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【聞こえるかい、魂の歌が】9.体育倉庫にて1.8 同化の先に・・

暗い箱の中でじっと息を潜めていると、ここで起こっていることがトラブルなのか、それとも自分の意志で起こしたことなのかが分からなくなってきた。

正確な時間は把握できないけれど、窓から差し込む光が生み出す影の変化が僕に時間が進行していることを教えてくれる。

僕は世界も自分も乖離を起こし、全く別の、ひとりぼっちの誰かを応援するかのように体育倉庫で三角座りをしている。

先ほどまであったワクワク感は消えた。今あるものを丁寧に確認してみたところ、焦りとこだわりのようなものがあった。もしかしたら、誰も僕を見つけてはくれないかもしれない。言い表せない力が働き、偶然に偶然が重なって、僕はもう外には出られないのかもしれない。あるいはもう、僕という存在は完全に分割したあっちの世界にはないものとして月日が流れているのかもしれない。それならばいっそ、僕は完全に姿を消す努力をして、見たことない新しい世界に期待を置いてもいいものなのかもしれない。だとすれば、僕はもっと自分の存在をきれいに消す訓練・こだわりを発揮しなければいけないのだろう。

頭の中に様々な思いが浮かんでくると、僕は僕が1つの存在であることを確信することが出来て安心した。先ほどまで聞こえていたグラウンドに響く大きな声は、そういえば?と思わなければ聞こえないものになっていた。

頭の中を走り回ったあと、今度は身体に意識を向けてみた。指・手・腕・肩の順番で、丁寧かつゆっくりと動かしてみる。僕のパーツは、まるで何日も動かしていなかったかのような違和感の上で、ギクシャクした動きをしていた。僕のパーツは、僕のパーツではないようなぎこちない別の何かに変わっているようだった。

次に足を伸ばしてみた。ひざの辺りが「パキ」という乾いた音を鳴らした。それは僕が、体育倉庫と一体になってから聞こえた、初めて音のようだった。僕はだんだんと自分の身体の感覚を取り戻した。その動きは、少しずつ大きく・ダイナミックなものになっていった。

僕は身体を天井に伸ばした。まるで体内に空気が流れ込み、風船のように膨らんでいく感覚だった。一度身体を伸ばすと、先ほどまでフワフワとしていた頭の中でさえ、一気に現実味を帯びていくことが分かった。「そろそろ、ここから出る方法を真剣に考えないといけないのではないか?」と言葉にしてみた。

待っていれば何かが起こるなんてことはないのだろうか? 状況に甘んじているだけでは何も変わらないのだろうか? 信じたくはないという思いと、とはいえ現実的ではないと考えが、僕に少しだけ寂しさを与えた。

流れる空気と同化を試み、今この瞬間の状態を確認した僕にやってきたのは、この先のこと・どうすればいいのか?という極めて退屈な問題のようなものだった。

人は問題の解きながら、自分たらしめる何かを追い続けなければいけない。これは、生きるということの一端なのかもしれない。

こう結論づけた瞬間、僕は急激な面倒くささに襲われた。僕が知りたいのはそういう事ではない、ではそもそも、その問題の発端はどこにあり、なぜ自分という存在を追いかけないといけないのだろう?

話しがややこしくなってきた。僕はまだ余裕があるみたいだ。

意を決した僕は、体育倉庫を歩いてみる。なんとなくだがこの部屋の中には、今までの僕が見えていなかった何かを見つける手がかりのようなものだがあると思うのだ。

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