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閏年の帰還(#シロクマ文芸部)

 閏年の2月29日は、仲間たちが約束の地で集結することになっている。我々は太古の昔から、ここ地球に送り込まれ、地球上の生物の頂点に君臨する人間を観察する為に、人間社会に溶け込んでいる。
 私は日本のK大学に通うまなぶの体を共有することで、日本の若者を研究対象とすることにした。人間の体を共有するといっても、研究対象となる学の活動を邪魔するものではなく、主に学が睡眠中にある状態で、彼の潜在意識の中で実験や研究を進めている。学にとっては、朝目覚めた時に「変な夢を見たな」とか「怖い夢だったな」とか、夢としての認識しかなく、それも時間と共に薄れていくので、特に学自身の身体や生活に影響するものではない。
 
 私たちの任期は4年間で、閏年の2月29日に新しいメンバーと交代する。私は学の体を離れ、集結場所に4年間の研究データを持って、簡単な引継ぎをして母星へ帰還することになっている。
 我々の母星は地球から443光年離れた、プレアデス星団の中にあるアルキオーネ星だ。ここ地球からも青く光るアルキオーネ星を見ることが出来る。
 集結場所は日本のほぼ中心にある伊勢神宮の内宮である。天照大神が祀られているが、天照大神は我々アルキオーネ星人の祖である。
 天照大神は日本書紀に記されているように、太陽神として日本の地に降り立ち、日本人の信仰心と共に、その存在は日本人の精神世界で広く根強く浸透している。天照大神降臨以来、我々は定期的に研究者を送り出し、地球人を見守り研究し続けているという訳だ。
 
 私の研究対象となった学は今の日本において、平均的な思想を持ち、行動の特徴も平均標本としては理想的だった。
 学は一般的にさとり世代(Z世代)と言われる若者で、バブル世代の両親に育てられ、バブルが弾けたその後の厳しさを幼い頃から肌で感じて育ってきた。そのせいか、自分を犠牲にせず、仕事や勉強よりプライベートの充実に重きを置いて行動し、情報を大切にし、自分らしさを強く求める傾向がある。
 情報過多の世の中にいて、成功例を多く見聞きすることで、周りの人間と比較し劣等感を抱きやすく、目立つことを嫌う傾向にある。押し並べて目の前の課題には消極的で競争を好まない。ただグローバル化が進んだ現代において、学も国際的な視野を身に着けている。平和主義で争いを好まず、コミュニケーション能力は高い。

 我々の活動は日本だけにとどまらず、仲間は全世界に散らばって活動を続けている。各国の庶民の中に混じり、私と同じように研究や実験を積み重ねてきたに違いない。
 いよいよ帰還の時が迫ってきて、学には夢の中で別れを告げた。もちろん学本人は、夢としか認識できていないはずで、すっかり忘れてしまっているだろうが、潜在意識の中にいる学は、私に対して「自分の事を忘れないで欲しい」と別れを惜しんでくれた。4年間という短い間だったが、以心伝心で学の苦楽を感じ取っていたから、私としても名残惜しい。
 
 学に別れの言葉を贈るとしたら、これからさらに貧困問題や少子高齢化社会、ジェンダーレス、自然環境問題など、様々な難問が押し寄せてくるだろうが、社会は変わらないと諦めるのではなく、個性や多様性を尊重した目線で、自身の幸福を追求して欲しい。

 さあ、地球とも別れの時が来た。
 伊勢神宮内宮に集結した我々研究者は、久々の帰還だ。皆それぞれ研究データを持ち寄り、新たな潜入者である者たちと儀礼的な会議を終えた。青く美しい地球も、次第に赤茶けた息苦しい星になりつつある。我が母星であるアルキオーネは自然豊かで、アルキオーネ人の幸福度も地球人のそれとは比べ物にならない。今の地球がアルキオーネのレベルまで到達するには、まだまだ長い年月を必要としてるはずだ。
 果たしてそれまで地球が保っていられるかどうか?
 ともあれ、私の任期は終えた。さらば地球。
 これからは443光年離れた、アルキオーネから見守ることとしよう。


 

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このお題を見て、初めて今年が閏年だったことに気付きました💦
そういえば今年はオリンピックがあるしと、カレンダーを改めて確認した次第です。
閏年というお題で、4年に一回というワードが頭から離れず、絞り出そうとしても何にも出てこなかったです(笑)
なので読み手の想像力を期待して、SFチックに書いてみました。
皆様、暖かい目で読んでやってください(笑)

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