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深煎り入学式【毎週SS】

「えー、暖かな日差しと共に、季節の彩りが一層映えるこの頃……
うーん、まだ固苦しいかなぁ」

「お父さん、まだやってる」
「もう何時間経った?」
「時候の挨拶でそこまで悩むか、普通」

隣の部屋で試行錯誤する父の声だけがずっと聞こえてくるリビングで、
私たち兄弟は呆れ気味に3時のおやつの時間を過ごしていた。

私たちは3人兄弟でちょうど3つずつ歳が離れている。
この春、一番上のお兄ちゃんが大学生になる。
その下のお兄ちゃんが高校生、
そして私が中学生だ。

それと同時に、父は小学校の校長先生になる。

「やっぱ大変なんかね、校長先生って」
「今時の子たちって何考えてるか分かんねぇしな」
「何かあったら親御さんへの対応しなきゃだもんね」

「それだけじゃないわよ」
台所でお茶を淹れている母がそっとつぶやいた。

「あんたたちの入学式一番楽しみにしてたのお父さんだもん」

……。

「きっと、あんたたちの分まで言ってるんだと思うわよ」

ほのかに深煎りのお茶の香りがした。
(410文字)


今年も各地で入学、入社シーズンになりましたね。
おめでとうございます。
これからの門出に幸多からんことを。

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