【感想】零 〜月蝕の仮面〜
みなさんこんにちは、うぇんずでいです。わたしは配信内外で様々なゲームをプレイしていますが、その感想を語ろうにもSNSの文字数制限ではとても収まらない。ならばこの note ことインターネットの文壇に、その一部を書き溜めておこうと相成ったわけです。
さて、今回プレイしたゲームは『零 〜月蝕の仮面〜』。和風ホラーゲームの代名詞である『零』シリーズ、その第4作目がリメイクされたタイトルだ。販売元はコーエーテクモゲームズである。以下、核心的なところは避けるものの、ネタバレが含まれるので注意。プレイ画面も載せるので、ホラーが苦手な人は覚悟を決めるように。
怨霊だらけの孤島
まずは、本作のストーリーを軽くなぞってみる。日本のどこかにある孤島、朧月島では朧月神楽という伝統儀式が行われていた。その儀式の最中に、五人の少女が行方不明になる事件が発生。この子達はある刑事によって発見されたものの、ほとんどすべての記憶をなくしてしまっていた。救出されたあと、少女たちはみな新しい人生を歩んでいたが、行方不明から10年たったある日、そのうちの二人が不審死してしまう。「なくした記憶の中に原因があるかもしれないぞ」ということで、残された少女たちは朧月島へと記憶探しにおもむく。たどり着いた朧月島は、住民全員が不審死していた上に、右も左も怨霊だらけ。少女たちに縁のある病院も、すっかり廃墟となっていた。プレーヤーは彼女たちを操作して、その廃病院を探検することになる。
また、少女たちはこの危険そうな孤島へと、わざわざ真夜中に乗り込んでいる。「昼間に来れば、もう少し安全に記憶探し出来たのでは?」と誰しもが思うだろう。17歳の女の子だということを考えると、あまりにも危機感がなさすぎる。おまけに三人まとまっていくわけでもなく、二人と一人の2チームに分かれて上陸するのだ。各チームが持ち込んだ装備品は、懐中電灯一本のみ。1980年代という時代設定を考慮しても、ポケベルやら食用やらあるだろう。江ノ島にいく当時のアベックだって、もう少しなにか持ち込んでいたと思う。
朧月島を甘く見ている少女たちには、早々に罰が下る。二人で乗り込んだチームの一人が、物語序盤で怨霊に呪い殺されてしまうのだ。ということで、基本的にプレーヤーは無人の廃墟を、ひとりぼっちで歩き回らなくてならない。でも安心してほしい。怨霊ならそこらかしこにいる。けっして寂しくはない。むしろ一人にしてほしいくらいだ。
これが分かれば朧月島民
月蝕の仮面には様々な特殊用語とキャラクターが登場する。本作をプレイしていない人のために、ここでは重要な部分をかいつまんで紹介しておく。プレイ済みの人は飛ばして構わない。
用語
キャラクター
脆弱な肉体と強力な対抗手段
物語が始まり、一人の哀れな犠牲者が出ると、いよいよも本格的なゲームプレイが始まる。最初におどろいたのは、主人公たちの低い身体能力だ。まず走るのが遅い、あまりにもスロー。早歩きと考えても遅いくらいだ。旋回スピードまで遅いせいで、否応なくジリジリとした探索になる。また、怨霊につかまれただけで体力ゲージの三割近くが失われるため、油断していると簡単に瀕死になる。廃墟に行くってのにオシャレ着とパンプスでキメてくるから、こんなことになるのだ。
しかし、プレーヤーはすぐに強力な武器を手に入れる。それが射影機と呼ばれる特殊なカメラだ。これは一見古めかしいポラロイドカメラだが、強力な除霊機能を有しており、ファインダーに収めてシャッターを切るだけで怨霊にダメージを与えることができる。まさにハイテクだ。おまけに、怨霊がどこから攻撃してくるかを教えてくれる、ソナーのようなオマケ機能もある。そのほか射影機はゲームプレイ中にカスタマイズすることができて、必殺技をくりだす専用レンズをつけたり、除霊能力や撮影範囲を向上させることもできる。最後までお世話になる、まさに相棒であり、ひとつの武器を使い込むプレイフィールは独特な面白さがあった。
