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正攻法にて階段を登る CL 準々決勝 1stレグ アトレティコvsドルトムント(H) 2024.4.10

ドルトムントのスカウティングはこちら

ベストを求めるCLの舞台で、兎にも角にも目の前の勝利を求める2チームの対戦となった。今シーズン最も注目度の低い準々決勝のカードは、それと裏腹に勝てば平等に"ベスト4"が待っている。必死且つ大胆に。熱戦を期待するホームゲーム。




●スタメン

・アトレティコ
オブラク
ヴィツェル / ヒメネス / アスピリクエタ
モリーナ / ジョレンテ / コケ / デ・パウル / リーノ
グリーズマン / モラタ

エルモソが怪我で間に合わず、アスピリクエタがスタメン。公式戦スタメンは1月6日の国王杯ルーゴ戦以来。その他欠場はインテル戦でゴールのメンフィス。

・ドルトムント
コベル
リエルソン / フンメルス / シュロッターベック / マートセン
ジャン / ザビツァー / ヌメチャ
サンチョ / アデイェミ / フュルクルク

マーレンが負傷欠場。ベンセバイニもいない。
トップ下はヌメチャが先発となった。ロイスとブラントをどちらもベンチに置いたのは意外だった。WGはサンチョとアデイェミ。



●前半

・先制点に至るプレス

キックオフからエムレ・ジャンをCB間に落とすドルトムントの保持で試合開始。アトレティコはあまりにも普段通りの配置で対応。相手が後方3枚ならばインテル戦の成功体験を追いかければプレス形は固まる。

さて、主題はスカウティングでも書いたドルトムントの前後ユニット分断ビルドアップである。15試合くらい見てきたわけだが、あらためてこのビルドアップの問題点とアトレティコの設定を考える。

ドルトムントは後方3枚。1stラインの向こうに2枚。後方ユニットと前方ユニットを繋ぐ選手は実質右SBのリエルソンになるが、これはジョイントタスクというよりは"元気だから前にも後ろにもいる"という感じ。結局このチームはGKからワイドへのロブパスの逃げ道は整理されていないわけで、インテルのダルミアンのようにリエルソンの登場がビルドアップパターンに変化を生むわけでは決してない。

"CBの前向きを作って前方ユニットにパスを通すのが狙い"というのは書いた通り。ただ、問題点はCHポジションの2人があまりにも前を向く意思がないところ。いくら何でも流石に。
それが原因で、アトレティコの3CHは別にザビツァー&マートセンに距離を詰める必要がなかった。3CBもフリーで配球できない程度の距離で見張るだけで良かったので、前プレと言いつつアトレティコは特に疲れる作業はなかった。ジョレンテとデ・パウルはむしろ背中にいるサンチョ&ヌメチャに入るボールに挟んで対応する事を優先。それでも左CBシュロッターベックまで出ていけるジョレンテの走力は偉大なのだが、残念ながらアトレティコでは当たり前の光景となる。

ドルトムントのWGは右サンチョ、左アデイェミでスタートしたが相変わらずコロコロと左右を変える。ちなみに結局最後まで明確なスイッチはわからなかった。
そして本当によくGKにボールを戻す。そのためアトレティコのプレス強度は緩やかでありながらGKに戻るボールに反応して全体を敵陣深くへ動かしてエリアを支配していった。理由はもちろん、スカウティング通りワイドのリエルソン(左はアデイェミ)がGKからの逃げ道を準備する約束がないため。取れるかどうかは別として"GK追いかければ取れそう"と相手に思わせてしまう形。こういう形はプレスのやり甲斐があるわけで、わざわざアトレティコにモチベーションを準備してくれた感。
真面目な話、GKを使ったビルドアップを想定していながらワイドの逃げ道を準備していない理由があまりわからない。じゃあGKに戻さなければ良いのでは?あるいは蹴っ飛ばせばいいのでは?という感想。常に"なんか落ちていくCHに渡しそうだな"という雰囲気がありありなのでアトレティコは元気良く追いかけた。
結局、ドルトムントのこのビルドアップ形自体はすぐに修正する事になるわけだが、修正できるテルジッチ監督はリアリストで判断の早い監督だなという印象。ただ、それ以上に4分の失点は早すぎた。

