映画「貴公子」ネタバレ感想

4月12日公開の「貴公子」のポストが流れて来た。韓国ノワールはたくさんは見たことないが、「WITCH」の監督ということでこちらもいつか見ようと思ってた作品なので興味を持ち、ティザーをひとまず確認。
顔のいい男二人がものすごい近距離で会話してる。ここで見るの決定した。

ポスターのコピーには「この男、天使か悪魔か――」とあるが、どちらかというと悪魔寄りの顔してるなと感じた。
ほとんど情報を入れずに挑んだので反社ものなのか殺し屋ものなのかも知らなかったけど、たぶん殺し屋ものなんだろう。
冒頭の悪漢たちのんびりした会話の後ろでじわじわ始まる殺戮。そこからのスピーディな「貴公子」のキャラクター描写は見事だった。
あーそういう、そいういう感じね!がとても良くわかる。勉強になります。
ちなみに貴公子は作中名前を呼ばれることはなかった。役名も貴公子。そもそもの邦題「悲しい熱帯」なんだけど改題してよかった。全然わかりやすい。わかりやすさ最高。

一方もうひとりの主役で火中のクリ太郎みたいな存在のマルコの描写はすごくゆっくりしっかり重ねられる。
自分は「コピノ」という言葉をここで初めて知った。韓国とフィリピンの混血を指し、あまり良い使われ方はしないようだ。同じ意味合いでジャピーノもある。韓国や日本の男性がフィリピンでアバンチュールした結果産まれ、認知されずに貧しく育った子どもたちをそう呼ぶ。
そのマルコは違法な地下ボクシングで戦いそのファイトマネーを賭博にブッパしては金を失っている。それもこれも病気の母の手術費用を賄うためである。
病気の母、行方の知れない父、コピノの子供達の施設の閉鎖の危機、本人の商才もツキもなさそうな漠然と今後の人生どうしようも無い感をじっとりとしたフィリピンの湿度とともにゆっくり描写される。おそらくボクサーという役のために作り上げたのだろう肉体は素晴らしい。雨の中帰宅したときのシャツの張り付きにFoo~ってなった。この監督さてはスケベだな。そしてそのスケベベクトルが自分に合ってる寿ぎすぎる。
マルコ役のカン・テジュは1980倍のオーディションで選ばれたそうだけど、ほんとに目の演技が素晴らしかった。マルコは無口な性格ゆえに虚無、怒り、決意、困惑、高揚、恐怖など様々な感情を目や眉で表現されていた。
マルコ登場シーンの演出が色気たっぷりでとてもよかったし、この映画は貴公子推してマーケティングされてるけどマルコも推すべきだと思う。とくに日本はそうだと思う。今からでもマルコの特典を作ってほしい。この映画が日本で受けるにはマルコの存在をもっと知られるべきだと思う。貴公子のキム・ソンホが弱いのではなく、見たら君もそう思うだろう。だってマルコがかわいそうかわいいから。

マルコは逃げ惑うトロフィーなのである。素晴らしい肉体、野性的な容貌、美しい瞳を持った男がただ振り回されてなにもわからず顔をクシャクシャにして逃げ惑うシーンが「貴公子」の概ねを占めている。
探していた父が実は韓国の財閥の会長だった。しかしもうすぐお迎えが来そうな頃合いでその跡目争いのピースとして彼は韓国から呼び寄せられた。
跡目争いはノワールには欠かせない要素。金のためにメンツのために人は殺し合い勝ち残ったものもだいたいそんな幸福は訪れない。それがノワールの作法だ。しかしマルコには幸せになって欲しいとつい願ってしまった。
追う勢力は3つある。会長の息子、会長の愛人の娘、そして貴公子。
貴公子はずっとなぜ追いかけてるかはわからない。息子でも娘側でも無い。観客もなにが目的かわからない身なりと顔は良いが笑顔が不気味な追跡者に恐怖することになった。走り方はT1000のオマージュだろうか。
わからないという気持ちはストレスになるがイライラはしなかった。なぜなら貴公子が面白いからだ。キャラ造形の良さはストレス緩和になる。勉強になる。
冷酷な会長の息子もよかった。ボンボンであるが愚かではなく、性格はすこぶる悪い。彼の部下が軒並み顔がいいのもよかった。顔で選んでそうなのたいへん伝わってくる。森でのスーツベストスタイルが大変セクシーだった。あれにショットガンはすけべだった。バスローブはサービスでしかない。女の裸より男の裸が多いのがノワールの努め。
愛人の娘もよかった。高慢ですこぶる性格が悪いが愚かさがあって。そして制服にリボルバーは夢がある。教わったとはいえ実践が初めてであろう少女のサイティングは両目ど真ん中なのはリアリティとしてよかった。アイドル推してそうなのもすごく「わかり」だった。サバ番とかで中華バーと札束の殴り合いしてそうなリアル。
娘側の登場人物に実働部隊の女性弁護士がいるのだがあまり感想を持たずに終わってしまった。彼女はこの物語の歯車の一つでしかなかった。だからといってもっと味付け濃くしたらわかりにくくなっただろうからこれで良かったのかもしれない。出番は結構多いのに女子高生リボルバーの味付けが濃すぎた。

マルコが逃げるシーンがほとんどと言ったがあとはカーチェイスが多かった。車には詳しくないがベンツが丈夫なのは分かった。ドラテク的なよさみはあまり伝わらずそこはちょっと退屈だったかな。その変は。カーチェイスするなら銃撃とセットがいいと思うの。しかし追う側はべつに反社じゃないから(反社みたいなことしてるけど)往来ではやらないリアル。リアル…なんだろうか。さては監督頭がちょっと固いな?親近感。
黒い高級車だけ並んでるのも見た目的に同じ車がたくさん…て詳しくない人間は見分けがつかないのだ。マッドマックスみたいにとは言わないから車にもキャラ付け頼む。

なんやかやで長男に捕まるマルコだったが長男と並ぶとマルコ小ちゃいかわいい…て思ったら別に小さいわけではなく長男がでかいのだった。(180)
欲しがられてたのは移植のためのマルコの心臓だったので首に麻酔打たれて手術台に載せられ服を刻まれズボンも脱がされパンツも寄りで見せられてしまった。そこまで必要だったのかは疑問だが男のパンツ、それもノワールの定め。

さらになんやかやわちゃっとして貴公子大立ち回りのターンになったけど武器はほとんど拾ったものをぶつける、刺す、投げるなのはジョン・ウィックで見たやつで手際の良さもジョン・ウィックだった。だけど撃たれるとものすごく痛がるのでそれはジョン・ウィックで見たこと無いやつだった。やはりこの映画キャラクターが良い。長男最後まで抗っててそこはかっこよかったよ。娘も最後まで性格悪くてよかった。

ノワールなのに貴公子もマルコも生きててよかった。本当によかった。
カーチェイスが退屈とは言ったが、あれほど巻き込まれ、ただ運ばれるばかりだったマルコが最後はおぼつかない感じで自ら運転して帰路につくシーンはこのためにあのカーチェイスがあったのだろうと思えた。
フィリピンに帰ってからの貴公子とマルコのシーンもさっぱりしてて、マルコが笑ってくれて泣いた。かわいい。なんてかわいいんだ。

すっかりマルコが刺さってしまったわけだが、その役者のカン・テジュのインスタ見たけどぜんっっぜん違う顔でびっくりした。同じ人なんだけど違うひとで映画ってすごいなと思いました。マルコは「貴公子」の中にしかいないのでまた会いに行きたい。




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