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十月十日(夢日記)

こんな夢を見た。 一つ年下の弟が、妹と、末の弟を惨殺していた。私だけがそれを見ていた。 私には年子の弟は確かにいるけれども、その下には妹も弟もいない。はずである。だからどこかで、ああ、これは夢なのか、と判っていたような気もする。 弟は私のほうをちらと見て、微笑んだ。刃物を手にした彼の表情は穏やかで、家事でもしているような慣れた手つきで、ベッドの上の、おそらくまだ成人前であろう二人の身体を平然と切り裂いていた。シーツが血にまみれていた。 「大丈夫だよ」と彼は言った。「弟

    • タイムカードリーダー(日記)

      今日の仕事中にちょっと変わったことがあったので書いておく。 うちの会社には社内システムをすべて一人で作っている変わり者のエンジニアがいて、いくつもある事業所に設置されているタイムカードリーダーも彼が手作りしている。むき出しのRaspberryPiにモニターと既製品のバーコードリーダーを取り付けたあまりにもソリッドな代物だ。 仮にRさんとしておくけど、彼は大抵リモートワークか各事業所を飛び回っているので本部に出社することは少ない。今日珍しくやってきたのは、新しくできる事業所

      • なぜかずっと覚えていた記憶があったことをいつのまにか忘れてしまった

        時間がゆっくり流れていた瞬間はずっと覚えている。いくつもの何でもない日の公園の陽射しが目の奥のスクリーンに何重にも映し出される。ゆらゆらと生き急がない。わたしふあんだわ。いのちをさらけだしていて。それでも加速を求めてしまうのはなぜだろう。スピードじゃなくて加速するときのG。前へひっぱる力は酩酊へと落ちていくあの加速度とつり合う。これは遠くへ飛ばすあそび。誰も気づいていないようできっとみんな気づいている。どこからか飛んできたいのちをまたどこか遠くへ飛ばす。夢中になっている私をお

        • 波と岩(写真)

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        十月十日(夢日記)

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        • 評論
          3本

        記事

          新宿の木は禍々しい(日記)

          新宿駅西口の大ガード下を歩いていると段ボールが至る所に散乱している。それを人々は無意識に踏んだり蹴飛ばしたりしながら歩く。 『アカルイミライ』のラストカットがフラッシュバックする。なにがおかしいのかゲラゲラ笑いながら道端の段ボール箱を蹴飛ばし、そしてどこまでも歩いていく若者たち。 大ガード下の歩道に散らばっていた段ボールはホームレスの家(というのも妙な表現だが)だったものだ。みんなわざと蹴飛ばしているわけではない。散らばっているので、気にせず踏んで歩いているだけだ。二、三

          新宿の木は禍々しい(日記)

          黒沢清『Chime』はなにを説明しなかったのか? 【解説・批評】

          観てきました。すごい映画でした。こんなふうに映像を「設計」できるものかと。 なにも説明せずただ見せることによって、他者の秘めたものはただ狂気と映る。そしてそこに本物の霊が紛れ込んでいる……。という映画なのだけど、その設計があまりにも巧みなので、初見では狂気と怪奇の見分けが容易にはつかない。 しかし想像を働かせて、すべての行動に意図があると仮定して観てみると、そこにストーリーや人間関係が浮かび上がってくる、という仕組みになっているのだ。すると物語の見え方がガラッと変わる。

          黒沢清『Chime』はなにを説明しなかったのか? 【解説・批評】

          八月は(日記)

          最近とっても良い調子。とっても、は言い過ぎかもしれないけど。でも良いことは大袈裟に言ってもいいだろう。 会社員になってもう五年目だ。あっという間だ。それなりに居心地が良いから居続けているんだと思う。最初の頃は、絶対に会社の愚痴を家に持って帰らないと決めていたのに、家に帰っても仕事が意識の隅に居座っていることに気づく日も増えた。なあなあになってきてしまっている。イライラした顔で帰ってきたり。それで最近も彼女と喧嘩した。 入社する前の数ヶ月の無職の期間はいま思い出すとすごく幸

          八月は(日記)

          歯車のひとつである私(短歌)

          手のひらにふわふわと自分があって風が吹いたら飛んでいくかも 「この夏の救世主ポッキンアイス」それだけ言って半分こする 電車には人からはみ出した人々の生理の蠢き体の動き 指と足リズムをとっている君の頭の中にだけある音楽が 歯車のひとつである私がどのように狂えばもっと狂うだろうか 粛々と遊んだり粛々と怒ったりしたいトイレにも行きたい いま通り過ぎていったくだらないことを忘れたくなかったのに

