小池陽慈

執筆業、予備校講師。修士(学術)。著作は、『14歳からの文章術』『"深読み&…

小池陽慈

執筆業、予備校講師。修士(学術)。著作は、『14歳からの文章術』『"深読み"の技法』(笠間書院)、『評論文読書案内』(晶文社)、『ぼっち現代文』(河出書房新社)、『現代評論キーワード講義』(三省堂)、編著『つながる読書』(筑摩書房)、他。現在、放送大学大学院博士後期課程。

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著作の紹介(刊行順)

神保町の書店「PASSAGE SOLIDA」【小池陽慈の本棚】 *オンラインでの購入も可能です!【共著】紅野謙介編『どうする? どうなる?これからの「国語」教育』(幻戯書房)【…

小池陽慈
3年前
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存在の色と形

下り坂の途中、猫が轢かれて死んでいた。誰かがダンボールを被せていたが、隠しきれていなかった。次の日、猫の死骸はすでになかった。ただ、アスファルトにはくっきりと、…

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4日前
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砂つぶの時間

幼かった頃、時の流れには音があった。それは、例えば午後の早い時間に聞くことができた。カーテンの隙間から差し込む光の道に、きらきらした埃が舞うのだ。見つめていると…

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祖父の死(私にとっての)

父方の祖父が亡くなったのは、私が小学校三年生のときだった。祖母と父が泣くのを横目で見ながら、「これはただごとではない」と思った。が、やはり、死なるものの現実は遠…

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嫉妬

T君は大学の同級生で、でも一年生のときに亡くなった。ボブ・ディランのベスト盤を貸したままだった。T君の葬式には、彼の高校の同級生もたくさん弔問に来ていた。そのうち…

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「おまえはいまどこにいる?」

二十年ぶり、あるいは三十年ぶりに開いた本に、かつての自分の書き込みを見つけることがある。するとかつての自分の書き込みは、「おまえはいまどこにいる?」と問うてくる…

小池陽慈
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祖母の陽だまり

亡き祖母は、生前、窓のそばの陽だまりを好んだ。そこへちょこんと座り(祖母は本当に小さかったのだ)、縫い物などをしていた。あまりにも陽だまりと一緒にいるから、幼い私…

小池陽慈
12日前
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青空を割くもの

「この青い空はどこまでもつながっていて」と言うけれど、本当にそうなのだけれど、でも、実際には、例えばガザの空と私が見上げるこの空とは、はさみのようなもので切り裂…

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私は人間が

私は人間が大嫌いで、しかも、大好きで。そうしてそんな自分のことを、このうえなく、どうしようもなく、人間なのだと思う。車窓に人間の街が広がり、流れてゆく。

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完璧な世界

黄色のカバーをかけたランドセルの子が、道にうずくまって何かを凝視している。蜂の死骸だ。私の視界が切り取ったこの光景は完璧な世界で、何を足すことも引くこともできな…

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一生ぶんの輪ゴム

幼い頃、母が箱入りの輪ゴムを買ってきた。あんなにたくさんの輪ゴムを見たことがなかった私は、「すごーい。これぜんぶ使うの、どれくらいかかるんだろう?」と驚いた。母…

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日曜日の公園は

日曜日の公園は、子どもたちの歓声が渾然一体に混じって、「わぁん…」という音がドームのように覆い被さってくる。ベンチに座って目を閉じていると、「そうだね。生きてい…

小池陽慈
2週間前
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ブルースカイ、DMが実装されました。嬉しい。もっとユーザーが増えてくれるとなお嬉しい。
https://bsky.app/profile/koikeyoji.bsky.social

小池陽慈
2週間前
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先日発売の『マンガでわかる 現代文重要単語[発展編]』(KADOKAWA)、本日(2024 4/20)、honto電子書籍ランキング【高校学習参考書】部門で【1位】となりました! ご購入くださった皆様、本当にありがとうございます!
https://honto.jp/ebook/pd_33364895.html

小池陽慈
1か月前
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『マンガでわかる 現代文重要単語[発展編]』、発売です!

アイデンティティ、コンテクスト、フィクション、ニヒリズム、オリエンタリズム……等々、大学入試の評論文に頻出する"カタカナ語"には、学術的な抽象概念を表すものがかな…

小池陽慈
1か月前
11
著作の紹介(刊行順)

著作の紹介(刊行順)

神保町の書店「PASSAGE SOLIDA」【小池陽慈の本棚】 *オンラインでの購入も可能です!【共著】紅野謙介編『どうする? どうなる?これからの「国語」教育』(幻戯書房)【単著】『無敵の現代文 記述攻略メソッド』(かんき出版)【単著】『大学入学共通テスト 国語[現代文]予想問題集』(KADOKAWA)*2021年度用【改訂版】がありますので、お買い求めの際には、そちらをお願いいたします。

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存在の色と形

存在の色と形

下り坂の途中、猫が轢かれて死んでいた。誰かがダンボールを被せていたが、隠しきれていなかった。次の日、猫の死骸はすでになかった。ただ、アスファルトにはくっきりと、血痕や体液の跡が残っていた。今にも体積を得て、むくりと起き上がりそうな形の染みであった。奇妙な話、私には、これこそが存在なるものの色であり、存在なるものの形であると思われた。見つめる私の影は、のっぺり平たく延びるばかりだった。

