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デッサン(ショートストーリー)

左側にかすかに写る、真っ白な壁にぽつんと浮き出る電気のスイッチ。ぼんやりと鈍く、わずかに霞むその電気のスイッチを切り抜ければ、青いステテコと灰色のノースリーブが、残骸のようにセミダブルのベッドの上に転がっている。

ベッドの上を観察しようとすると、枕の先からニョキッと、青黒い物体がこちらを窺っている。その表情はどことなく怯えているが、目だけは何かを強烈に訴えようとしていて、これから何かが生まれるかもしれないという高揚感のようなものを覚えた。そんな青黒い物体を監視するかのように、ベッドの先端から真っ青なパンツが、青黒い物体を監視するように見下ろしている。飛びかかろうものならば、上からいつでも制圧できると言わんばかりに、青黒い物体に対して余裕と強さを見せつけている。

僕の目線の中央。ベッドの横手前には、ベッドにへりくだった小さな机がある。ベッドに対してヘコヘコしており、ベッドが乗せておけなかったものたちを、いやいやながら請け負っている。白いゴミ箱はそんな机に飲み込まれ、白い箱は、机の上でやる気をなくしている黒いドライヤーを今まさに飲み込もうとしていた。恐らくだが、フロアの電気が点灯したとき、ドライヤーと白い箱の構図に大きな変化があるのだと思う。なぜかは分からないが、そう思う。基本的に机とベッドはグルなのだが、ショッキングピンクのデジタル時計だけは別だ。私はベッドの防波堤だというような顔で、ベッドの事を睨んでいる。今のところ、強大な力を持っているはずのベッドだが、時計に対しては、見逃しているのか見過ごしているのか、とにかく何かをしようとは思っていないようだ。

夜を静かに過ごせるのは、もしかしたらこの時計がギリギリのところでパワーバランスを取ってくれているのかもしれない。

少しずつ明るくなっていく。僕の目線の真っ先にはダンボールと長くて黒い突起のようなものがある。凄く刺激的で、興奮する絵面がそこには広がっている。

名付けるならばそう
「テトリスと勃起の現代アート」

ダンボールは積み重なりテトリスを思わせる形をし、黒い突起はテトリスを見守るかのようにそびえ起っている。それはそれは見事な遠近感覚で、色合いも絶妙なものだった。

深い絶望か大きな喜びか、とにかく、感情が大きく昂った者が、勢いのままに描いた絵画のように見える。

それをギターとアーティストである僕がうっとりと眺めている。

視線右端には黄色なのか緑なのか分からないがボールのようなものがある。こちら側にくると光は完全に真っ白で、入り具合も相まって惑星のようだ。

最初に見た真っ白な壁にぽつんと浮き出る電話のスイッチとは対処的で、暗闇の中でも白さを保つのではなく、白い光が写す全てのものを白く染め上げている。

僕にはそんな景色が見える。目線を変えず1分間、ぼんやりと1点を眺めると、こんなにも素敵な世界が見える。

この目に映る小さな景色は、もしかしたら、世界の片隅から世界の本質までを物語っているのかもしれない。

そう思うと僕は、この1分間がとても尊いものに思えて、少しだけ笑った。温かくなって、少し笑った。

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