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【読書レビュー】点と線/松本清張

わたしは以前、15年ほどヨガの講師をしていました。
今は、ヨガ講師としてはやり切ったように感じていて
いわゆるヨガの体操を教えることはしていないのですが、
月に一度オンラインでヨガの本を取り上げた講座をしています。

先日の講座は「ラージャ・ヨーガ」という
100年ほど前にアメリカでインドのヨガ行者が講演したものを
書き起こした本を取り上げました。

ここにヨガ行者が守る戒律が出てきます。
戒律は、禁戒という「やってはいけないこと」と
勧戒という「やるべきこと」があります。

ヨガ講師をしていたときに、
わたしはある総合病院の
新人看護師研修で講義をしていました。
早期離職者を防ぐための
「心が折れないための講義」でした。

そこでわたしはこの戒律を
看護師の卵さん達にご紹介していました。

この勧戒の中に
「聖典読誦」
聖典を読みなさい、というのがあります。
聖書やヨーガ・スートラ、
バガヴァッド・ギーターなどの
経典や聖なる書物を読みなさい、ということですが
現代の日本に生きるわたし達にとっては
たんに「本を読みなさい」と解釈していいでしょう。

看護師は、自分や自分の両親や祖父母よりも
年上の患者さんだったり、
患者さんのご家族の方々と関わりますし、
何よりも人さまの生死に関わるお仕事です。
20年前後の自分の人生しか知らないというのでは
あまりに頼りないですよね。
興味の引かれたものならなんでもいいので
自分以外の人の人生や考え方に触れてほしいと
お話ししていました。

さて、松本清張です。
昭和を代表する作家です。
推理小説です。
純文学よりは読みやすいですね。
そして、ただたんに誰かが誰かを殺したという
単純な話で終わらないところもいいです。
必ずその時代背景や社会情勢が描かれています。
それと同時に、どんな時代でも変わらない
人間の性(サガ)も描かれています。
エンターテイメントとして単純に楽しむもよし。
戦後の日本の、がむしゃらなエネルギーを感じるもよし。
あのご年配の方々は
若いときにこういう時代を
生きてこられたんだなぁとしみじみするもよし。

「点と線」はアリバイ崩しものであり、
列車の時刻表もの(伝わりますよね?笑)でもあります。
わたし、数字が苦手でこういうの
頭がこんがらがるんですけど、
まぁその辺は読み流して( 苦笑)
現場に何度も足を運び、
犯人の心理を考察したりと
体も思考も時間も労力もかけて
コツコツと真実に近づいていくストーリーを追うのは
スリルがあって楽しい。

「点と線」は松本清張にとって初の長編作品、
出世作ということで
映画やドラマにもなったことがあるようですが、
(松本清張は映像化向きですね。
昔から今に至るまで本当に何度も
映像化されています。
そして質の高いものが多いです。)
今オンラインで観れるものがなかったので、
「帝銀事件」を代わりに観ました。

「帝銀事件」はわたしが子ども時代から
関心を持っている事件のひとつで
(どんな子ども?笑)
松本清張が書いたものと
それを映画化したものがあります。
帝銀事件についてご存知ない方は
各自でググっていただくとして、
昭和23年に起きた事件です。
あ、わたしの母が生まれた年だ。
戦争が終わってまだ3年です。

映画では、エアコンのない
真夏の刑事室の真ん中に
大きな氷柱と扇風機が置かれ、
刑事たちは胸のポケットに鉛筆を
むき出しのまま突っ込み、
ビリビリに破れた封筒に
メモ帳として使う
わら半紙を入れて持ち歩いていました。
帳面として装丁されたものではなく
ただの紙の束です。
そこに聞き込みのメモを書き込むのです。
カバンもペンケースも
万年筆すら持っていません。
物がない時代に
懸命に生きている人たちを見ていると
胸がしめつけられるようでした。
この時代の日本人のがんばりの中には
今振り返れば
良いことも悪いこともあるでしょう。
でも、あの物のない時代、
みんなが高度成長期にまっしぐらに進む中で
開発のまだ進まない、
空襲で半分壊れた建物に
ひっそりと
隠れるように肩を寄せて暮らす帰還兵たち。
わたし達の今の便利な暮らしの背後に
こういう時代があったんだなぁ。

松本清張の作品には、
エネルギッシュな社会の先頭に立つ活気ある人々と、
その後ろに追いやられた人々の両方が
必ず描かれているような気がします。
そして、そこが魅力なのかなと思います。
とにかくわたしはこの時代を描いた小説が好き。
若者の話し言葉も今と違っているのがおもしろいし。

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