すれ違い(#シロクマ文芸部)
「春と風という漢字を使って文章を作りなさい」
これが今日の宿題だ。
今日は水曜日だから、学校から帰ってきたら宿題を済ませて絵画教室へ行かなくちゃいけない。絵画教室は午後5時から。もうすぐママも帰ってきて一緒に出掛ける。それまでに絵画教室の準備をしなくちゃだし、お腹が空いているから、着替えてママが準備していてくれたおやつも食べたい。
ぼくに与えられた時間は30分だ。まずは着替える。絵画教室では汚れても良いような服を着て行く約束をママとしているから、バッグの中にスモックを入れて、ママが準備していてくれた黒のトレーナーとジーパンを履く。
今日のおやつはぼくの大好きなミスタードーナツのポンデリングとフレンチクルーラーだ。ゆっくり味わって食べたいけど、時間が迫っているから宿題しながら食べることにする。ママが帰って来るまでに終わらせないと、ママの機嫌が少し悪くなる。
春と風。
春と風かぁー。このポンデリングで文章を作れないかな。
「春のようなドーナツに風がふいた」
「春のあじがするドーナトに風がふいた」
「春の風がふいたからドーナツをたべる」
うーーん。なんか違うな。
「ただいまー、準備はできてる?そろそろ教室へ行くよ」
ママが帰って来た。
「宿題がまだなんだよ」
ママが着替えている間に宿題を済ませなくちゃ。
ママは花粉症でさっきからくしゃみが止まらないみたい。
「かふんしょうのママは、春の風がふくとくしゃみがとまらなくなる」
これでいいや。
「ママー、宿題できたよー」
宿題が出来て、予定通り絵画教室へ出掛けることが出来た。
今日の水彩画の課題は『春』
学校でも絵画教室でも、誰もかれもみんな、春がそんなに嬉しいのかな?
今日は雄一くんから、学校から帰ったら一緒に遊ぼうって誘われたけど断った。
明日は木曜日で公文の日だ。金曜日は水泳教室。
ぼくには特に季節は関係なく、繰り返しの毎日が過ぎていく。ママはぼくが頑張っていたり、楽しそうにしているのを見るのが嬉しいと言っていた。
ぼくはママが、そんなぼくを見て幸せそうに笑うのを見ていたい。
だから頑張るんだ。ママに喜んでもらうために。
早く春が過ぎて、ママの花粉症が治るといいな。
春らしいさわやかで弾むような文章が書けたらいいなと思いながら、課題の『春と風』に向き合ったつもりだったのに、小学2年生の男の子を主人公にしたら、ちょっと切ない内容になってしまいました。
幼い頃は純粋に大好きな母親に喜んでもらいたい気持ちから頑張っている。
数年前まで、電話育児相談員をしていた経験から、こうした親と子の気持ちのすれ違いから、徐々に大きな問題を抱えてしまった親子と、嫌というほど接してきました。それはお互いの愛情のカタチが違うからなのか、それとも愛情の表現が違うからなのか。
でも親子だからこそ克服することもできるはず。
私はそう信じています。
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