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PGTとカウンセリングについて

PGT-Aは現在臨床研究中ではありますが、保険診療の開始とともに、先進医療Bの振り分けをされたあと、まだ正式に承認非承認の話もあがっておらず、現実的には12月の臨床研究の期間が来れば、一時的にできなくなる可能性も高いことが予想されます。

そんな中、日本産科婦人科学会の勧告などを省みずに、積極的にPGTを行う施設も都内で現れました。
これにより、日本産科婦人科学会は厚生労働省に要望書を出すなど、かなりバチバチとした空気感になっています。

PGTとは何者で、なぜ慎重になる必要があるのか。
そうしたことについて考えてみたいと思います。

日本の最大の障壁は「倫理観」

日本には日本の倫理観があり、技術だけがあればいいというものではありません。

倫理的な観点から、その治療を行うべきかを考えていく倫理審査委員会という仕組みや、治療を受ける前に、プラスの面ばかりではなく、マイナスの面も視野にいれた情報提供を行うことが必要となります。

ましてや、PGTという技術でごまかされがちですが、担当する施設や技術者による成績の格差があります。
これはつまり、
「本当は産まれる能力のあった受精卵を壊してしまう/捨ててしまう」
リスクがあるということにもなります。

このため、患者さんが、お金がかかっても良いので何でもやりたい、ということで、はいどうぞというわけにはいかないのです。

海外での先行研究

今回は、先行する海外でのPGT-Aの現在についての論文を紹介したいと思います。

PGT-Aの必要性とカウンセリングについて、今回紹介するのは以下の論文です。

Lauren A Murphy et al.,Hum Reprod. 2019 Feb 1;34(2):268-275.

今回の研究は、2014年12月から2016年9月までの最初のIVFサイクル(N = 300)のPGT-A とコントロール群300人、合計600人の患者を対象としたコホート研究です。

これによると、PGT-Aを行った群では、採卵あたりの生児獲得率では有意な差を見出さなかったが、移植当たりの生児獲得率では有意に高い結果となりました。

特に38歳以上の患者群となると、移植当たりの妊娠率において、

49.4% vs. 69.1%(PGT-A群)

という結果となりました。

また従来通りの結果ではありますが、こうしたことから、妊娠成立までに必要とされる胚移植回数を短くすることが可能と考えられています。

一方で、38歳未満の患者さんを対象とした場合、PGT-Aの有効性はさほど大きなものではなくなってきます

このような結果をもとに、患者さんに対して、
適切な情報の提供と整理(カウンセリング)を行い、患者さん自身の意思で納得のいく選択ができるようにすべきであると述べられています。

この研究における重要な点はいくつもあると思いますが、あえて絞って言えば、

PGT-Aといっても、万能ではなく、効果のある方、ない方がいるということ

検査をするということは見なくてもよいものまで見るという可能性を秘めていること

医療者も患者さんもそうした複雑であいまいな情報を一緒に受け止め、考えていく必要があること

ではないかと思います。

PGT-Aが適応となるのは、遺伝疾患を持った方ではありませんので、必ずしもすべて遺伝専門医が行うのが良いとは思いませんが、生殖医療専門の医者、看護師、カウンセラーなど多職種での連携で行うのが理想的と思います。

ここでのメインは情報提供なので、一般的に言われるカウンセリングと少し異なるものだと思っています。僕はカウンセリングは「聞く」こと、情報提供は「話す」ことがメインだと思っているので。

PGTさえできれば妊娠できると考えるのもおかしな話です。
PGTという技術を本質的に医療者や施設がうけとめ、それに必要なリソースを持っている。そしてそれを実施できている。
それが患者さんにとって良い施設になるための条件ではないかと思います。

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