失点シーンはまさにGKにボールが戻ったところから。20秒巻き戻して見てほしいが正直GKまで戻す必要のある場面なのかもあまりわからない。結局逃げ道無しでGKにモラタの圧力が掛かり真っ直ぐ落ちていったマートセンにリリース。ここをコケが元気良く追いかけてデ・パウルが狙っていた。「後ろ向きのマートセンを狙え」とスカウティングに書いた本人が言うのもアレだが、あまりにも想定通りすぎる。


・ドルトムントの修正

アトレティコは特にデ・パウルが保持のキーマンになるザビツァー周辺の強度で負けず、チーム全体の前向きな雰囲気を生み出していった。デ・パウルは23分に単独突進でジャンからイエローを引き出しており、馬車馬のように働いた。良い日のデ・パウル。
ドルトムントは7,8分頃に一度サンチョへのくさびがアスピリクエタに封鎖されたところでWGの左右を入替。サンチョが左に動いたが、足を止めた対人でモリーナがサンチョに抜かれる事は想像しにくく、ロイスのサポートがあるならまだしもヌメチャはよくわからなかった。そしてリエルソンに大外を取らせる右に移動したアデイェミは内側で窮屈そうで、ドルトムントは悩ましい環境に。

おそらくこの入替は18分頃からのビルドアップ形の変更に理由が求められる。2CH(ザビツァー&マートセン)が捕まるのなら3-2ビルドの意味がなく、4-1に形を変える。
一応アトレティコの前3枚プレスで最終ラインの前進が止まりきらなくなりハーフウェーライン付近まで押し上げる環境を作れた。これで左にいるサンチョを軸にマートセンが外側で関与する事がWG入替の理由であろう。と思ったら20分頃に元に戻ったので結局よくわからなかった。

ちなみにこのビルドアップ形の悩みはピボーテでジャンに何が出来るのかである。全体で前進は出来るようになったが、ポジトラでジャンが起点になるのは流石に無理があり、カウンターは機能しなくなっていく。失点した後にカウンターの手段を失う事とネガトラの強度を手離す事になったのはテルジッチからすると望みの展開ではない。

ビルドアップ変更の効果が如実に見られたシーン。配球者の位置が敵陣に近いので大外までパスが届く。配球者が何故か内に入ったマートセンだったので我ながら説得力が低い図である。まあ1stラインを越えられた事には変わりないのでこのシーンを取り上げた。ちなみに後方4枚だとシュロッターベックの性能が使い切れないのはこれまたドルトムントの悩み所だろう。

さて、大外への配球でアスピリクエタが大外に連れていかれる。これでアトレティコは左WBのリーノがリエルソンの上下動を見張っていればいいという環境は終わりを迎えたが、そのためのアスピリクエタ起用であり、低いクロスを執拗に擦られるような事がなければ大きな問題にはならなそうだった。5-3で構えれば良いだけ。リエルソンにはデ・パウルが出ていく。普段通り。機会はなかったがクロスが上がってきたとてゴール前の空中戦でヒメネスがフュルクルクに負ける事もあまり想像できなかった。


・アトレティコの狙いと追加点

さて、この日ドルトムントの良かった点は再奪回のプレス。アトレティコはエルモソとサウルがいないメンバーとはいえなかなか回避に苦労した。この日終始守備で圧倒していたアスピリクエタも想定以上にビルドアップに関与できなかったのは意外だった。
一応注記を付けると、ロングボール回避と裏抜けが十分に機能する試合展開だった事もありグリーズマンはあまり保持に顔を出さなかったというのは言える。蹴って追いかければ攻撃が成り立っていたので別にいいかなと。また、ジョレンテが執拗にマートセン周辺を狙い撃ち。

当社比で割と高い位置でロングボールを待ち、マートセンと競り合う形を画策した。まあ競り合ったところでセカンドボール誰が反応するねんという疑問は普通にあったが。やるだけやっとけという感じ。


