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少し変わった同窓会④

「この会が終わった後のことを想像していました。多分だけど、こういう仕事出来る人いない?と言って、多くの人が繋がっている気がする。そんな未来が見える」

その後もこの「少し変わった同窓会」では、多くの社員が思い思いの発表を行っていた。

在籍年数が長くなればなるほど、入社年数が早ければ早いほど、発表順は後ろになっていく。

そんな中、この会の発起人の発表が始まった。彼は未来についての話から始めた。この言葉を聞いた僕は、実に前職らしい言葉だと思ったのだが、同時にそれは大きな違和感でもあったのだ。

僕は話を聞いた。どんな人間が、どんな未来を歩んできたのか。発表には、それが分かるだけの情報が詰まっている。話の長い人もいれば、要点をえない人もいる。逆にすごくコンパクトに話をまとめ、目的と目標をスマートに話す人もいる。

共通しているのは「笑わせよう」という思いがあるということだ。これは僕の前職が、営業会社だったから生まれた、いわゆる現象みたいなものだと思う。

真面目な話をする前には、ひと笑い起こしたほうがいい。相手の心をグッと掴むことで、自分の話が通しやすくなるからだ。それは当然諸刃の剣で、刺さらなかった時点で、その後の空気は絶望に転じる。

僕が発表を真面目に聞いたのは、前職で学んだことを確認するためだった。もちろん笑いを起こすというのも、前職での学びだ。小手先のテクニックから本当に必要なものまで、そこには多くのものが詰まっている。

僕は全員の発表の中で、必要なものと不必要なものを選別していった。そうやって話を聞くことが楽しかったし、そうしないとやることもなかった。

発表を聞いていて、話しが長く、要領を得ていない人は、会社で学んだことを活かせていない人だと思った。前の会社の中心にあった考えはこの2つだと僕は思っている。伝達を早めること、上手に伝えること、これだけが会社の利益に直結することだと思っていた。少なからず僕は、そう教わったのだ。

もう1つは、前向きで貪欲な人ほど印象に残るという点だ。こういう人に共通していることは、自分の説明をテンポよく行い、残った時間は誰かに賞賛を送っていた。この誰かに賛えたり、誰かの力を素直に認めたりする力も、この会社に流れていた大きな特徴のように思う。

発表を聞いていると、そんなことが蘇ってきた。それが何を意味するかというと、僕がこの会社から学んだことが、かなり大きなことだったということを指している。僕は今まで、そんな風に思った事はなかった。意識したことさえなかったのだ。

これに気づいてしまった時、少なからずの焦りと自己満足を覚えた。

僕は僕の意志でここまでやってきたと思っていたが、今僕が自然にふるまっている多くの部分は、前職からの学びによるものだということを認めなければいけない。それは確実に、今までの僕のアイデンティティを揺るがすくらいの大きな衝撃なのだ。そして、それが現在僕を生かしている以上、僕にとっては役に立つ学びであったわけで、自分が如何に前職の中から、有益な情報をピックアップできたということも同時に示しているのだ。

発表が終わる頃には、外は茜色になっていた。

これから第2部の懇親会が始まる。

僕は自分のことを発表し、ここに集まったすべての人の発表を聞いた。当然のことだが、今までとは違った視点で、多くの人と会話することになるだろう。

ここまでで見つけたことを踏まえ、さらなる発見があるのだろうか?

僕はすでに、前職という共通の話題を必要としていない。ここにいる自分は、前職のネガティブな思い出を引き継いだ自分ではなく、今ここにいる新しい自分なのだ。

そう考えると少しだけ恥ずかしいと思った。同窓会の会場は1部の形から2部の形へ変化を遂げていく。心境の変化と同じように、自分を見失いながら。

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