、たいていパレスチナ人の自爆や、イスラエル軍による空爆などで、多くの命が奪われているようなときだからです。パレスチナ問題を理解するためには、そうした衝撃的な事件ばかりではなく、現地の人々の日常に目を向ける必要があります。この本では、パレスチナで生きる子どもたちの日常を通して、今何が起きているのか、なぜこんなことになってしまったのかについて伝えています。
 世界の多くの問題にもつながっているパレスチナ問題とは、いったいどのようなものなのでしょうか? イスラエルとはどんな国なのか? そして、ふるさとを奪われて生きる難民の思いとは?… この本を通じて、パレスチナの現実に目を向け、子どもたち一人ひとりの暮らしを身近に感じてもらえればと思います。

(※現代書館注:今回の増刷にあたって、以下の部分を加筆いただきました。)

 ガザ地区に暮らす230万のパレスチナ人は、いまかつてない危機にあります。2023年10月7日、ガザを実効支配するハマスの戦闘員が、壁を乗り越えイスラエル南部に乗り込み、多数の兵士や民間人を殺害、200人前後とされる人質を連行しました。イスラエル側の怒りは凄まじく、空爆を続けながらガザ北部に暮らすおよそ110万人に対し避難命令を出し、地上戦の準備を進めています。乳児から障害者まで、短時間に全住民を強制移住させる作戦は常軌を逸しています。しかも避難先の南部も空爆され、電気や水は止められ、避難所もありません。国連人権理事会は、「民族浄化に相当する」と警告しましたが、国際社会はイスラエルの攻撃を止めようとしていません。
 ハマスによる民間人の殺害や誘拐は許されるものではありません。しかし、イスラエルが占領政策を続ける限り、抵抗運動はやまないどころか、過激化していくだけです。この問題は国際社会が作り出したものです。双方でこれ以上の犠牲が増えないよう、アメリカを始めとする国際社会はあらゆる手段を尽くす責務があります。(2023年10月17日 3刷増刷時に追記)


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