アトレティコの追加点は32分。モリーナのスローインをシュロッターベックとフンメルスがジャンガジャンガしてグリーズマン→リーノでゲット。リーノはこういう場面でやけに落ち着いているのが良い所であり、リケルメと差をつけている所。ドルトムントからするとユニットのミスに過ぎないのかもしれないがこの日の2CBは初コンビですかという程の余所余所しさがあり、アトレティコからするとこれも"何か起きそう"な箇所ではあった。

この得点をきっかけに、アトレティコは自陣で構える形に変更。ドルトムントはボールを握って侵入する場面は作りつつ、どこまで再奪回に行くかは個人の裁量に依っていき、間延びする事でアトレティコのプレス回避も決まり始める。果たしてテルジッチが望む形はどれなのか、そして1stレグ後半に向けてどんな形を準備するのか。



●前半終了

パーフェクトな45分を過ごし、2-0で折り返した。リーノとジョレンテがイエローをもらった事ぐらいしかネガティブな要素がない。リーノは2ndレグ出場停止。

ドルトムントの3-2ビルドにぶつけたプレス形は概ね完璧で、4分に前プレから先制点。それ以降もドルトムントに変更を強いる強度を発揮しピッチ全体を支配していった。前進に悩むドルトムントは事前の設定ではチャンスメイク出来ず、最終ライン4人の負荷が高まる中でミスから2点目を献上したのは痛恨。ところで一切話題に出なかったフュルクルクはヴィツェル&ヒメネスに完璧に抑え込まれた。レイオフの機会すらない45分間。

ホームのアトレティコは2-0で終えるか3点目を狙うかの選択。
ドルトムントは0-2でホールドするか意地でも点差を縮めるかの選択。
試合は後半へ。



●後半

・ペースキープ

ドルトムントはヌメチャ→ブラントを交代。ヌメチャはあまり求めていた使い道は出なかった印象。

アトレティコは特にボールを持つ必要性が存在せず、大いに保持を明け渡して後半に入った。
ドルトムントはブラントとの連携とマートセンとのコネクトのためにまたサンチョが左に。52分頃までほぼドルトムントがボールを握ったが、前がかりになりすぎているのか2つの事を同時に出来ないチームなのか、再奪回が決まらなくなりアトレティコはモリーナが一発で抜け出すなど。攻撃に集中したいドルトムントに嫌がらせをするように大きなサイドチェンジを使うなどしてピッチ全体の支配をアピールしていった。こういう時間こそエルモソにいてほしいよね。


・交代策 対応確認

ドルトムントは60分にフュルクルク→アレを交代。一方アトレティコは64分にモラタ→バリオスを交代した。

今季装備したジョレンテがトップに入りつつ5-4-1に右に落ちる形に。
守備的に変更したというより、シンプルにこの形が一番カウンターが速い形なので、こうなった時にドルトムントはどんな対応をするのかを確認する時間だったと思われる。バリオスが入って極限プレス回避集団化しているので。

これに対するドルトムントの対応は、当然カウンターのリスクを極小化しながら攻撃の試行回数を増やす事になり、つまり最終ラインで保持を確立しながらロングボールを蹴っていく選択になっていく。被カウンターはなるべく避けたいので中央付近でのロストを嫌がった。

え?フュルクルクがいなくなったのにロングボール?と思いましたよね?そうなのです。それがアトレティコの狙いなのです。キモいですよね。
ちなみにロングボールを蹴らずに前進してくればジョレンテがのんびり5-4ブロックに参加して大外突破の可能性を消す守備ができているので、ドルトムントはボールを持てているのに蹴った方が確率が高そうなジレンマの時間に。

という事でアトレティコは低く構えてボールを回収。再奪回プレスを限界プレス回避ズで突破しながらジョレンテとリーノの2人でゴールに至る狙いを見せ、70分に仕留めかけるところまでいった。この時間は最初の投入がサウルではなくバリオスだった理由が明確だったので良かった。個人的にはバリオスに"再奪回プレスを脅威に感じた試合はあるか"と聞いてみたい。なさそう。

