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少し変わった同窓会②

物事は、実際に始まれば楽しくなる。一番しんどいのは、その場に向かうとき。色々な可能性が頭の中に浮かんでくるが、必ずしもそれがすべて、楽しいものであるとは限らない。

ロビーに立ち尽くしている僕は、頭の中でそんなことを考えていた。いや、考えていたというよりも思い込もうとしていたといった方がいい。それはこれから行われる、この少し変わった同窓会も、僕にとっての楽しい思い出になっていくものだと、自分自身で信じたかったからなのだと思う。

前職の人間が集まり、思い出や現在を語る会。僕はこれを「少し変わった同窓会」という風に呼んでいた。最初はただの同窓会だったのだと思う。ただ、月日を追う中で変わっていった。そういう事なのだ。

ロビーに立ち尽くしていた僕に、1人の女性が声をかけてきた。

「〇〇社のOB・OG会、会場はこちらとなっています。エレベータで上へどうぞ!」

ハツラツと僕に向かってそう言ったのは、当時の僕の後輩にあたる人物。どうやらこの会は、委員会が発足されていて、そのメンバーになっているらしい。

エレベーターがやってきて、僕を目的の場所へ運ぶ。

「あれ!○○さん、久しぶりですね!」

「久しぶりだね~」

「あれ?今って確か九州の方にいるって」

「そうです。この機会に家族できました」

室内ではこんな会話が行われていた。どうやら彼らも、この会に参加する人間らしい。僕はこの2人を知らなかった。恐らく、僕よりも大分先輩なのだと思う。

わざわざ九州から、この会のためだけに東京に集まってくるあたり、家族サービスの旅行を兼ねているのだろう。一石二鳥でラッキーという感覚なのだと思う。

この2人の会話から、彼らが本気で懐かしさをかみしめていることは感じ取れた。この2人はこの会を、心から楽しみにしているし、久しぶりの再会を本気で喜んでいるようにも見える。

エレベーターを降りると、彼らと同じ方向へ進む。同じ会に参加するのだから当然だろう。2人の男性もそれに気づいたようで、初めてみる後輩の僕に対して、「こんにちは~」と笑顔で言った。

僕は元気に挨拶を返した。彼らの気分を害したいとは思わなかったからだ。

受付には懐かしい顔がいくつかった。僕は会費の1万円を支払い、彼らの指示に従った。こんな会に1万円を支払っている自分の姿を、頭の中で俯瞰してみたが、それはとても滑稽な絵面のように思えた。僕が抱えているこの狭間の感覚は、答えさえ出てしまえば、今後の僕の人生に大きく役立つのだと思う。でもそれは、あくまで答えが出ればの話でしかなくて、この会に身を置いたところで、きちんとした答えが出るとは限らない。それが僕を不安にさせるし、苛立たせる原因でもあった。僕は今、普段の自分を見失いそうになっているのだ。

会場はとても広かった。黒と灰色をベースにした落ち着いた空間で、一面が大きな窓ガラスで仕切られている。東京湾と高速道路、そして何より、都会を象徴する立派なビルが共存した景色は、とても騒がしくて速かった。

フロアには椅子が並べられていた。ざっと見た感じ50くらいあった。事前情報では70人近くの人間が集まると聞いていたので、少しすくなく感じた。正面にはお立ち台があった。一度身体に馴染んだ文化というのは面白いもので、物事を簡単に予想させてくれる。このお立ち台は、ここに集まる人間のために用意されたものなのだろう。恐らく僕たちは、このお立ち台の前で何かをさせられる。これは確実なことなのだ。

会が始まった。この会の発起人が簡単な挨拶を行った。

「この会を12月にやると決めたのは9月のことでした。そこから毎日のように、委員会のメンバーとミーティングを重ねました。ここに集まった皆様の共通点は1つ。〇〇社のOB・OGであるという点です。そしてもう1つ、今日この会に来たということです。この共通点を存分に発揮して、沢山の方と交流してほしいと思っています」

僕は入り口側の端っこの席から、発起人のあいさつを聞いていた。ボーっとしていたこともあって、会話の内容が正確じゃないかもしれないが、ようやくするとこんなことを言っていたと思う。

会社だから仕方がないのだが、この話を聞いていると、嫌でも思い出してしまう。この会社が、異常なまでに目的主義すぎる会社だったことを。それは決して悪いことではないのだが、同時にそれは、そこが限界値であることを示してもいる。想像できること・認識できることを達成することは、実はそんなに難しいものではない。時間をかければいつかは到達できるし、イメージができているのだから、当然のことながら、得られる結果もイメージできるのだ。

ふと、自分が会社を辞めようと思ったときのことを思い出した。僕はそもそも、イメージできない出来事に遭遇したくて、この会社を辞めたのだった。自分の影響が及ぶ範疇ではどうしようもないこと、それが見たくて会社を飛び出した。

それに気づいた時、僕の中には悔しさが芽生えていた。

僕はいつの間にか、自分の本筋を見失っていた。そして今、自分がかったるいと思っていた少し変わった同窓会の中で、その本筋を思い出すことになった。僕はこの会で気づかされてしまったのだ。どうしようもないくらいに胃がキリキリするような出来事に巡り合いたかった、当時のギラギラした自分を、現在の僕が見失いつつあるということに。


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