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創作童話:大切なさがしもの

広いお庭の小さなおうちに、ララという茶色の犬が住んでいました。
ララはお花が大好きで、一年中お庭にお花をかせて幸せにらしていました。そのお庭には黄色のギムと青色のポムという大切なお友だちもいっしょに住んでいます。ギムとポムはお花の妖精ようせいで、だれにでも姿すがたが見えるわけではありません。
お花が大好きな者にしか姿を見せない、小さなお花の妖精ようせいなのです。

ある日の朝、ララが目をましてお庭に出てみると、いつもお庭で待っていてくれるギムとポムがいません。
天気の良い日はいつもギムとポムとお庭で遊ぶのですが、どこへ行ってしまったのか、いつまでたってもギムとポムは姿すがたを見せませんでした。
ララは二人がいないと、つまらなくてさびしいし、心配でごはんものどを通りません。
ララはいてもたってもいられず、ギムとポムをさがしに行くことにしました。

お庭の近くを流れる川沿かわぞいをさがしながら歩いていると、散歩さんぽの時、いつもあいさつしてくれる、トラ猫のチョットさんに出会いました。
ララはさっそくチョットさんに「ギムとポムがいなくなってしまったの どこへ行ってしまったのか知ってる?」とたずねてみました。
チョットさんは、おいしい魚を思いうかべるような顔をして「それはおいしいの?」と言いました。チョットさんはお花が好きというわけではないので、ギムとポムの姿すがたを見たことがなかったのです。
「いいえ、私の大切なお友だちなの 今朝からいなくなってしまったの」
チョットさんはちょっとがっかりした様子で、こう教えてくれました。
「川に落ちて流れていってしまったのかもしれないよ。下流をさがしてみなさいよ」
ララは言われたとおり、下流をさがしてみることにしました。

ララとチョットさんの話を聞いていた、有閑ゆうかんマダムを気取っているマダム・フランソワさんが、イライラしながら言いました。
マダム・フランソワさんは、長くて白く美しい毛並けなみをしているペルシャ猫です。
「そんな妖精ようせいなんて、どうでもいいじゃありませんか。川に流されたのなら、今ごろきっと魚のエサにでもなっていてよ」
そう言い終えると、自慢じまんつめの手入れをしに帰っていきました。
ララはますます悲しくなるのでした。

ララの落胆らくたんした様子を見て、ボス猫のぶたぬきがささやきました。
「かぇーそうになぁ。ペルシャ猫なんて結局けっきょく自分の事しか考えちゃいねぇんだ。この間なんか、魚屋のアジを手土産てみやげにしてやったのに、シッポで顔をでただけだぜ。ふざけやがって。ここはひとつ、おいらが一肌脱ひとはだぬいでさがしてやるぜ!」
ぶたぬきはそういうが早いか、重い体をゆっさゆっさとらしながら、走り去っていきました。
ぶたぬきはお花が好きというわけではないので、ギムとポムの姿すがたを見たことがないはずです。
ララは、大丈夫かなと、少し心配になりました。

とぼとぼと川の下流に向かって歩いていると、ララに声をかける犬がいました。声のする方を見ると、いつも礼儀れいぎ正しい健一けんいちくんです。
健一けんいちくんは大きな体のゴールデンレトリーバーで、とてもやさしい男の子です。
「友だちのギムとポムがいなくなってしまったの。私のことがきらいになってしまったのかしら?」
健一けんいちくんもチョットさんと同じように、お花が好きというわけではないので、ギムとポムのことは知りませんでしたが、少し考えてからこう言いました。
「きっと大切な用事があるのでしょう。ぼくのご主人様も大切な用事で出かけて留守るすにすることもありますが、ちゃんと帰ってきてくれます。ギムとポムも用事がすめば、帰ってきますよ」
それを聞いて、ララは少し安心しました。
でもやっぱり、ギムとポムの事が心配しんぱいなので、川の下流をさがしてみることにしました。

