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宏池会政権の軌跡

 本書は池田政権から今日の岸田政権に至る、宏池会出身の首相がつくった5つの政権を振り返ったものだ。著者は大平正芳の首相番や宏池会の担当などを務めたが、宏池会にはある種の共同幻想ともいうべきイメージが定着しているという。それはハト派、軽武装、護憲派、リベラル、経済重視といったもので、右・左という区分でいうなら自民党の左に位置する、という見方だ(本書3頁)。

 それに対して、著者は政策の「ギアチェンジ」こそが宏池会政権の特徴と見る。安保闘争によって退陣した岸内閣のあとに総理になった池田勇人は、所得倍増を掲げ、高度成長を実現した。これは政治から経済へのギアチェンジだった。高度成長が終わったころに総理になった大平は、一般消費税を導入して低成長下での財政政策へとギアチェンジを図ったが、失敗した。続く鈴木善幸は行財政改革を行い、同じく低成長下での財政政策への転換を進めた。宮沢喜一はPKO(国連平和維持活動)で一国平和主義から国際貢献へと転換した。

 では、現在の岸田政権はどうか。敵基地攻撃能力をはじめとする安保政策と、原発のリプレースなど原発政策の転換を成し遂げたというのが、著者の見解である。

 岸田首相自身は、現実主義で目の前の政策課題に取り組むのが宏池会の一貫した姿勢と捉えている(12頁)。著者はそれに一定の理解を示しつつも、現実主義とは無思想の思想であり、自民党のお家芸ともいうべき融通無碍に通じると指摘している(20頁)。

 これは岸田政治の本質を突いていると思う。場当たり的に動き回るだけで、中身は何もない。現実主義というより、単なる現実追従主義である。確かに歴代の宏池会政権も現実主義に基づき政策を転換しただろうが、彼らは確かな経験と教養のもと、様々な葛藤を抱えながら政策を進めていた。岸田首相とはまったく異なる。本書を読めば、岸田政権が宏池会政権の歴史の中でも異次元のレベルにあることがわかるだろう。(編集長 中村友哉)

(『月刊日本』2023年12月号より)

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書 籍:宏池会政権の軌跡
著 者:芹川洋一
出版社:日経BP


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