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テート美術館展・光 感想(国立新美術館)

英国のテートのコレクションから「光」をテーマにしたキュレーションが行われています。近代絵画だけでなく現代アートも、しかも近代絵画の部屋にコラボレーションという形で置いてあります。本国の展示もそのようなものだったので、実に今の英国の展示という感じがしました。

概要

本展では、異なる時代、異なる地域で制作された約120点の作品を一堂に集め、各テーマの中で展示作品が相互に呼応するようなこれまでにない会場構成を行います。絵画、写真、彫刻、素描、キネティック・アート、インスタレーション、さらに映像等の多様な作品を通じ、様々なアーティストたちがどのように光の特性とその輝きに魅了されたのかを検証します。

公式ホームページより

英国近代絵画といえばターナー、というわけで彼の晩年の作品が並んでいます。ブレイクもありました。精神や宗教的な光と自然光が近代のテーマですが、光というより絵の中の光源設定と色彩のお話です。

テートのコレクションにはないですが、とはいえマニエリスム〜バロック期の絵画の方が断然光に対して敏感で計算されていると再確認できます。

ジョン・エヴァレット・ミレイの作品はあまり観ないタイプの絵で惹きつけられました。変わった風景画で、絵画作品としては一番興味が湧いたものです。ぼかしや靄の表現がとても精巧でうまいなと思います。前方と後方の空きや密集と開放感の均衡がやや狙いすぎていてぎこちないとはいえ、面白かったです。印象派は凡作が並んでいました。

個人的には撮影不可の、ターナーの美術教育に関する章が最も勉強になりました。彼は美術アカデミーの教師として明暗法などを教えていましたが、その資料と本人が描いた教育用デッサンが並んでいて、このように図解して教えていたのかと発見が大きかったです。絵を描いたり教えたりしてる方はここの展示だけでも見る価値があると思います。

エリアソン《星くずの素粒子》

あとは光が実際に使われる現代作品についてのコーナーです。日本にいてはなかなか見ることのできないものが多かったと思います。タレルの作品などよくそこで再現したなと。

色んなジャンルの作品が並んでおり、誰でも楽しめたり発見のあるものだと思いました。

感想

①キャプションやカタログの文章

キャプションを隅から隅まで読むのは批評家や物好きしかいないと思いますが、そのキャプションの言葉に、具体性がなく抽象的かつ思弁的な言葉が並んでいて、解説案内になっていないものを見ました。

個々の批評家が自著でそのように書くのはいいのですが、絵に寄り添うキャプションや章の概略を示す目的のところで、抽象度の高い文章はよくないと思います。また全体的に直訳調で硬い日本語でした。

公式カタログの巻頭の文章も、光をテーマに書いている内容はいい文章なのですが、そこで例に出されるテート蔵の作品がことごとく来日していないのです笑。できたら本展に出ている作品を絡めてなんとか語って頂きたいのですが。ちょっと性格の悪さを感じます。これに関しては自分が神経質なだけだと思いたいです。

②「光」とは、ルーブル展「愛」的なややこしさ

結論からして何が訴えたかったのか分からないです。ルーブル展の「愛」が、楽しかったにせよ「色んな愛の形があるんだ」という凡庸な感想を出させるのが精一杯であったのと同じで、「光」も色んな表現があるんだというくらいでしょうか。

ものが見えるということは光があって反射して目に届いていることであり、はっきりいって当たり前です。視覚芸術において光は生における空気と同じです。そして空気の存在を示すのが難しいのと同様に、それを認識させるのは非常に難しいので、まあそうですよね、英国から来た色んな作品が見れてよかったです、を越える感想はないのが本音になります。

抽象的なテーマへの不信感が高まりましたが、予算の関係でふわっとしたテーマにした方が、作品を組みやすいということなのかは分かりません。いずれにせよかつての展覧会のようにもう少しテーマを「限定」していただきたいというのはあります。

③現代英国式展示が堪能できる

例えばミレイや印象派の部屋に草間弥生が置いてあったり、版画や資料の隣に映像作品や現代作家の時間制インスタレーション入り口があったりなど、これはまさしくテート的なキュレーションです。現代と古典や異ジャンルのものを同空間に置くことで、より違いや個性を引き立てるタイプの現代英国の展示が楽しめます。

日本の展示思想とはかなり違うので、その体験だけでも「日本じゃないみたい」と思えます。鑑賞が観光体験に近いです。その点でも刺激的ですし、滅多にないタイプのものだとするとかなり貴重な機会です。

まとめ

英国に行かないと観られない作品が観られるだけでなく、日本では体験できないタイプの展示も楽しめます。これだけで特別な体験です。様々なジャンルの作品が並んでいるので、誰でも気にいる作品が見つかるはずです。

キャプションやカタログの文章をちゃんと読む人や、外国の展覧会に行ったことがある人にとっては、どこかムラのある内容だと思うでしょう。動線も詰まっていて危険なところが幾つかあり危険です。次の章に行くところの出口が狭かったり、その出口ちょうどに紹介文があって渋滞するなど、改善点がある気がします。

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