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【雑記】「多様性」について

例にもれず、雑記である。
考え抜いた思索というよりは、考えていることを更に考え進めるために書いているような、そんな進行形の文章である。
ご承知おきを。

「多様性」という言葉を聞く機会が増えたように思われる。
多様性が尊重されるような社会をつくることがこれまでよりも目指されるらしい、おそらくいいこと。
皆口々に「多様性が大事だよね」と呟く、それはそう。
でもたまに違和感を持ってしまう。「多様性が大事だよね」って言っているときの「多様性」は、都合のいい言葉に過ぎないのではないかと。

新宿の西口側と東口側をつなぐ大ガード下を通るとき、私はいつもホームレスの方の存在が気にかかる。そこにいたホームレスの方とお話したのは、1年前の夏のことだった。たしか暑い夜で、ペットボトルの水をお渡ししながら、少しばかりお話を聞いたのだった。
そのお話によると、その方の住んでいた側とは反対側もかつてはホームレスの方が住んでいたが、徐々に規制が増えて住めなくなったらしい。それから、火曜日と水曜日には都の掃除があり、荷物を置いていくとすべて持っていかれてしまうらしい。伺ったお話は、初めて耳にするようなお話ばかりだった。

その1年前の時期は、歌舞伎町という街によく足を運んでいた時期でもあった。特段何をするわけでもなかったのだけど、歌舞伎町がどういう街なのか知りたいという気持ちがあり、周囲をぐるぐるしていた。
いわゆる「トー横」にも何度も訪れた。あるときはドッジボールがなされていて、あるときは男の人が女の人に殴りかかっていた。幼い子もいたし、ご車椅子に乗っている人もいたし、担架に運ばれていく人もいた。
一日だけ、歌舞伎町のキャバクラのボーイアルバイトをしたこともある。色々な事情で続けられなかったが、周囲のボーイの方はいい人ばかりだった。仕事は丁寧に教えてくれたし、優しかったのを今でもよく覚えている。

「多様性」という言葉が口にされるとき、そこにあのホームレスの方は含まれているのだろうか。「トー横」にいた人たちは、キャバクラをはじめとする夜のお店の人たちは、含まれているのだろうか。

「多様性」という言葉が口にされるとき、性の多様性(LGBTQ)や人種・民族の多様性が特に重んじられる。より広げたときには、思想や価値観の多様性が、あるいは年齢や地域の多様性が重んじられることもあるかもしれない。でも、その多様性に、ホストとかキャバクラとか、ホームレスとか、非行少年少女とか、入っている気が、あんまりしない。社会から排除されてしまうような人々は、「多様性」が唱えられても排除されたままなんじゃないか。

それ自体が直ちに糾弾されるべきことなわけではない。もちろん、犯罪に手をつけた人に罪を問わなくていいなどと言いたいわけでもない。
ただ、「多様性」という言葉は都合がいい言葉だなと思う。
その多様さは自然で無制限な多様さではなくて、最初から囲い込みたい人が決まっているような多様さだ。
最初から誰かを含んでいないような、排除を前提にしているような多様さだ。

「多様性」が尊重される社会では、たぶん人々の間の衝突や葛藤は生まれないのだろう。「多様性」というラベルは、社会に入れてもいいと認められた人たちを自らのうちに入れ込んで、人々の間の差異を見えなくしてしまうから。
「多様性」と「差異性」とは、ちょっと違う。
私とあなたとは、違う人間である。
「だからそれぞれだよね」と片付けてしまうのが多様性で、「なんでこんなに違うんだ」と突き付けられるのが差異性だ。
そして仮説だけど、多様性は、「それぞれだよね」と言えないような人を自らの内に含みこめない、のではないか。言えない理由は様々。利害関係とか(犯罪者のもつ自身への危険性など)、生理的嫌悪感とか(夜の街に対する嫌悪感など)。

要するに、「多様性」の都合のよさは2つ。
第一に、多様性の内に入れたくないような人々を外へと都合よく排除してしまえるところ。言い換えれば、限られた人だけの多様性であるところ。
第二に、多様性の内に入れられた人々の間の差異について、それ以上深ぼらないところ。言い換えれば、多様性という名で虚構的に統一性が担保されているところ。
現実の社会にいる人々は、実に差異に満ちている。その事実としての差異を、「多様性」は2つの意味でそぎ落としてしまう。そこに差異がないかのように削り整えてしまう。

念のため繰り返すが、「多様性」を尊重しない方がいい、とか、そういう話ではもちろんない。
ただ、人々の間の差異という事実を、「多様性」を尊重するだけで解決できるかのように信じこむことも誤りだろう。それは、おそらくきわめて狭い視野でだけ成り立つような「多様性」だからだ。


「多様性」を乗り越えるとき、そこには何が待ち受けるだろうか。
「多様性」に頼ることなく、「差異性」についてどのように考えられるだろうか。


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