忘れてはならないもう一つの武器は、主人公らしい強靭なメンタルだ。真夜中の廃病院という、一般的な恐怖心を持っている人なら間違っても近づかない場所に乗り込むだけのことはあり、流歌も海咲も怨霊が出た程度ではピーピー言わない。プレーヤーが飛び上がるようなジャンプスケアに対しても、「キャッ」程度の反応しか返さず、びっくりするくらい肝が据わっている。今にも取り殺さんとする怨霊を前に、手ぶれさえせず射影機を構える冷静さは、こちらが狩る側だといわんばかりだ。ストーリー中でいかに悲しい過去が明らかになろうとも、ブレることなく歩を進める彼女たちのメンタルは、まさに鉄壁であり、ある意味射影機よりも頼もしかった。
和風ホラーがここにある
射影機を手に廃病院をウロウロしていると、主人公たちは次第に記憶を取り戻し始め、プレーヤーにも過去の朧月島がどのような場所だったか見えてくる。流歌たちはかつて、月幽病という不治の風土病を患い、この病院に入院していた。入院当初は症状も軽く、同年代の友達と遊んだりしていたようだが、症状が深刻化すると、非合法な実験治療が多数ほどこされることになった。それからは、なかなかに苦しい日々を過ごしていたことがわかる。
こうした当時の様子は、ゲーム中で手に入る補足文書により明らかとなる。文書は看護婦の報告書だったり、患者のカルテだったり、関係者の手記だったりと様々だ。精神病患者に向き合う看護婦の本音には生々しさがあるし、院内には一筋縄ではいかない人間関係が満ちていたようで、病院の過去にリアリティを持たせている。また怨霊たちも、生前は月幽病におびえて過ごしていた犠牲者だった。事情が分かると、憎い敵がむしろ可哀そうにすら見えてくる。こうした一連のストーリーテリングは、和風ホラーの魅力をうまく取り入れていると感じた。
最終的には、島を怨霊だらけにした当事者たちにも、いろいろと事情があったことが判明する。たとえば、違法治療を率先していた院長である灰原重人も、最初からマッドサイエンティストであったわけではない。彼は過去に妻を月幽病で失っている被害者でもあった。妻の死に重なるように、娘であるまで朔夜まで月幽病を発症したとあっては、治療法確立に固執するのも無理ない話である。風土病であることも相まって、この治療法探しは徐々にオカルト色を増していき、最終的には過去に封印された儀式である帰来迎と結びつく。そして島に大惨事をもたらすのだ。
手に入る断片的な情報を組み合わせて過去へと迫っていく、こうしたプレイフィールは非常に小気味よい。ホラーアクションではなくホラーアドベンチャーとして本作を確立させている、大きなポイントだ。特に流歌と朧月島の関係が明らかになるにつれて、『ホラースポットにわざわざ迷い込んだ少女』という物語の構図が、『悲劇と決着をつけるために舞い戻った宿命の巫女』へと変貌していく過程は、実に巧みだ。ゲームをプレイし続ける強いモチベーションになったのは間違いない。
最高に怖いくて十分に親切
恐怖とは一種のストレスであり、ストレスとプレイフィールとのバランス調整は、ホラーゲームにおける一番の勘所である。先にあげた走るスピードがその一例だ。主人公たちの動きはたしかに緩慢で、それもあって怨霊に追いかけられる場面では、強い恐怖と焦りを感じる。しかし、それを補う強力な武器と、ある程度加減した頻度で攻撃してくる怨霊たちのおかげで、理不尽さまでは感じない。このように月蝕の仮面では、プレーヤーに余分なストレスなく、純粋に恐怖を体験してもらうための工夫が盛り込まれている。
