見出し画像

フランク・ロイド・ライト展感想(豊田市美術館)

誰もが知るアメリカ建築の巨匠の回顧展が行われています。26年ぶりとのこと。愛知県のあとは、東京と青森に巡回します。

概要

2012年にフランク・ロイド・ライト財団から図面をはじめとする5万点を超える資料がニューヨーク近代美術館とコロンビア大学エイヴリー建築美術図書館に移管され、建築はもちろんのこと、芸術、デザイン、著述、造園、教育、技術革新、都市計画に至るライトの広範な視野と知性を明るみにする調査研究が続けられてきました。本展ではこうした近年の研究成果をふまえ、財団およびエイヴリー建築美術図書館の全面的な協力のもと、帝国ホテルを基軸に、多様な文化と交流し常に先駆的な活動を展開したライトの姿を明らかにします。

公式ホームページより。

この概要通り、ライトの足跡と思想を辿る世界旅行へ行くことになります。

ライトは駆け出しの頃から浮世絵の蒐集家として有名で、特に広重を熱心に集めていました。シカゴの浮世絵通たちの間では非常に有名であり、ライトの日本文化受容のほどが窺えます。

1893年のシカゴ万博の日本館「鳳凰殿」

序盤は浮世絵とライト初期作品の図面が並びますが、彼の建築の構造に日本的なところが大いに関わってきます。この辺りは多分に研究がなされており、建築好きなら常識かもしれませんが、ライトの建築思想と日本との結びつきが強いのは興味深いです。詳しくは↓

浮世絵があって隣に建築図面が並ぶと、それも一種の「版画作品」のように思えてくるのが、イリュージョンというかうっとり鑑賞できるものです。それくらいライトの描く図面やスケッチに、審美的な見応えがあるのです。

一部再現もある。

ライトと日本文化だけではないのが今回の特徴で、「ライトと初等教育改革」「ライトと女性の権利活動」「ライトと自然環境保全活動」「ライトと未来都市計画」など、おおよその社会活動と建築を通じて関係を結ぶ、多様な展開がピックアップされています。

偉大な才能は常に多面的なものですが、ライトも当然のように様々な角度から焦点を当てても、それに応える活動をしているのでさすがだと思いますし、ライト通の方でも新たな発見はあると思います。

ライトがデザインした家具もいくつか

ライトはもの凄い勉強家だなというのが正直な感想です。ただこれくらい勉強するのは当然だよね、というくらいさらりとしているのがよく、技芸の総合としての「建築」家の姿を見ることができました。

感想

①肝心の帝国ホテルの影が薄い

帝国ホテルのライト館から100年という記念として行われており、副題にもありますが、その割には影が薄いです。貴重な資料はありますが、one of themでした。

他の展示物がアメリカから来たレアなライトの図面ばかりで、度肝を抜かれる芸術性に満ちているためか、帝国ホテルの当時の写真や模型があってもそこまで目を引くものがありませんでした。

帝国ホテルに限らず、少し詰め込み過ぎた感じはありました。散漫というか、一キャプションと写真2、3枚で終わるくらいなら、重要作品のみに絞ってもよかったのではと思います。

②批判的な視点はない

MoMAで2017年にライト生誕150周年の企画展があり、そこではライトの「社会進歩」の概念だけではない暗部、人種差別の問題も取り上げられています。

https://www.fastcompany.com/90132505/the-frank-lloyd-wright-project-history-conveniently-forgot

↑上はアメリカのサイトですが、ライトの神格化のために等閑視されてきた面があることを指摘しています。当時の常識として仕方がないといえばそれまでですが、問題のあるところはもみ消されがちですし、MoMAは自国の大建築家相手にもその暗部を指摘するなど、勇敢だなと思いました。

今回の展覧会はライト万歳一色であり、最新の研究といってもそのあたりの批判はありません。

日本でも西洋美術に限らず絵画の展覧会では、糾弾とまではいかずとも、そのような暗部を時代の問題として伝えるようになってきましたが、建築の展覧会はいつまでその建築家の優れたところだけを無邪気に讃えるだけなのかなと、素朴に疑問に思いました。

③とても勉強になる&たくさん勉強したくなる

どんな人でもおそらく必ずどこか発見がある展覧会だと思います。そのような展覧会はそれほどないので、知的刺激に飢えている方にはピッタリです。

「アメリカの建築」を確立するために、ヨーロッパへ留学しなかったその選択も、当時の写真や美術雑誌といったメディアを駆使して貪欲に吸収していく姿勢は、参考になるのではないでしょうか。

自分らしさのために他者からの影響を恐れることがありますが、ライトくらい夥しい影響源を持てば、それが既に個性になると思います。私ももっと勉強しなければなと思うくらい、幅広い教養がライトの中には詰まっています。巨匠の巨匠たる所以だなと大変感心いたしました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?