          歯車のひとつである私(短歌)

          またアディクション

          お昼ご飯をさっさと済ませて、一時間の休憩の間に散歩へ行く。小川の流れる遊歩道沿いには今だったら紫陽花がまだ見頃で、歩いていると次々に色の違う花が視界に現れる。並木の蔭に咲いた紫陽花の上を木漏れ日がくるくる踊っているのを見ているだけでおもしろい。四阿に座っていると風が気持ちいい。 そういうことで自分を満たすことができるときもあれば、できないときもある。今日は自然を感じる体だった気がする。 ここのところ仕事が忙しくなって、疲れていたのだと思う。そういう時ちょっと息抜きに散歩で

          またアディクション

          GWの(写真)

          GW明け早々、風邪をひきました。悪寒がする。体がいずい。いずいってのは東北の方言で「落ち着かない・フィットしない・しっくりこない」という意味らしい。 体がいずい! 一処に収まっているべきものがはみ出していたり、隙間が空いていたり、このズレが、いずい! 連休中は祖母の住んでいる高知へ行った。写真は統一感のかけらもないが、これがGWのフラッシュバックなんだってんだから、しょうがない。

          GWの(写真)

          それぞれ特異な身体(日記)

          昨日このような日記を書いた。ここに書かれたことについて、もう少し考えてみようと思う。(ちなみにいまは電車の中。2時間半かけて、千葉県の某所へ向かっている。) 昨日の私が書いた日記を読むと、自分が満員電車の中で体験したことと、『宝石の国』についての思考が同時に展開しているように読める。つまり、宝石たちの「からだ」のことについて、それを人間の「からだ」の比喩として考えている。あるいはまた反対に、人間の「からだ」をフォスフォフィライトたち宝石の「からだ」の比喩として考えている。

          それぞれ特異な身体(日記)

          それぞれ硬度の違うからだ(日記)

          新宿駅、出発を待つ電車の中、私の前に立っている彼女が青い顔をしていた。 それを見た私はなぜかふと『宝石の国』のことを考えている。そこに住む彼らは宝石のからだを持っていて、それぞれ硬度が違う。同じくらいの硬度を持った者同士なら触れ合うことができるが、あまりにも硬度に差がある者同士——例えば硬度3半のフォスフォフィライトと硬度10のダイヤモンド——が触れ合うと、硬度の低い方はからだが割れてしまう。 私が住んでいる世界にも似たところがあると思う。彼女のからだは私ほど頑丈ではない

          それぞれ硬度の違うからだ(日記)

          4月14日 森へ散歩(写真)

          4月14日 森へ散歩(写真)

          春と子ら(日記と短歌)

          動けなくなってしまった。ご飯を作らなければならないのにもう夜の10時半だ。最悪ご飯は作らなくても溜まった食器を洗わなければならない。 杉田俊介氏のうつ病の実感を綴った投稿を思い出してしまった。そして同時に『ゴドーを待ちながら』のことを思った。ある種の霊性みたいなものが失われてしまったように感じる。持っているときは持っていることを知らず、失って初めて知るなにか。それが再び現れると信じて待っている。いや、私はそれが現れると本当に信じている。それはあると知らなければあり、ないと知

          春と子ら(日記と短歌)

          小雨の日は優柔不断が爆発してしまう(日記と短歌)

          猫がみゃーみゃー啼いております。仕事から帰ってきた直後はかまってくれと騒がしい。一生懸命啼きながらおれの周りをうろうろしては肘やら背中に小さな頭突きをしてくる。かと思えばおれの正面にちょこんと座り、こちらの顔を見つめて小さくみゃあと啼いたり、膝に無理やりよじ登ろうとしたりしてくる。 おれは最近買ったばかりのセラミックファンヒーターの前で足先を暖めている。猫があんまりうるさいので抱きかかえてごしごしと撫でてやった。去り際におれの膝の上でバランスを取ろうとして猫が踏ん張ったとき

          小雨の日は優柔不断が爆発してしまう(日記と短歌)

          空気吸いにいこう(写真と短歌)

          空気吸いに行こう、とドアを開けて息つぎをするきみ サンダルのわたし おつとめ品ジャムをいっぱい買い込んでしばらく生きる約束をする 春嵐 わたしを知らない人たちはわたしに興味ないという安心 松の木の下を通ればぬるい夕べ 若いカラスのださい鳴き声 きみはもう他の誰かのことを好きにはなれないね。そうだといいね。 <

          空気吸いにいこう(写真と短歌)