その一つが、射影機を中心とした戦闘システムだ。カメラで怨霊を撮影することによりダメージを与えるこのシステムは、プレーヤーに怨霊を直視するよう強制する。恐怖から逃れるには、一度勇気をもって立ち向かう必要があるのだ。優れたゲームは、挑戦に対して適切な報酬を与えるもので、もちろん本作も例外ではない。怨霊がプレーヤーに襲い掛からんとする瞬間を撮影することできれば、カウンターヒットのようなボーナス判定が付き、怨霊に多大なダメージを与えることができる。射影機自体の取り回しも良好で、敵をファインダーの中央に固定するロック機能や、高速で旋回するモードもある。特殊なレンズを介した撮影はさながら必殺技で、それを駆使するころには、怨霊を夢中になって撮影している自分がいた。また、射影機で撮影した写真たちを後で見返すこともできる。それぞれの写真には、どのくらい上手に撮影できたかという判定がダメージ量として記録されているため、そこにやりがいを見出すこともできるだろう。撮影時にのみ一人称視点になるのも、怨霊と向き合う際は臨場感を高め、逃げる際は周りを確認しやすくなる、いい塩梅だった。
戦闘パートと探索パートがはっきり分かれているのも本作の特徴だ。敵である怨霊が出てくると、基本的に部屋の出入り口が封鎖されて、プレーヤーは戦闘パートに突入したとすぐにわかる。まれに閉じ込められないパターンもあるが、そのときはスルーしていいと即座に判断できるわけだ。また、探索パート中に敵に追いかけられるようなシーンがないのも、ホラーゲームとしてはかなり珍しい部類だろう。敵に追われながら中途半端に探索して、キ
ーアイテムや強化アイテムを取り逃してしまうようなわずらわしさは全くない。これにより、プレーヤーは廃病院という絶好のホラースポットを余すところなく捜索して、失われた朧月島の真実を探すことができるのだ。「敵に追われないなら怖くないんじゃないの?」と思う人もいるだろうが、そんなことはない。頻出する浮遊霊や地縛霊に不安定なBGMが合わさって、緊張感が途切れることは一瞬たりともない。絶妙な頻度で配置されているジャンプスケアには、心臓が跳ね上がる体験ができるだろう。
ホラーゲームではお約束の、倒せない敵に追われる場面が本作にもある。そういうときには、画面がモノクロのノイズだらけになるのでわかりやすい。説明がなくとも本能が逃げろと警鐘を鳴らしてくる、いい演出だった。
今こそ朧月島へ行こう
ここまで読んでいる人の大半は、ゲームをプレイした人だと思う。もしあなたがそうでないなら、今すぐにプレイして、朧月島の顛末をその身で体験してほしい。ここではあまり語れなかった、長四郎の大活躍や衝撃のラスト、海咲が忘れていた切ない思い出には、心を動かされるに違いない。足元から這い上がってくるような恐怖に身をすくませながら、射影機を懸命に構えていれば、10時間のプレイスルーなどあっという間だろう。物語の終わりには、流歌がすべての記憶を取り戻す。その瞬間を彼女と共有したとき、プレーヤーにとって朧月島は、ただの呪われた孤島ではなくなっているはずだ。
ホラーというジャンルは人間の恐怖心をテーマにしており、恐怖心にはそれを抱く人の文化的なバックグラウンドが直結している。つまり、和風ホラーは日本文化を知るわれわれにとって最高のエンターテインメントに違いないわけだ。コーエーテクモは、他社IPのキャラクターをならべて草刈りさせたり、水着の女の子にバレーボールをさせている場合ではない。今すぐ零の新作を開発する大仕事に取り掛かるべきだろう。
ということで、ここまで読んでくれてありがとうございました。わたしがプレイしていた時の様子を知りたい人は、YouTube に動画をあげているので、下のリンクをチェックしてください。チャンネル登録者は常に募集中です。
〈了〉
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