『地球最後の日見学ツアー』(シロクマ文芸部)
最後の日がとうとうやってきたのか。
「ねぇ、どうする?行ってみる?」と友人のサーヤが連絡してきた。
ここから遠く離れた地球が、3か月後、巨大な隕石に衝突して消滅することが分かったと報じられた。人類のふるさとである地球が消滅してしまうショックと、そのニュースの大きさから、世界中がこの話題でもちきりなのだ。そして地球最後の瞬間を、肉眼で見学できる位置まで、宇宙船に乗って行くというツアーまで人気になっている。サーヤはモニターで見るより、断然肉眼でみたいし、最後の瞬間を目に焼き付けたいといって興奮気味なのだ。
「早く申し込まないと定員オーバーになってしまうわよ」
人類は西暦2500年に地球を捨てた。
捨てたというより、人間が生きていける環境を失ってしまった地球を、諦めるしかなかった。その昔、地球人がノアの箱舟に乗って地球規模の大洪水を逃れたように、人類は7800万㎞離れた火星移住計画を実行したのだ。
火星には巨大なドーム状のコロニーが目的別にいくつも作られ、私とサーヤは農業を主な目的としたドームに住んでいる。
火星の地表の平均気温は-43℃程度しかなく、真空状態なので酸素もないが、ドームの中は人工的に酸素も作られ、人口太陽も備え付けられているので、ほぼかつての地球と同じ条件で植物を育てることができている。
「モニターでも見られるんだし、見学に行く必要ないじゃない」私は興奮気味のサーヤを落ち着かせるように、静かに答えた。
人類が火星に移住してから約300年がすでに経過していて、私たちには地球にいた頃の記憶など残っていない。ただ火星移住記念セレモニーの日には、人類の歴史として様々な方法で知ることになる。かつての地球で犯した人類の過ちや、どのようにして地球が美しい青を失ったのかを、二度と繰り返さぬように悔恨の日となっているのだ。
サーヤは私を誘うことを諦めて、『地球最後の日見学ツアー』を申し込みに出かけて行ってしまった。
私はこれから春植えの野菜の種を植えるところだ。
かつての地球には、スヴァールバル世界種子貯蔵庫、通称「種子の方舟」と呼ばれた地球上の種子を冷凍保存する地球最大の施設があった。その存在のおかげで、ここでも地球にいた頃と同じ野菜や果物を食べることが出来ている。今日はトマトと人参と大根を植える予定で忙しい。
―――3ヶ月後。―――
地球最後の日見学ツアーに参加しているサーヤからメールが届いた。
「衝突の衝撃が激しいらしく、あまり近づけないみたい。それでも地球が見えるし、隕石も接近してきた。もうすぐだよ」
私はトマトの収穫をする手を止めて、人口太陽のスイッチをOFFにし、ドームの中から真っ暗な空を仰いだ。ぼんやりとだが青く光る地球が見えた。反対側から隕石が衝突したのか、一瞬大きく光り瞬きながら消えていった。
ひとつの星が消えた瞬間だった。当然だが衝突の音も聞こえず、静かな最後だった。
私の手にはひとつのトマトが握られていた。赤くて艶やかなトマトだ。
このトマトには確かに地球のDNAが刻み込まれている。私たち人類にも同じように地球にいた頃の地球人と同じ血が流れているはずだ。
どこで生きようと、私たちの肉体も精神も大きく変わることはない。相変わらず野菜や肉を食べるし、一日の約3分の1は寝て過ごす。医療は飛躍的に進歩し、人類の平均寿命は100歳を超えたが、不老不死には到底手が届かない。私たちは様々な事柄を前世代から受け継ぎ、様々なものを次世代に託して消えていくのだろう。
隕石に衝突して宇宙の霧となった地球も、私たちに託したものがあったはずだ。それは、この手の中にあるトマトだったり、あるいは私たちの中にある生命力だったりするのだろうか。
星がひとつ消えた空を眺めながら、私は甘く瑞々しいトマトをかじった。
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シロクマ文芸部の小牧様。そして参加者の皆様。
よろしくお願いいたします。
「最後の日」というお題を見た瞬間に、思い浮かんだのが地球最後の日でした(笑)
おそらく『宇宙戦艦ヤマト』のアニメを観ていた後だったので、SFチックな内容になったのだと思います。
天体の専門知識がないので、ところどころに矛盾があると思いますが、フィクションなので許してください🙇
2023年は私にとって飛躍の年となりました。
こうして小説を書くようになっていようとは、思いもしないことだったので、自分でも驚きっぱなしです。おそらくこれが今年最後のnoteの更新となると思います。こんな稚拙な小説が締めくくりでいいのか?(笑)
2024年が皆さんにとって、幸多き年となりますように。
そして、来年も変わらぬお付き合いを願いつつ、
皆さん、良いお年を(@^^)/~~~
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