砂つぶの時間

砂つぶの時間

幼かった頃、時の流れには音があった。それは、例えば午後の早い時間に聞くことができた。カーテンの隙間から差し込む光の道に、きらきらした埃が舞うのだ。見つめていると、耳の奥に、つぶつぶつぶつぶ…と、粒子のような音が鳴り続けた。時の流れる音だったのだろう。

祖父の死(私にとっての)

祖父の死(私にとっての)

父方の祖父が亡くなったのは、私が小学校三年生のときだった。祖母と父が泣くのを横目で見ながら、「これはただごとではない」と思った。が、やはり、死なるものの現実は遠かった。葬儀の司会が、「人が死んでも細胞はまだ生きていて、それも少しずつ死んでゆく」というようなことを言っていて、その言葉だけは妙に印象に残ったのだった。しばらくたったある日、祖母が、「爺さん愛用の孫の手が出てきた」と見せてくれた。孫の手の

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ドゴッ、ドゴッ、ドゴッ…

ドゴッ、ドゴッ、ドゴッ…

つれあいのお腹に子が宿ったとき、医師は、その心臓の動きを機器で聞かせてくれ、「この心臓は、もう一生、動きを止めることがないんです」と教えてくれた。当たり前なことだ。けれどもその事実は、予想した以上に自己主張の激しい鼓動とともに、世紀の大発見かのような衝撃で、私の脳と世界とを揺らしたのだった。

嫉妬

嫉妬

T君は大学の同級生で、でも一年生のときに亡くなった。ボブ・ディランのベスト盤を貸したままだった。T君の葬式には、彼の高校の同級生もたくさん弔問に来ていた。そのうちの一人が、代表として、T君への思いを読み上げた。僕は嫉妬した。友人代表としてT君への弔辞を読むべきは、自分だろうと歯噛みした。僕はそういう人間なのだ。あれから約三十年たった。僕はまだ、思い出しては嫉妬している。

「おまえはいまどこにいる?」

「おまえはいまどこにいる?」

二十年ぶり、あるいは三十年ぶりに開いた本に、かつての自分の書き込みを見つけることがある。するとかつての自分の書き込みは、「おまえはいまどこにいる?」と問うてくる。そんなとき私は、「おまえがいるところにいるよ」と答えるしかない。けれどもそれは残念なことでもないのだ。

祖母の陽だまり

祖母の陽だまり

亡き祖母は、生前、窓のそばの陽だまりを好んだ。そこへちょこんと座り(祖母は本当に小さかったのだ)、縫い物などをしていた。あまりにも陽だまりと一緒にいるから、幼い私は、陽だまりは祖母の作り出すものかと疑った。そして祖母が亡くなってからというもの、あんなに柔らかな陽だまりはついぞ見たことがないのだから、私の疑念は、あながち間違いとも言えないのだ。

青空を割くもの

青空を割くもの

「この青い空はどこまでもつながっていて」と言うけれど、本当にそうなのだけれど、でも、実際には、例えばガザの空と私が見上げるこの空とは、はさみのようなもので切り裂かれてしまっている。そうしてそのはさみのようなものは、血塗られて、私のこの手にも握られている。

私は人間が

私は人間が

私は人間が大嫌いで、しかも、大好きで。そうしてそんな自分のことを、このうえなく、どうしようもなく、人間なのだと思う。車窓に人間の街が広がり、流れてゆく。

完璧な世界

完璧な世界

黄色のカバーをかけたランドセルの子が、道にうずくまって何かを凝視している。蜂の死骸だ。私の視界が切り取ったこの光景は完璧な世界で、何を足すことも引くこともできない。

一生ぶんの輪ゴム

一生ぶんの輪ゴム

幼い頃、母が箱入りの輪ゴムを買ってきた。あんなにたくさんの輪ゴムを見たことがなかった私は、「すごーい。これぜんぶ使うの、どれくらいかかるんだろう?」と驚いた。母は、「たぶん一生かかるよ」と笑った。そのとき、私はふと、「人の一生って、一箱の輪ゴムを使い切る程度の時間でしかないんだな」と、切なく感じたのだった。箱の中に詰まった輪ゴムが、なんだか自分の命のように思われた。

日曜日の公園は

日曜日の公園は

日曜日の公園は、子どもたちの歓声が渾然一体に混じって、「わぁん…」という音がドームのように覆い被さってくる。ベンチに座って目を閉じていると、「そうだね。生きていこう」と思えるのだ。

ブルースカイ、DMが実装されました。嬉しい。もっとユーザーが増えてくれるとなお嬉しい。
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先日発売の『マンガでわかる 現代文重要単語[発展編]』(KADOKAWA)、本日(2024 4/20)、honto電子書籍ランキング【高校学習参考書】部門で【1位】となりました! ご購入くださった皆様、本当にありがとうございます!
https://honto.jp/ebook/pd_33364895.html

『マンガでわかる 現代文重要単語[発展編]』、発売です!

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アイデンティティ、コンテクスト、フィクション、ニヒリズム、オリエンタリズム……等々、大学入試の評論文に頻出する"カタカナ語"には、学術的な抽象概念を表すものがかなり多いんですね。

である以上、評論文を読解するうえで鍵になる、いわゆる"キーワード"となる可能性が高いということになります。

その語句について、「意味まで理解して覚えていればこそ、読めた! 解けた! そして受かった!」──ということが

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