川沿かわぞいをさがしながら歩いていると、イヴちゃんに出会いました。
イヴちゃんは黒い毛並けなみをした小さな犬で、ララとは散歩仲間さんぽなかまです。
イブちゃんはララを見つけると、シッポをって「いっしょに遊ぼう」とってきました。
でも、しょんぼりしているララの様子を見て、心配そうにララの顔をのぞきみながら、話を聞いてくれました。
ララは、今までのことを、すっかりイブちゃんに話すと、気持ちが楽になりました。そして「公園の高いすべり台の上に登ったら、広いところまで見渡みわたせてさがしやすいんじゃない?」と、すばらしいアイデアも考えてくれました。
ララは勇気ゆうきを出して、さっそくためしてみましたが、すべり台に登るのがこわくて、足がブルブルふるえだしました。心臓しんぞうもドキドキしています。
ララは自分がなさけなくなって、とうとうき出してしまいました。

公園のベンチにすわって、ララはすっかり途方とほうれてしまいました。
これから向かう下流へは、今まで一度も行ったことがなかったからです。
なみだが次々とほほをつたって流れました。おなかもすいてきて、くじけてしまいそうになりましたが、ギムとポムとの、楽しい生活を思い出し、ふたたさがしに行く決心をしました。

川の下流を行けば行くほど、道のりはけわしくなっていきます。時々、川の中をのぞいてみますが、ギムとポムの姿すがたはみあたりません。
でもララは、二度とくじけたりしませんでした。きっと見つかると、かたく心にしんじていたからです。

川幅かわはばが広くなり、河口かこうが見えてきました。
ララはとうとう海にたどり着いてしまったのです。
ギムとポムは川に流されて、海の波にのまれてしまったのでしょうか?
魚のエサになってしまったのでしょうか?
砂浜すなはませるなみをよけながら、ララは一生懸命いっしょうけんめいギムとポムをさがして「ギムー、ポムー」と大きな声で何度も呼びました。

海に夕日がしずみそうです。
あたりはすっかり暗くなってしまいました。おきの方で海鳥がララに向かって「よそ者はもう帰れ」「もう帰れ」と口々くちぐちさけんでいます。
今日のところはあきらめて、明日もう一度出直してくることにしました。
体はクタクタにつかれていましたが、どうしてもさがし出したい気持ちでいっぱいなのです。

ふらふらと、ボロボロの体を引きずりながら、ララはやっとの思いで家に帰ってきました。
すると、どうでしょう!
裏庭うらにわ花壇かだんで、ギムとポムが遊んでいるではないですか!
「ララ、お帰りなさい」と、元気な姿すがた出迎でむかえてくれました。
どんなにかララはよろこんだでしょう!!
うれしくて、うれしくて、うれしくて、うれしくて
思わず「よかった」と、大きな声でさけんでいました。
ギムとポムは、裏庭うらにわいているコスモスを見せながら「きれいでしょう。秋になってやっといたのよ。早くララに見せたくて、ずっとお世話をしていたの」
ララは裏庭うらにわのコスモスの事を、すっかりわすれていました。
暑い夏が終わり、もうすぐきそうなコスモスを、ギムとポムは、大好きなララに一番に見せたくて、ずっとお世話をしていたのです。

ララは大切な友だちを心配するあまり、遠くばかりをさがしていたようです。
大切なたからものは、案外あんがいすぐそばにあったのですね。

ララは大好きなギムとポムをきしめて、幸せな気持ちでいっぱいになりました。

ところで、
一肌脱ひとはだぬいでさがしに行ったぶたぬきは、今ごろどうしているんでしょうね?


おわり。

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いつも仲良くしていただいているジェーンさんやRyéさんが、次々に素敵な創作童話を書きあげているのを読んで、とても羨ましくなりました。

まだ間に合うのなら私も書いてみようと、今日は一日中ソワソワと落ち着かなく、ストーリーを考えながら仕事をこなしていました💦
子ども部屋に飾ってあったララの水彩画を思い浮かべながら『大切なさがしもの』を書きあげました。
この水彩画は、以前飼っていたララをモデルに、友だちが描いてくれたものです。
表情がそっくりで、こうした形で日の目に出すことができて感無量です。

誘ってくださったジェーンさん、Ryéさん。
ありがとうございました。
とても楽しく書くことができました。


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