ではボールを持って押し込めるドルトムントの次の手は何かとなると、縦突破が出来るWGになる。バイノー=ギッテンスを入れた。outはアデイェミ。
75分、アトレティコはさらにチャンスを迎える。グリーズマンのFKが大外まで流れてフリーでリーノが合わせたがコベルのパラドンが出た。試合を終わらせない大仕事。このトランジションをヒメネスが野生の勘でイエローで止めたがもしかするとあんまり意味がなかったかもしれない。

80分に走り切ったデ・パウルを下げてコレア。デ・パウルはベストな出来でした。これでまたジョレンテが中盤に戻る。
コレア投入であらためて前線のプレス強度を担保する磐石の試合運びに見えたが、81分に失点した。ジャンからザビツァーに入ったくさびは完璧で、アトレティコの人数は足りていたがブラント→アレにパーフェクトなパスが通った。ワンチャンス。これは仕方ないでしょう。

この得点以降も、バイノー=ギッテンスの突破を中心にドルトムントが勢いを出し、アトレティコは可能であればもう一度保持の時間を作りたかったが2-1クローズを受け入れた。



●試合結果

ホームで1点のリードを持って試合を終えた。体感では3-0でもおかしくない試合を2-1にされた感覚は残ったが、少なくともリードできたのは良かった点。

この準々決勝180分間においてホームでプレー出来るのはあと45分だった事を考えれば、後半開始からもう少し3点目を求めても良かったとも思っている。もう一点くらいは取れそうな予感もあったし。
ただし後半の試合運びと3点目を狙う姿勢はレビューしてきた通りで、そこに違和感はない。リスクを狭小化しながら3点目のチャンスも2,3度あった。ドルトムントの1点はまさにワンチャンスだったし、CLとはそういうものなのだろう。それを差っ引いてもコントロールに走った後半に違和感はない。
プレス形は完璧に決まり、中盤のエリア支配でも圧倒。大外のクオリティでも上回った。バイノー=ギッテンスは危険だったがジョレンテに対応させる事で勢いを削いだ。
ドルトムントは最終ラインのコミュニケーションが微妙で、予想通りマートセンのリスクも表面化した。キーとなるフュルクルクのポストプレーはほぼ機会もなく、アレのゴール前の嗅覚の方がよっぽど怖かった。
ただし、テルジッチにこの状況でフュルクルクを干すのは不可能である。それで負けようものなら国内の試合にも影響しそうなので起用の序列は変えにくい。
アトレティコはカウンターで突っ走ればどこからでも抜け出せる実感も得ており、2ndレグはドルトムントがネガトラのポイントをどこに置くかが主題となるだろう。3CBみたいな普段やっていない事をやってくれると助かるが、繰り返すがテルジッチはリアリストである。手札の中から最善を導いてくるだろう。

圧倒的に試合を支配した充実感と、なのにリードが一点しかないモヤモヤは矛盾なく共存する。ただし、何も悪い点はない試合だった事は強調したいし、アドバンテージを持ってアウェーに向かえる事にも変わりはない。求めるベスト4へ。準備は整った。


4/10
シビタス・メトロポリターノ
アトレティコ 2-1 ドルトムント
得点者
【アトレティコ】’4 デ・パウル ’32 リーノ
【ドルトムント】’81 アレ


●ピックアップ選手

デ・パウル
ザビツァー相手に上回り、ピッチ全体に影響力を発揮した。先制点はハードワークのご褒美。

ヒメネス
フュルクルクを止めるタスクを完遂。マーク対象を決める優先権を握り前向きな守備陣形を指揮した。

アスピリクエタ
対人対応は完璧でリーノを前方に押し出す感覚も抜群。重要な舞台で求められた仕事が出来るのはまさに歴戦のベテラン。ビッグイヤーに導く伝道師になれるか。

ジョレンテ
どこにも隙を見せずこの日も要所で役割を果たした。裏抜けの脅威をチラつかせる事も出来て2ndレグへの布石となる。

リーノ
集中力が高くドリブルのコース取りが正確。落ち着いたフィニッシュは真骨頂で、守備面でもアスピリクエタのサポートを受けながら必要役割を果たした。2ndレグはお休み。

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